7月9日 Covid-19ワクチン副反応4:ワクチンにより誘導されるPF4抗体の性質(7月7日 Nature オンライン掲載論文)
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7月9日 Covid-19ワクチン副反応4:ワクチンにより誘導されるPF4抗体の性質(7月7日 Nature オンライン掲載論文)

2021年7月9日
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新規感染者数が再度増加し始めた今、政府もワクチン以外に頼る術はないようだが、ワクチンの効果を示す多くの論文がで始めた昨年秋でも、ワクチンの安全性評価には長い年月がかかるなどと、慎重論が優勢だった。この慎重論は、マスメディアを通じて報道された結果、もともとワクチン慎重論の厚生労働省と政府の動きを鈍らせ、さらに報道された慎重論が、現在もワクチンを忌避する人たちの根拠になっていることは否めない。ポジティブな見解を表明していたメディアも存在はするが、大半のメディアは非難を恐れて慎重論を優先し、今の状況を作ったことも間違いない。結果論と不問にするのだろうが、政府もメディアも、科学との付き合い方をどうするのかについて、もう一度反省しないと、進歩はないだろう。その意味で、昨年春ぐらいからの各国の政府や専門家の対応をしっかり比較する研究は重要だと思う。

今回のワクチン開発がこれまでと全く異なるのは、ワクチンの開発過程が逐一論文としてほとんどリアルタイムで発表されてきたことだ。モデルナのワクチンについて言えば、マウス、サル、人間を用いた抗体誘導治験、高齢者の抗体誘導治験、そして第三相の発症抑制治験など、全てトップジャーナルに掲載されてきた。また、中身もほぼ完全に開示されていることから、認可プロセスなどをさらに早い段階で動かすことは可能だったと思う。

このように、全てを開示するということが信頼性と、決断を後押しする。その意味で、ワクチンの副作用についても、リアルタイムで迅速に開示され、これまで紹介したように、それぞれに対する医学的対応が示されている。学生さんに21世紀のキーワードとして、ゲノム、コホート、IT、そしてコレクティブインテリジェンス、の4つを提示して講義しているが、まさにコレクティブインテリジェンス(多くのインテリジェンスが一つの課題を解決する)が目の前で展開しているのが新型コロナ研究だと思う。

副作用に関しても、なるべく紹介するようにして、すでに3回紹介してきたが、今日の論文は2回目に紹介したアデノウイルスワクチンによるVITT(vaccine induced immune thrombotic thrombocytopenia)を引き起こす抗体についての研究で、昨日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「Antibody epitopes in vaccine-induced immune thrombotic thrombocytopenia(ワクチンにより誘導される免疫性血栓性血小板減少症の抗体エピトープ)」だ。

すでに副作用2回目に紹介したように、アデノウイルスワクチンを用いると、極めて稀だが、接種後2週間目ぐらいから、血栓性血小板減少症が起こることが知られ、これがヘパリン投与時に起こる血栓(HIT)と同じように、血小板の膜に存在するPF4に対する自己抗体が産生されることにより誘導されること、そして濃縮グロブリン注射で対応が可能であることを紹介した(https://aasj.jp/news/watch/15740)。

この論文では、5人のVITT患者さんの血清と、10人のHIT患者さんの血清を用いて、PF4への結合性を比べている。モノクローナル抗体と異なり複数の異なるPF4結合抗体がそれぞれの血清に含まれていることから、ピュアな生化学実験は困難なため、例えばPF4の突然変異体を多く用意して、血清総体としての反応部位を特定するなど、いろいろ工夫が行われている。

結論としては、

  • VITTで誘導されるaPF4抗体はHITのaPF4抗体とは異なる特異性を持っており、5例全てでPF4のヘパリン結合部位周辺の領域に反応する。HITの場合、ヘパリンが存在しないと PF4に結合できない血清が半数に見られるが、VITTの場合、ヘパリンは抗体の結合を阻害する。(この結果は重要で、ヘパリンで治療というわけにはいかないと思うが、血栓ということでヘパリン投与してしまっても、それ自体が状態を悪化させることはないことを意味する。また診断にもヘパリン添加は必要ないことも意味する)。
  • 血清総体のPF4との結合性でみると、VITTで誘導される抗体はHITの場合と比べてもかなり高い。

残念ながら、なぜPF4に対する抗体が、アデノウイルスベクターを用いたワクチンで誘導されるのかはわからない。ただ、ワクチン接種後2週間して誘導される抗体は、HITで誘導される抗体とはかなり異なっており、ワクチンによりなんらかの特異的機構が働いて誘導されていることが示唆される。そして、高い結合力でPF4と結合するとともに、抗体のFcγIIaを介して血小板と結合、この凝集体により、血小板が活性化され、血栓性血小板減少症が起こるという話だ。

なぜアデノウイルスベクターでVITTが起こるのかについては、ドイツのグループが、スパイクDNAが間違ってスプライシングを受け、可溶性のスパイクタンパク質が合成されることが、抗体誘導および血栓の引き金になるという可能性を示唆する論文を発表しているが、抗体誘導の仕組みが明らかになった時点でまた論文を紹介する。

我が国ではアデノウイルスワクチンを利用する可能性はますます減ってはきているが、稀に起こったとしても、治療法は確立していることから、医療側でもしっかり準備をしておくことが重要になる。

カテゴリ:論文ウォッチ