5月21日 慢性腎臓病(CKD)と細胞老化(5月19日号 Science Translational Medicine 掲載論文)
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5月21日 慢性腎臓病(CKD)と細胞老化(5月19日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2021年5月21日
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私もそうだが、年齢とともに腎臓ではいわゆる硬化と呼ばれる状態が徐々に進行する。老化と考えていいが、この硬化が基礎にあると、様々な急性腎障害により、老化過程がさらに促進される。最近、チロシンキナーゼ阻害剤とケルセチンを組み合わせて、老化細胞を除去するselolysis治療が、腎硬化症にも効果があることが示され、また以前紹介した、東大医科研の中西さん達が開発した、画期的senolysis治療法でも腎硬化症が抑えられることが示され(https://aasj.jp/news/watch/14787)、senolysis治療は腎硬化症の希望の光になっている。

今日紹介するエジンバラ大学からの論文は、細胞死を抑えているBcl2を阻害するだけで腎臓でのsenolysis治療が可能であることを示した研究で、5月19日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Cellular senescence inhibits renal regeneration after injury in mice, with senolytic treatment promoting repair (マウス腎臓では細胞老化が再生を抑制するので、senolyticな治療法で再生を促すことができる)」だ。

この研究の目的は、実験的に誘導した腎硬化症で蓄積した老化細胞を、Bcl2阻害剤ABT-262で除去し治療する可能性を確かめることだったと思う。

実験としてはほとんどモデル動物での話で、ヒトについては、高齢者の腎臓で老化細胞マーカー(p16,p21など)の発現を調べ、細胞周期が抑制された老化細胞が上昇していること、そして放射線照射で一種の老化を早めたヒト近位尿細管細胞を、Bcl2など細胞死を抑える機構を抑制する薬剤ABT-263で処理すると、老化細胞だけを除去できることを示しているだけだ。あとは、これに近い状態をマウスで誘導し、ABT-263の治療効果を確かめている。

これまでsenolysisの論文を紹介してきたが、Bcl2抑制というのはエアポケットの様に抜けていた。これは、Bcl2が抑制されると、免疫機能や造血への障害が予想できるからだが、なんとこの研究ではマウスをABT-263で処理しても、ほとんど副作用はないとしている。最近、AMLの治療にもBcl阻害剤がアザシチジンと一緒に使われる様になっているので、確かにBcl阻害もsenolysisの方法として考慮する価値はありそうだ。

あとはマウスモデルで、

  • 老化マウス腎臓では老化細胞が蓄積しているため、血流を障害して起こす急性腎障害で、強い腎硬化症が誘導されるが、まずABT-263を投与して老化細胞を除去しておくと、急性腎障害による腎硬化症を抑えることができる。
  • ABT-263処理により、老化マーカーを発現する細胞が減少させるとともに、急性腎障害による繊維化をおさえ、さらに尿細管細胞の再生増殖が高まる。すなわち、老化細胞の存在が、繊維化を高め再生を抑えていることを示し、senolysis治療の重要性を示唆している。
  • この結果、腎機能の改善も見られる。
  • 老化マウスでの結果をさらに確かめる目的で、若いマウスに放射線照射して老化を誘導し、これに急性腎障害を加える実験系で、ABT-263で老化マーカーを発現する細胞を除去できること、そしてその結果繊維化による腎硬化症を抑えることができ、さらに尿細管の再生も促すことができる。

を示している。結果は以上で、実験としては繰り返しが多く、また全て尿細管の話で、例えば糸球体の喪失も同じ様に防げるのかなどは今後の課題だろう。しかし、ある程度腎機能が改善していることから、腎硬化症に対するsenolysis誘導治療薬を使ってみる可能性はある様に思える。いずれにせよ、senolysisの重要性は疑う人はいない。その意味で、使える薬剤は多様なほどよい。

カテゴリ:論文ウォッチ