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本日午後四時から、今年の論文を振り返るZoom 座談会を開催します。

2022年12月31日
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今年は大晦日になってしまいましたが、2022年に発表された論文の中から印象に残った研究を振り返りたいと思います。基本的にはScienceが発表している、今年の科学10大ニュースを中心に、Zoom参加者と杯を片手に話し合いたいと思います。

是非直接参加したいという方は、メールで連絡ください。Zoom URLをお送りします。

それ以外の方はYouTubeでも配信します。

うまく配信が出来ないようです。申し訳ありませんでした。

https://www.youtube.com/watch?v=GlyZgVQcMU0
カテゴリ:ワークショップ

12月31日 Rループが細胞質へ移行して自然免疫を誘導する(12月21日 Nature オンライン掲載論文)

2022年12月31日
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意外なことや例外は科学の世界にいくらでも存在するのはわかっているが、いつも思うのは、例外に出会ったとき、間違いと片付けずに、その現象を調べてみる人がいることだ。私の記憶に一番残っているのは、βカテニンで、カドヘリンと協調して接着斑形成に関わることが明らかになった頃、βカテニンを認識する抗体が核も染色していることが気になって、専門家に聞いたことがある。その時の答えは、抗体のアーティファクトということだったが、その後 βカテニンの核移行は Wntシグナルの重要な過程であることがわかり、この事実を核に新しい細胞生物学が再構成された。

さて、今日紹介するスタンフォード大学からの論文は、免疫学者ならおなじみの核内で様々な状況で生まれる RNA-DNA ハイブリッドを核に形成されるR-ループが細胞質に移行して自然免疫を誘導することを示した研究で、12月21日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「R-loop-derived cytoplasmic RNA–DNA hybrids activate an immune response(R-ループ由来の細胞質RNA-DNAハイブリッドが免疫反応を活性化する)」だ。

一般の人にとっては R-ループと言われても何のことかわからないと思う。転写によって生成された RNA と核内DNA がハイブリッドを形成するとき、RNA より長い DNA のハイブリッド形成しなかった部分が作る構造で、実際にはこの発見がイントロンの発見につながっている。免疫学では、このループ形成がクラススイッチ分子 AID の作用に必須であることが知られており、R-ループが様々な生物過程で積極的に利用されている一つの証拠になっている。ただ、これらは全て核内の現象で、R-ループは速やかに RNAse により解消され、核外に出ることはないと考えていた(私だけかも知れないが)。

この研究では、R-ループを認識して RNA を分解する RNaseH1 を蛍光標識して細胞を染めると、細胞質にもかすかな染色が認められることに気がつくところから始まっている。そこで、R-ループレベルを高めることが知られているヘリカーゼ、SETX や BRCA1 を阻害すると、細胞質の染色も強くなることから、Rループが細胞質に存在することが明らかになった。

これをさらに明らかにするために、核と細胞質を分離し免疫沈降を行い,細胞質内での R-ループ存在を確認した後、その RNA 及び DNA配列を決定し、細胞質に存在する R-ループは、まず核内で出来た R-ループが一定のプロセスを経て細胞質へと移行することを明らかにする。

しかし全ての核内 R-ループが細胞質へ移行する訳ではなく、配列からかんがえておそらく同じ DNA で、異なる転写がぶつかり合う convergent transcription の際に形成される R-ループが選択的に細胞質へ移行することがわかった。そして、様々なノックダウンや阻害剤を用いた研究から、このような convergent transcription 特有の物理的性質を持つ R-ループは RNaseH1 に抵抗性で、半減期が長いため、XPG や XPFエンドヌクレアーゼがリクルートされ、切れた断片が核膜の輸送システムを用いて細胞内へ排出されることを明らかにしている。

こんなことが起こると当然心配になるのは、細胞質に存在する安定な DNA-RNA ハイブリッドにより自然免疫系が活性化されることだが、実際 R-ループは cGAS と TLR3 により探知され、自然免疫が活性化され、炎症や細胞死が誘導されることを示している。

以上のことから、細胞質の R-ループが上昇するような遺伝子変異は当然、細胞の変性や炎症の元になることが考えられ、実際 HIV感染から細胞を守る SAMHD1 が欠損する Aicardi-Goutieres 症候群の病態はR-ループの量が上昇するためと考えられることを示している。

以上が結果で、一般の人には申し訳なかったが、私の頭の中では様々なメカニズムを勉強し直せる、一年を締めくくるにふさわしい論文だった。おそらく多くのまだメカニズムのわからない疾患の手がかりにもなると思う。

今年一年、ご愛読ありがとうございました。

カテゴリ:論文ウォッチ

12月30日 摂生の仕方も治験が必要(12月21日 Cell Metabolism オンライン掲載論文)

2022年12月30日
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専門家以外の人と話していても、最近ファスティングという言葉はかなり周知されるようになってきたのではと感じる。おそらくある程度のカロリーや糖質制限、運動などは、これまでも多くの人が心がけていると思うが、ファスティングまで登場するとなると、今度は選択に困るのではと思う。それぞれ効果や生理学が異なるので、一度、ダイエット、ファスティング、ケトン食、などについてまとめてジャーナルクラブをやってみるたいと思う。

いずれにせよ、このような方法も、その効果を確かめるためには治験研究が必要になる。特に新顔のファスティングについては、様々な方法があり、治験研究が多く行われているが、効果についてはまだ統一できていないことが多い。

