3月20日 リンパ球が小腸での炭水化物吸収を促す(3月19日 Science 掲載論文)
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3月20日 リンパ球が小腸での炭水化物吸収を促す(3月19日 Science 掲載論文)

2021年3月20日
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昨日紹介した血液での増殖ドライバー変異が、回り回って動脈硬化を促進するといった話を読むと、なんとなく風が吹くと桶屋が儲かる話を思い出してしまう。その意味では、今日紹介するイェール大学からの論文は、さらに風と桶屋の話に近い。

タイトルは「γδ T cells regulate the intestinal response to nutrient sensing(γδT cellが小腸での栄養の感知に対する反応を調節している)」で、3月19日号Scienceに掲載された。

人間を始め、多くの動物は雑食だが、人間を除くと肉食から得られる脂肪と炭水化物、草食から得られる炭水化物が同時にバランスよく摂取されることなどまずありえない。しかも、次にいつありつけるかもしれない食物を最大限に吸収するためには、入ってきた食物の種類を感知して、それに合わせた消化を行う必要がある。

今日紹介する研究は、最初炭水化物を摂取したときに、小腸の遺伝子発現がどう変化するか調べるところからスタートしている。

炭水化物を摂取させると、期待通り小腸上皮の遺伝子発現が、炭水化物の代謝に対応できるようリプログラムされる。そして、このプログラムの書き換えは、細胞がより未熟な上皮に変化することで行われ、炭水化物摂取を止めてもその細胞は維持されるが、5日サイクルで新しい細胞へと置き換わることで元に戻ることがわかった。すなわち、普通はタンパク質・脂肪型の消化システムが、炭水化物摂取で炭水化物型に変化する。

当然この感知システムは小腸上皮に備わっていると思うが、上皮だけのオルガノイド培養では、この変化は誘導できない。そこで、他の細胞が関与すると踏んで、小腸に多いリンパ球の関与がないかと、リンパ球欠損マウスを調べると、炭水化物に対する反応が低下していることを発見する。さらに、様々なノックアウトマウスを調べ、最終的に小腸の固有層に存在するγδ T cell細胞が、このセンサーの働きをしていることを発見する。

この発見が、この研究のハイライトで、その後様々な実験を重ねて、γδ T cellが炭水化物センサーとして働くメカニズムを追求しているが、風と桶屋的なごちゃごちゃした話で終わってしまっている。

概要を紹介すると、炭水化物を感知するのは上皮細胞で、Jagged2を発現すると、γδ T cell上のNotchを刺激する。また、小腸上皮のセンサー細胞であるタフツ細胞も、炭水化物に反応してプロスタグランディンを分泌してγδ T cellを刺激する。この結果、まだよくわからない経路でγδ T cellが、自然免疫に関わるILC3のIL-22分泌を抑制する。このIL-22は通常脂肪・タンパク質型食事に備えるために炭水化物型代謝を抑えているが、この経路で抑制されることで、小腸上皮が炭水化物対応型に変化する。

おそらくもう少しスッキリしたシナリオを期待して研究を進めていたのだと思うが、そうは問屋が卸さず、結局風と桶屋以上に複雑な話になってしまった。しかし、γδ T cellがないと、カーボは摂取しにくいことは間違いない。農耕へと進んで、炭水化物型の食事へと移行した人間の進化を考えると、追求しがいのある面白い問題だと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