8月10日 ファイザーワクチン接種後の抗原特異的T細胞解析(7月28日 Nature オンライン掲載論文)
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8月10日 ファイザーワクチン接種後の抗原特異的T細胞解析(7月28日 Nature オンライン掲載論文)

2021年8月10日
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ワクチン接種後のδ株ブレークスルーが問題になっている。この問題が注目されたのは、マサチューセッツで大規模集会後に起こったδ株感染についてのCDCレポートだと思う。かなり不完全なレポートなので取扱注意なのだが、ワクチン接種でも安心できないことを強調する目的で使われている。しかし、行きすぎるとワクチン接種も意味がないと言う話になる。実際には、感染したかどうかだけを指標にする臨床研究では、ワクチンの生物学を理解することにはならず、抗原に反応する細胞レベルの解析が必要になる。

今日紹介するドイツ・フィライブルグ大学からの論文は、ファイザー/ビオンテックワクチンを接種した医療機関の従業員の末梢血の抗原特異的T、B細胞について詳細に解析した研究で、このようなデータが積み上がらない限り、今後の方針など立てようがないことがよくわかる。タイトルは「Rapid and stable mobilization of CD8+ T cells by SARS-CoV-2 mRNA vaccine(SARS-CoV2 mRNAワクチン接種後に急速かつ安定的に動員されるCD8T細胞)」だ。

これまでの研究で、mRNAワクチン接種で誘導できる抗体のδ株に対する中和活性は他と比べて5−10倍低下することが知られている。一方で、δ株に感染しても、ワクチン接種者は重症化しにくいことも知られており、この差を埋めるのが、ワクチン接種により誘導されるCD8T細胞の活性だろうと考えられていた。ただ、これまで紹介したように(https://aasj.jp/news/watch/17067)、MHCの異なる集団で、スパイク由来ペプチドに対する免疫を調べるためには、何百ものペプチドを用意して反応に加える必要があり、簡単でない。また、抗原反応性細胞の頻度となると、算定は極めて難しい。

この研究では、スパイク由来の3種類のペプチドに対する反応だけに焦点を当てると言う割り切りを行い、ペプチドとMCHの複合体に反応するT細胞の数を直接測ることで、この問題を切り抜けている。したがって、この結果が、ワクチンに対する反応のどの程度を説明するのかはわからない。ペプチドを絞らないLa Jolla研究所の結果などとセットで考えるといいように思う(https://aasj.jp/news/watch/17067)。

この論文を読むときもう一つ注意する必要があるのは、全ての検査が末梢血に流れてきたリンパ球で行なっている点で、mRNAワクチンが所属リンパ節で強い持続的な反応を誘導することを考えると、この結果が感染防御とどれだけ相関するのかも今後調べる必要がある。

とは言え、研究はあくまでも臨床を考えて設計されている。特に選ばれた3種類のペプチドは、SARSも含め他のコロナウイルスとは全く交差せず、Cov2特異的反応を調べることができる。さらに重要なのは、この3種類のペプチドはαからδ株まで保存されており、変異株に対する反応も予測することができる。

結論的には、ワクチンの効果は十分信じるに足ることを示す結果だ。

  1. 末梢血で見たとき、最も効果がわかるのはCD8T細胞で、3種類のペプチドに対するCD8T細胞は、1回目の免疫直後からすぐに誘導が始まり、1週間でピークがくる。その後21日目に2回目の接種を受けると、この数はまた増加し、なだらかに減っていく。すなわち、CD8T細胞は、早い時期から所属リンパ節から、身体中にリクルートされる。
  2. これに対し、クラスIIとペプチドに反応するCD4T細胞やB細胞は、末梢血に流れてくる量が少ない。おそらくリンパ節濾胞で反応に参加しているからだろう。実際、抹消には濾胞型ヘルパーT細胞はほとんど流れてこない。
  3. スウィッチが起こったメモリー型B細胞は、2回目の接種後に抹消に流れてくる。
  4. 抗原特異的細胞を特定できるので、その細胞が発現する様々なバイオマーカーを調べることができる。1回、2回接種後、活性型T細胞が抹消に流れてくるが、またその後の感染に反応してくれるメモリー細胞も1回目の早い段階で出現する。
  5. 基本的にT細胞の検出はフローサイトメータを用いているが、試験管内で同じMHC-ペプチドで刺激することもでき、確かに抗原に反応して増殖し、インターフェロンなどの炎症物質を分泌できることを確認している。
  6. 機能実験で注目すべきは、120日後でも試験管内刺激に反応する細胞が存在する点で、T細胞免疫はさらに長期に続く可能性がある。
  7. 選んだ抗原に関する限り、ワクチンの方が自然感染例と比べると特異的T細胞誘導効率が高い。ただ、それぞれの末梢血T細胞の効果は異なっており、メモリー型でも、early memory型、central memory型T細胞は自然感染で多く末梢血に検出され、逆にeffector memory型はワクチンの方で高い。

主な結果は以上だが、ペプチドを絞っていること、末梢血しか調べられないと言う限界を頭に置いてみると、それでもいろいろな可能性が想像できる。特に、1回目のワクチン接種時から、CD8T細胞は全身を循環し始めていることは、ワクチンが重症化阻止に関わることと関係する可能性が高い。

最後に行って欲しい実験の希望を言うと、ウイルスを感染させたホストの細胞を用いたT細胞の効果を調べる実験だ。ハードルは高いが、ペプチド反応を生物学的効果に転換する意味で重要な実験で、これが可能だと、本当にワクチン接種を繰り返す必要があるのかどうかもわかるように思う。

カテゴリ:論文ウォッチ