3月15日 自己免疫抑制性CD8T細胞:ウイルス感染による炎症の重症化を防ぐワクチンが可能になる(3月8日 Science オンライン掲載論文)
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3月15日 自己免疫抑制性CD8T細胞:ウイルス感染による炎症の重症化を防ぐワクチンが可能になる(3月8日 Science オンライン掲載論文)

2022年3月15日
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免疫抑制に関わるT細胞というと、坂口さんの発見したCD4Treg細胞を思い浮かべるが、もう一本の柱としてCD8陽性細胞が2018年ぐらいからマウスで指摘されていたようだ。さらに遡れば、TakMakらのグループがCD8T細胞をノックアウトで除去すると、自己免疫性脳炎の炎症が抑えられることを発見したことにルーツがあるようだが、残念ながら全くフォローしていなかった。

しかし、今日紹介するスタンフォード大学、M.Davis研究室からの論文を読んで、彼が調節性CD8T細胞のことをかなり理解できた。タイトルは「KIR+ CD8 + T cells suppress pathogenic T cells and are active in autoimmune diseases and COVID-19(KIR+CD8+T細胞は、自己免疫病やCovid-19で異常なT細胞を抑制する)」だ。

M.DavisもTak MakもともにT細胞受容体を世界最初にクローニングした2人だが、両方がこのT細胞に関わっていたことを知ると因縁を感じる。

このグループは、マウスを用いて抑制性CD8T細胞について研究しており、実験的自己免疫脳炎で上昇することを突き止めていた。そこで、人間の自己免疫病でも上昇する、抑制性と思われるCD8T細胞の存在を探索し、クラスIMHCに結合し、NK細胞で発現が見られるKIR分子を発現するCD8T細胞が様々な自己免疫疾患で上昇することを発見する。

次に、KIR陽性CD8T細胞が自己免疫性のCD4T細胞を抑制できるか、グルテンを抗原にしたアレルギー反応で調べ、KIR陽性CD8T細胞が抗原に反応しているCD4T細胞を特異的に殺して、免疫反応を抑制することを示した。すなわち、KIR陽性CD8T細胞は、抗原に異常反応しているCD4T細胞を見つけて殺してしまうことで、免疫がオーバーシュートしないように調節していることがわかった。

その上で、この細胞の遺伝子発現や、single cell RNAseqを行い、KIR陽性CD8T細胞が、自己反応性CD4T細胞に特異的に現れる自己ペプチドがクラス I 抗原と結合した複合体を認識し、その細胞を殺すことで、逆説的だが、自己免疫反応を抑える役割を持つ自己反応性キラー細胞で有ることを示している。

まさに、自己免疫に対して自己免疫で制すると言った話だが、しかし活性化されていないCD4T細胞には全く反応しないので、今後、どの自己ペプチドが標的になるのかは面白いテーマになると思う。

あとはこの細胞の重要性を示すために、2つの実験を行っている。

一つは、covid-19患者さんの末梢血を調べ、KIR陽性CD8T細胞が、特に自己免疫反応を示す血管炎を併発した患者さんで高いこと、また肺胞の洗浄液内にも存在し、肺胞の間質炎を抑えるために働いていることを示している。

このように、ウイルス疾患でも上昇が見られることから、おそらくウイルス感染から自己免疫病へと転換していく過程で、KIR陽性CD8T細胞は重要な機能があると着想し、マウスを用いて抑制性CD8T細胞を除去する実験を行っている。このマウスに、サイトメガロウイルスやインフルエンザウイルスを感染させると、ウイルスの除去自体は正常マウスと遜色なく起こるにもかかわらず、ウイルスによる炎症の程度は遙かに強いことを明らかにしている。

すなわち、ウイルス感染で起こる炎症が強すぎないよう抑制するのがまさにKIR陽性CD8T細胞で有ることを示している。

最終的に、どのペプチドに反応するのかがわかったところで、このストーリーが完成すると思うが、完成後はKIR陽性CD8T細胞を誘導するための特異的ワクチンが開発され、ウイルス感染の重症化を防ぐことが可能になると期待できる。ウイルス感染を防ぐワクチンと重症化を防ぐワクチンが将来のワクチンセットになると素晴らしい。

カテゴリ:論文ウォッチ