7月6日 ダイエットと腸内細菌叢(6月23日 Nature オンライン掲載論文)
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7月6日 ダイエットと腸内細菌叢(6月23日 Nature オンライン掲載論文)

2021年7月6日
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腸内細菌叢が、生活環境や食事により大きく変化することはよくわかっているが、コントロールされたダイエットの効果については、今まで論文を目にしたことがなかった。

今日紹介するドイツ・ベルリンにあるシャリテ大学病院からの論文は、肥満の治療目的で、1日800kcalという、過酷な制限食(ネスレ社から販売されているOptifastを持ちいている)を2ヶ月続けた80人の更年期女性について、ダイエットの効果と共に、腸内細菌叢の変化を調べた研究で、6月23日のNatureにオンライン出版された。タイトルは「Caloric restriction disrupts the microbiota and colonization resistance(カロリー制限は腸内細菌叢を破壊し、細菌侵入抵抗性が低下する)」だ。

さて、このぐらい徹底してコントロールすると体重が13Kg近く低下し「(といっても対象者は90−100Kgの巨漢だが)、同時に体脂肪が低下、そしてグルコース代謝の改善が見られている。

これと並行して、腸内細菌叢の量と内容も大きく変化する。しかし、元の食事に戻ると、体重は維持されていても細菌叢は元に戻る。細菌叢の変化の原因を探るため、細菌叢全体が発現している遺伝子を調べると、利用したダイエット食品に合わせて、グリカンを代謝できるAkkermansiaが上昇し、植物性炭水化物を代謝する細菌が低下していることがわかる。また、メタゲノム解析でも、Akkermansiaだけでなく、グリカン代謝に関わる酵素が上昇、CAZymesと呼ばれる植物性炭水化物分解酵素が低下する。

通常の研究は、このような解析を繰り返して、なるほどという結論を出して終わるのだが、この研究ではさらに進んで、無菌動物への便移植を行い、細菌叢の変化がホストの代謝に影響するかを調べている。

  1. 体重減少率の高かった人のダイエット後の便を移植したマウスは、ダイエット前の便、あるいはコントロールの便を移植したマウスより体重が低くなる。
  2. これと並行してブドウ糖代謝能も高まり、体脂肪も低下する。
  3. 便移植による体重減少に関わる最も重要な要因は、病原性で知られたクロストリジウム菌で、他の菌とともにクロストリジウム菌を移植すると、体重の低下が強くなる。
  4. クロストリジウム菌といっても、このとき増加するのは病原性のトキシンの発現はなく、下痢などの症状は誘導しない。
  5. しかし、病気を誘導するところまではいかないが、クロストリジウム菌が持っているトキシンが、腸内での好中球浸潤を誘導し、体重減少に関わっている。
  6. クロストリジウム菌の現象は、単純の分泌低下と相関している。

他にもあるとは思うが、主な結果は以上のようにまとめていいだろう。独断を交えて解釈すると、厳しいカロリー制限によって腸内細菌叢が変化し、それが体重減少を助けることは間違いなさそうだが、この影響は単純な代謝だけを介するのではなく、病原性はないにせよ、クロストリジウム菌のトキシンを利用した変化で、炎症が起こることから、注意が必要だということになる。

この研究ではOptifastが用いられているが、例えば胆汁量を維持するための成分を加えるなど、まだまだ改良の余地があると思う。さらに、炎症が起こることを考えると、若い妊婦さんが間違ってもこのような方法を用いることがないよう周知も必要かと思った。

カテゴリ:論文ウォッチ