8月9日 膵臓癌の免疫療法は可能か2 (7月28日号 Science Translational Medicine 掲載論文)
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8月9日 膵臓癌の免疫療法は可能か2 (7月28日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2021年8月9日
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昨日に続いて、ras/p53変異で誘導した膵臓ガンモデルを用いて免疫療法が可能かどうかを調べた論文を紹介することにした。

昨日の論文は、膵臓ガンが免疫治療に反応しにくいのは、決してガン特異的ネオ抗原が存在しないからではなく、様々なチェックポイント分子が浸潤してきたT細胞で誘導されるため、PD-1だけではコントロールし切れていないことを示していた。

今日紹介するコロラド大学、イエール大学からの論文は、直接免疫治療に関わるわけではないが、免疫反応が起こりやすい腫瘍組織を整えることの重要性を示す研究で、7月28日号Science Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Blockade of the CD93 pathway normalizes tumor vasculature to facilitate drug delivery and immunotherapy (CD93経路の阻害は腫瘍血管を正常化して薬剤供給や免疫治療を高める)」だ。

現在腫瘍血管新生に関わるVEGFを抑制して、ガンを兵糧攻めにする治療法が行われているが、個人的意見だが、最初期待したほどの効果が得られているわけではない。逆に、網膜の血管新生を抑制する目的の使用が成功を収めている様に思う。

実際、腫瘍血管はもともと階層性がなく、異常な血管なのでそれがガンの悪性化を助けているとする考えもある。そのため、毛細血管だけでなく、正常な動静脈の支配を確立することで、抗ガン剤や免疫細胞が集まり易くする研究開発も行われている。

この研究はおそらくVEGF阻害の問題を解決する目的で始められたのだと思う。VEGF阻害剤に血管内皮で強く発現が抑制される分子を探索し、最終的に血管形成に機能的影響がある分子としてCD93 を特定している。

最初から期待したのかどうかははっきりしないが、CD93に対する抗体を用いてras/p53変異膵 臓ガンを移植したマウスに投与すると、驚くことにこれだけで腫瘍の増殖が抑制できる。しかも、この効果には、血液でのCD93発現は全く必要なく、血管自体の変化によりガンを抑制できている。

では、「腫瘍血管が抑えられているのか?」と調べてみると、なんとCD93抗体処理をすることで、腫瘍血管は逆に増強し、また血管自体の構造も階層性を回復していることがわかる。さらに、CD93抗体処理により、腫瘍内T細胞の数は3倍以上に増加し、またCD93抗体効果は、免疫不全マウスでは全くみられないことが明らかになった。

すなわちCD93が強く発現すると階層性のない異常な血管構造ができ、これが免疫細胞のリクルートを抑え、ガン増殖を助けていることになる。逆に、他の治療を行わないのにCD93処理だけで腫瘍が抑えられることは、膵臓ガンでもリンパ球が組織に浸潤できれば、何もしなくても免疫系が働いてガンの増殖を抑えることを示している。

あとは、CD93がIGFBP7(insulin growth factor binding protein 7)と結合することで、おそらく血管内皮やペリサイトとの相互作用が変化し、腫瘍内で階層性のない、しかもバリアー機能が障害された異常血管が誘導されてしまうことを明らかにしている。

最後に、CD93あるいはIGFBP7に対する抗体と、他の治療法の併用の効果を調べ、

  1. 抗ガン剤の効果が高まることで生存率が上がる。
  2. PD-1抗体を用いたチェックポイント治療の効果を高める。

ことを示している。

以上が結果で、血管を正常化することができれば、免疫治療もうまく働くことを示しており、今後特に膵臓ガンでは重点的な研究が行われる様に思う。もちろん昨日紹介した様に、チェックポイント分子も多様で、これらを考慮した治療カクテルが必要になるが、個々の問題を解決するたびに必要な薬が増えることは、実現性を損なうのではないかと心配だ。

カテゴリ:論文ウォッチ