潰瘍性大腸炎やクローン病は炎症性腸疾患(IBD)と総称され、腸内細菌叢の乱れ(dysbiosis)により炎症を抑えるT細胞が減少していることが、粘膜損傷後の炎症を長引かせる結果発症すると考えられている。腸内細菌叢の重要性については、腸粘膜を損傷する実験系で、腸内の細菌叢を抗生物質で除去してしまうとIBDが発症する実験モデルが利用されるが、この場合、炎症を促進する側の要因については明確ではない。
今日紹介するワシントン大学からの論文は、その要因に真菌の一種Debaryomyces hanseniiが関わることを示した研究で3月12日号のScienceに掲載された。タイトルは「Debaryomyces is enriched in Crohn’s disease intestinal tissue and impairs healing in mice(Debaryomycesはクローン病患部に存在し、マウスの損傷治癒を障害する)」だ。
この研究で炎症促進要因としては最初から真菌に焦点を絞っている。抗生物質投与と粘膜損傷を組み合わせたIBDモデルに、一般の抗炎症剤を投与してもIBDを抑えることはできないが、アムホテリシンBと呼ばれる抗真菌剤を投与すると、損傷治癒が正常化し、IBDが起こらないことを発見する。すなわち、真菌が炎症促進に関わることを明らかにした。
そこでマウスのIBD病巣部の真菌について調べ、IBD発症群前例でDebaryomycesがほぼ100%を占めることを発見する。また、Debaryomycesは抗生物質処理で上昇することから、細菌叢によって通常抑えられているのが、細菌叢除去で増殖し、炎症を誘導すると考えられる。
次にDebaryomycesがIBDの原因であることを明らかにするため、正常マウス(抗生物質処理をしない)にDebaryomycesを食べさせる実験を行い、Debaryomycesだけで損傷が起こること、さらには硫酸デキストランで誘導する腸内損傷の修復が抑制されることを示している。
次に、炎症が誘導されるメカニズムを調べ、Debaryomycesがマクロファージに貪食されることで、TLR3などを介して自然免疫反応が誘導され、1型インターフェロンが誘導され、CCL5ケモカインを介して白血球浸潤が続き、修復が抑えられIBDが発症するシナリオを示唆している。
最後に、実際のクローン病患者さんの組織を培養や遺伝子検査で調べ、クローン病患者さんのみでDebaryomycesの比率が上昇していること、病巣から分離したDebaryomycesによりマウスの損傷治癒が遅れること、そしてそれをアムホテリシンBで抑制できることを示し、Debaryomycesが人間のIBDの原因になっている可能性を示している。驚くことに、患者さんの血中にはDebaryomycesに対するIgA抗体の上昇が見られ、さらにこのレベルとCCL5レベルが相関するらしい。
以上の結果は、腸内細菌叢は炎症を抑制するT細胞を誘導するだけでなく、Debaryomycesの増殖を抑えることで、腸内の炎症抑制に関わっているが、これが乱れると、Debaryomycesが増殖して、IBD発症の引き金を引くという可能性を示している。
シンプルなシナリオで、しかも様々な介入点、抗真菌剤、CCL5などが示されているので、人間で検証することは容易だろう。ぜひIBD治療の切り札を開発して欲しい。