5月31日 Covid-19待機療養者向けのの初期治療開発の必要性(5月18日 Science Immunology オンライン掲載論文)
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5月31日 Covid-19待機療養者向けのの初期治療開発の必要性(5月18日 Science Immunology オンライン掲載論文)

2021年5月31日
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最近ようやく落ち着きを見せてきたが、今回の感染者の波のピークでの入院率は兵庫県で10%台に低下し、自宅療養者の数は5千人をおそらく超えたのでは無いだろうか。数字だけからは何もわからないが、これと並行して兵庫県の死者数は急激に増加している。

このことから、重傷者の治療と並行して、無症状、軽症状と診断され、療養待機か、自宅待機を迫られる人たちのケアの重要性がわかるが、兵庫県のガイドラインを見ると、見守りについてようやく対策が始まっているものの、病気を進行させないための方策が全く存在しないことがわかる。

原理的に考えて、この時期に使える治療薬もないわけでは無い。特に直接ウイルスの増殖を抑える薬剤は、感染後すぐに5日間程度投与するという可能性はある。事実、病院薬として設計されている抗体薬については、感染初期に予防効果があることがわかっている。

自宅で服用できる薬といえば、昨年4月に大村先生の開発されたイベルメクチンがCovid-19増殖を抑える可能性を示した論文をいち早くこのHPで紹介したからか、なぜイベルメクチンを我が国は使わないのかとよく聞かれる。我が国発のノーベル賞受賞薬だから使うべきだという低俗な議論は無視することにして、原理的に感染初期に効果があっても良さそうな薬剤で、治験も進んでいるので、有効と判断されれば必ず利用されると思う。

ただ私の感じる大きな問題は、Covid-19治療薬の治験が入院者に限られており、無症状者から軽症までの人を重症化させないという、初期段階への治験がほとんど行われていない点だ。

例えば以前紹介したコロナウイルスnsp7がプロスタグランジン合成酵素と結合するとする細胞レベルの結果が、実際に治療に役立つか調べるため、新型コロナウイルス軽症感染者に対してかかりつけ医が投与したCox阻害剤が、入院を防いだかどうかを調べ、Cox2選択的阻害剤のセレコキシブは全く効果がなかったが、Cox1阻害効果があるインドメタシンは、入院者数を50%以上低下させたというScienceの論文は、原理がわかっておれば、初期治療として十分使えることを示しており(https://aasj.jp/news/watch/14287)、この論文を読んだ後、私は自宅にインドメタシンカプセルを用意している。

これからの切り札と考えられるメインプロテアーゼ阻害剤(https://aasj.jp/news/watch/15255)も同じで、中症、重傷者より、おそらく初期段階に著効を示すことが期待される。したがって、いわゆる療養施設、自宅療養者を対象に治験を行う仕組みを今整えて、第2/3相を我が国でも同時に行えるようすべきだろう。

イベルメクチンに戻ると、もし投与量の問題さえ解決するなら、私はやはり入院できない患者さんにたいして治験を行うだろう。

前置きが長くなりすぎたが、同じ発想で、初期段階の患者さんの肺での自然免疫を高めて、重症化を防ぐことを目指したのが今日紹介するペンシルバニア大学からの論文で5月18日号のScience Immunologyに掲載されている。タイトルは「Pharmacological activation of STING blocks SARS-CoV-2 infection(薬理学的にSTING を活性化することでSARS-CoV2感染を阻害できる)」だ。

この研究は、イベルメクチンの作用とも関係している。まず培養系を用いて、細胞にCoV2を感染させても、自然免疫を抑える様々なメカニズムを持っているため、インターフェロンが分泌され、その効果が現れるまでに48時間もかかってしまうことを示している。

ウイルスは感染後10時間程度で新しいウイルスを分泌できるようになるが、48時間自然免疫が止められることはその間に周りの細胞へとウイルスが広がるのを止められないことを示している。イベルメクチンの作用機序の一つは、分泌されたインターフェロンに対する反応の抑制を除くことなので、CoV2感染のようにインターフェロンの分泌が遅れてしまう場合、単独では効果が落ちてしまうと考えられる。したがって、効果を狙うならインターフェロンとの併用など、治療のための工夫が必要になる。

この研究では、CoV2感染により自然免疫が抑えられていても、自然免疫自体は機能しており、DNAウイルスを感染させたり、あるいはpoly ICを投与したりすると、抑制されていた自然免疫が回復することを次に示し、別ルートで自然免疫を高めて治療する可能性を示している。

この結果に基づき、CoV2で抑制されている自然免疫を活性化できる化合物をスクリーニングし、最終的には同じグループがガンに対する免疫を高めるために開発したdiABZIと呼ばれる化合物が、自然免疫を高めてCoV2の増殖を抑えることを示している。

最後に、初期治療や予防治療を考慮して、マウスの鼻にこの薬剤を投与する方法で、diABZIの前処置、あるいは感染との同時投与でマウスのARDS発症を抑えることができることを示している。

自然免疫を高めることは、ワクチンと同じように強い副反応が出ることなので、おそらく予防投与は難しいと思うが、個人的な印象だが原理も明確でかなり有望な気がする。内服や静脈投与とは違って、自宅でも可能な方法なので、是非感染直後の軽症者を対象とした治験を進めてほしいと思う。

私は医学知識があるので、読んだ論文が納得できれば、薬剤をあらかじめ手元に置いておくことができる。おそらく感染しても、この知識のおかげで少しは気持ちを安らかに保てるだろう。しかし、私の方法を一般化するためには、やはり治験が必要で、インドメタシンも勧められるとは思わない。

指定感染症ということで、本来なら病院でケアを受けられる人が、病院に入れないと、全ての通常医療から除外されてしまい、頼るものがないという状況はなんとかする必要がある。そのためにも、感染者の多い今こそ、感染後すぐの人たちを対象とした治験を計画し推進することは、医学の使命だと思う。私のような年寄りでも必要とされるなら、いつでも協力する。

カテゴリ:論文ウォッチ