2月12日 新しい経皮的腫瘍局所削除法(2月10日号 Science Translational Medicine 掲載論文)
AASJホームページ > 2021年 > 2月 > 12日

2月12日 新しい経皮的腫瘍局所削除法(2月10日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2021年2月12日
SNSシェア

肝臓ガンの9割は慢性肝炎が合併しているため、ガン自体が手術可能と分かっても、肝機能不全に陥る可能性があると、肝臓移植以外に外科的治療の余地はない。代わりに現在では、ガンに直接針を刺して電気的にガン細胞を焼きゃくする方法が主流になっている。他にもエタノールを直接注射して、ガン細胞を殺す方法も試みられているが、焼きゃく法にはかなわない様だ。

今日紹介するアリゾナ州フェニックスにあるメイヨークリニックからの論文は、細胞膜障害分子を用いることで、現在は分が悪いアルコール注入療法に代わる、ガン局所注入治療開発を目指した全臨床試験で、2月10日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Percutaneous liquid ablation agent for tumor treatment and drug delivery(腫瘍の治療と薬剤デリバリーのための経皮的液体細胞除去剤)」だ。

この研究では、ガン内に直接投与して癌細胞を障害する溶液として、Cholin bicarbonateとgeranic acidを混ぜることで、粘性を持って長期に組織内に留まり浸透圧の低い低張液として働き、さらにgeranic acidが細胞膜の脂肪酸と相互作用して膜をスカスカにする効果が得られると着想し、この処方(LATTEと名付けている)をマウス肝臓ガンで調べている。

LATTEの至適濃度を決めた後、マウス肝臓ガンに注射すると、期待通り長期間ガンに留まり、エタノール注入と比べると、ガン縮小効果がかなり高いことがまず明らかになった。組織的にも、増殖細胞はほとんど消失し、細胞死マーカー陽性細胞が何十倍にも跳ね上がる。すなわち、アルコール注入に変わって、電気焼きゃくに匹敵する効果が得られる注入液が得られた。

次に、注入液には焼きゃく法にはない利点があることを示す目的で、ドキソルビシン(アドリアマイシン)を注入液に溶かし、細胞膜障害による抗腫瘍効果に抗ガン剤の効果を加えることができるか調べている。

まず試験管内でヒト肝臓ガン細胞をLATTEとドキソルビシンの混合液に晒すと、ドキソルビシンの細胞内への移行が2倍高まり、細胞の活動が強く抑制できることを確認している。

この上で、最後にウサギの肝臓ガンモデルで、超音波モニターによる眼内注入を行い、周りの組織をそれほど傷めないで、ガンを除去できることを示している。最後に、障害の広がりを調べる目的で、正常の豚の肝臓にLATTEを注入(LATTEにはMRI造影剤が混ぜてある)、LATTEの組織内浸透スピードが大体90分で22.8倍に達すること、これをMRIでモニターできることなどを確認し、注入液の効果が大体ガン特異的になる様計画できることを示している。

以上が結果で、実際の臨床研究はまだ行われていない様だが、需要は多く、治験もすぐに行われる様に思う。焼きゃく法と比べると単純で、しかも抗癌剤と組み合わせられる点で、結構利用が広がる様な予感がする。

カテゴリ:論文ウォッチ
2021年2月
« 1月 3月 »
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728