7月25日 C型ニーマンピック病の新しい理解(7月21日 Nature オンライン掲載論文)
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7月25日 C型ニーマンピック病の新しい理解(7月21日 Nature オンライン掲載論文)

2021年7月25日
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C型ニーマンピック病はリソゾームに局在するNPC1およびNPC2遺伝子の変異により、リソゾームからコレステロールの排出が障害された結果、リソゾームに脂肪や糖脂質の蓄積が起こり、神経変性が起こる。ただ、このリソゾームの変化から神経変性への過程については理解が進んでおらず、結果リソゾーム内での蓄積を阻害する間接的な治療を除いて、根本的な治療法は現在のところ存在しない。

今日紹介するテキサス大学からの論文は、細胞内の異常DNAを感知するcGASの下流でインターフェロン誘導に関わる分子STINGのリソゾームへの移行機構を研究する中で、ニーマンピック分子NPC1がSTING活性化と抑制に深く関わり、ニーマンピック病の背景にSTING活性化とそれによる炎症が存在することを示した。この発見は、ニーマンピック病病態理解を大きく進展させたこの分野では画期的な研究で、7月21日のNatureに掲載された。タイトルは「Tonic prime-boost of STING signalling mediates Niemann–Pick disease type C(STINGの活性化と強化がC型ニーマンピック病に関わる)」だ。

cGAS-STINGシグナルが細胞内DNAセンサーとして働いて、IRF3を介するインターフェロンシグナルカスケードを活性化することは広く知られているが、このシグナル経路の理解を難しくしているのが、この過程でSTINGが小胞体からゴルジ、そして最後にリソゾームへと移行する過程と、シグナルとの関係だ。この過程をヒントに、GAS-STING経路がオートファジー制御因子として進化したことを示唆する論文については2年前に紹介した(https://aasj.jp/news/watch/9877)。

この研究ではSTINGのオルガネラ間の輸送に関わる分子を特定する方法を用いて、261種類の分子を特定し、その中からリソゾームへ移行したときにSTINGと結合する分子としてNCP1を発見した。すなわち、リソゾームストーレージ病の最も有名な分子と自然免疫の核となる分子が出会った。

そこで、まずNPC1遺伝子ノックアウトマウスを用いて、STINGの状態を調べると、STINGの小胞体からGolgiへの移行が促進され、さらにリソゾーム移行による分解が抑制され、最終的にSTINGの高い活性が維持され、インターフェロン誘導が持続することを発見する。すなわち、NCP1が存在しないと炎症が長期に続くことが明らかになった。

この結果は、ニーマンピック病を自然免疫の観点から捉え直すことの重要性を示しており、この方向で研究が行われている。様々なノックアウトマウスを用いた膨大なデータなので、詳細を省いて要点をまとめると次の様になる。

  1. NPC1ノックアウト細胞ではリソゾームからコレステロールが出てこないため、小胞体でのコレステロール量が減り、小胞体からゴルジへの小胞体輸送が活性化される。もともとSTINGは、DNAと結合したcGMPにより生成されるセカンドメッセンジャーにより活性化されるが、小胞体輸送が活性化されると上流のシグナルとは無関係に、STINGがSERBP2に結合し、ゴルジ輸送経路へと乗せる過程自体がSTINGの活性化を誘導する。
  2. リソゾームでNCP1はSTINGのアダプターとして働き、STINGのリソゾーム移行による分解を促進する。すなわち、NCP1ノックアウトではSTINGの分解が進まず、結果活性化されたSTINGシグナルが抑制されず残る。
  3. NCP1ノックアウトマウスの神経病態は、STINGノックアウトで著名に改善する。すなわち、ニーマンピック病はストーレージ病だけでなく、神経の自然炎症が増強した結果発症する病気として捉えられる。
  4. ニーマンピック病の症状は、STING下流のシグナルをノックアウトすることで改善するが、cGASの様な上流シグナルをノックアウトしても改善しない。すなわち、細胞内DNAセンサーとは無関係に、STINGが活性化される。
  5. NCP1ノックアウトによるSTINGシグナル活性化は、ミクログリアだけでなく、神経細胞自体の細胞死を誘導する。

以上、ニーマンピック病の原因分子、NCP1欠損、そしておそらくNCP2欠損でも、コレステロール動態が狂い、小胞体からゴルジ輸送を高める結果、上流のシグナルとは無関係にSTINGがゴルジ輸送システムに結合し、その活性化が誘導され、炎症シグナルがオンになる。さらにNCP1がはSTINGのリソゾーム移行による分解も抑制するため、スウィッチが入った炎症シグナルを止めることができず、炎症が持続する。その結果、神経細胞が直接、あるいはミクログリアを介する炎症により変性することで、ニーマンピック病の神経症状が誘導されるという結果だ。

これまでストーレージ病として納得してきたのとは全く異なるメカニズムが示された。この結果が重要なのは、STINGによる自然炎症シグナルを抑制する様々な薬剤がニーマンピック病にも利用できる可能性が出てきたことで、個人的には大きく期待したいと思っている。

カテゴリ:論文ウォッチ