3月6日 またまた細胞老化の体液説(3月2日 Nature オンライン掲載論文)
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3月6日 またまた細胞老化の体液説(3月2日 Nature オンライン掲載論文)

2022年3月6日
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若い血液に触れると若返ることができるという話は、昔から存在する。おそらくドラキュラ伝説でも同じことだろう。ただ、この可能性は科学的にも追求されている。このHPでも、若い個体と老化した個体の血管をつないで、循環を共有させるパラビオーシスが細胞老化や若返りに及ぼす影響についての研究(https://aasj.jp/news/watch/1549)、あるいは臍帯血注射により脳が若返る可能性を示した研究(https://aasj.jp/news/watch/6761)、を紹介した。

これらの論文を読むときいつも思い浮かべるのは、細胞病理学を提唱したウィルヒョウと体液説を提唱したロキタンスキーの有名な論争だ。この時は近代的な細胞病理学が勝利し、ロキタンスキーは多くの人の記憶から消えてしまったが、老化研究を通してまさに復活している感がある。

これら紹介した論文は全てカリフォルニアにある大学から発表されているが、今日紹介する論文もスタンフォード大学からで、パラビオーシスの影響をsingle cell RNAseqを用いて詳しく調べた研究で、3月2日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「Molecular hallmarks of heterochronic parabiosis at single-cell resolution(年齢が異なる個体のパラビオーシスの影響の分子指標を単一細胞レベルで調べる)」だ。

研究は単純で、3ヶ月令マウス同士、18ヶ月令マウス同士、そして3ヶ月/18ヶ月令マウスでパラビオーシスを行い、なんと5ヶ月循環を共有させた後、各臓器を取り出し、single cell RNAseq(scRNAseq)を用いて単一細胞レベルの遺伝子発現を調べ、パラビオーシスによる効果を調べている。

繰り返すが、研究自体は特に目新しいものではない。しかし、パラビオーシスの効果をscRNAseqで調べることで、細胞レベルの影響と、転写レベルの影響を分けて調べることで、極めて包括的に環境と老化の関係を明らかにすることが出来る。その意味でこの研究は、これから行うべき実験の方向性を示し、データを集め始めた最初の論文と言っていいだろう。パラビーシスだけで無く、senolysis、抗酸化剤など、様々なアンチエージング手法が研究されているので、将来的にはこれらを同じプラットフォームで比較することで、より大きなデータベースが完成すると思う。おそらくこのグループも、同じことを狙っていると思う。

さて結果は当然極めて膨大で、一言でまとめるのは難しい。主なポイントだけまとめておく。

1)老化血液と触れることで、若い細胞に老化によるのと同じ変化がおこる。また、若い血液に触れることで、老化細胞で一定の若返り効果が、転写レベルで見られる。

2)パラビオーシスに最も強く反応するのが肝臓細胞だが、血管内皮、間葉系幹細胞、血液幹細胞、免疫細胞などは老化、若返りともに影響を強く受ける。

3)遺伝子レベルで見ると、一番目立つのはミトコンドリアの電子伝達系の変化で、細胞レベルの変化に共通してみられ、老化とミトコンドリアの関係の重要性が確認される。ただ、他にも注目すべき遺伝子変化が、パラビオーシスによる老化促進、あるいは若返り現象として特定できるので、今後の重要な課題になる。

4)コラーゲン遺伝子発現の低下は老化に特徴的で、この結果間質により支持される細胞の変化が誘導される。

個人的に気になったのは以上の結果だが、循環する分子に、老化や若返りに関わる因子は必ず存在することを示すという点からは、極めてインパクトが大きい仕事だと思う。

若い血の秘密が、科学的に明らかにされれば、私たち高齢者も恩恵にあずかることが出来るようになるかもしれないが、現在のところ現象だけで、手がかりはまだまだという印象だ。

カテゴリ:論文ウォッチ