今日紹介するイリノイ大学からの論文は、一日おきのファスティングと運動を組み合わせた効果を、脂肪肝で調べた研究で、いくつか面白いヒントがあったので紹介する。タイトルは「Effect of alternate day fasting combined with aerobic exercise on non-alcoholic fatty liver disease: A randomized controlled trial(一日おきのファスティングとエアロビックエクササイズの、非アルコール性脂肪肝への効果:無作為化対照研究)」だ。

この研究では、線維化は軽度だが、MRI で調べる肝臓内トリグリセライドで確定診断される非アルコール性脂肪肝の患者さんを80人リクルートし、ランダムに、何もしない、運動だけ、一日おきのファスティング(ADF: alternate day fasting)、そして運動と ADF のグループにわけ、3ヶ月後の肝臓内トリグリセライド(IHTG)への影響を、他の指標とともに調べている。

エクササイズは1週間に5日間、トレーナー監視の下に60分、トレッドミル、エアロバイクで行っている。ADFは、食べない日は夜だけ600Kcalの食事、それ以外の日は自由に食べる方法で行っている。

別に特別なこともない治験だが、いくつかの面白い結果が得られている。

  • 一群20人の小さな調査だが、ドロップアウト率がエクササイズ、ADF 両方という最も厳しい群で0だったことで、非アルコール性脂肪肝というはっきりした診断があると、人間は努力することを示している。多分メタボぐらいでは強制力にならないのかもしれない。
  • IHTG という医学的指標を判断基準にしているが、エクササイズ/ADF群が期待通り最も高い効果を示し、平均で5%もトリグリセライドを低下させている。ただ、ADF も捨てたものではなく、4.1%の低下で、母数が少ないため両方行った群との有意差はない。トレーナーにコントロールされた運動を週5回というのは難しいことも多いので、ADFは最初に試してみる価値はある。
  • 3ヶ月 AFDだけの群で見ても、特に脂肪を除いた体重は変化ないので、制限による筋肉退縮などは心配なさそうだ。
  • 以外と運動だけというのは効果がなく、IHTG のみならず、メタボ(ウエスト、内臓脂肪)やグルコース代謝などの改善はほとんど見られていない。一方 ADF では、メタボの改善点、空腹時血糖改善、さらには A1cヘモグロビンまで改善している。
  • 両方組み合わせる効果がはっきりしていたのは、インシュリン抵抗性指標で、今後さらに追求する価値はある。

以上が主な結果で、肝硬変になるかもしれないと考えると、ほとんどの人は節制をすることがはっきりしたので、このような日常の取り組みはどんどん取り入れればいいと思う。非アルコール性脂肪肝に対する ADF の効果についてでは否定的な研究も多いが、1日夜600Kcalの食事をとれるなら、多くの人が可能ではないだろうか。なにより、様々な摂生法についても、このレベルの治験を行ってほしい。

カテゴリ:論文ウォッチ

12月29日 脳脊髄液から見る脳老化(12月13日 Cell オンライン掲載論文)

2022年12月29日
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研究の中には、構想できてもサンプルを集めることがほとんど難しいため実現できない物がある。例えば深海生物などが思い浮かぶが、実際には正常人の組織なども、集めるのが難しいサンプルの中に入る。

今日紹介するシカゴ・ノースウェスタン大学からの論文は、52歳から82歳まで、実に45人の正常人の脳脊髄液を集めて、中に含まれる血液免疫系の細胞を single cell RNA sequencing で調べた研究で、集める仕組みを持っていること自体が驚きの研究だ。タイトルは「Cerebrospinal fluid immune dysregulation during healthy brain aging and cognitive impairment(正常の脳老化と認知障害の脳脊髄液免疫系の調節異常)」だ。

病気の場合は検査する中で様々なサンプルを集めることが出来るが、正常人となるとさすがに脳脊髄液を採取させてくれるボランティアはそうそういないと思う。この研究では、スタンフォード大学認知症研究コホートに参加したボランティアから脳脊髄液を採取しているが、このような参加者を得られたと言うことがこの研究の全てだと思う。

脳脊髄液に存在する全ての細胞を single cell RNA sequencing で解析しているが、存在する細胞のほぼ全てが血液細胞で、そのうち6割近くがT細胞で、この比率は高齢になっても安定している。しかしよく見ると、T細胞の比率は変わらなくても、CD74のような活性化マーカーは上昇していることが single cell RNA sequencing でははっきりわかる。さらに、キラー細胞活性を表すグランザイムなども高まっている。これまで、老化とともに自然免疫系が活性化されることは知られていたが、この結果は獲得免疫も活性化されていることを示している。

実際には、この分子にとどまらず様々な分子が老化とともに変化する。その中で最も特徴的なのが、アルツハイマーのリスク因子である APOE や APOC1 など、脂肪代謝に関わる分子が白血球で上昇している点だ。

そこで、年齢のどの時点が大きな転換点かを調べると、これらの変化のほとんどは78歳を壁にして大きく変化することがわかったが、特に抑制性T細胞と白血球での遺伝子変化が大きいことも明らかになった。

次に、アルツハイマーなどの認知症患者さんと正常高齢者を比べると、抑制性T細胞分化に関わる分子の発現が高まる一方、通常上昇している zAPOE や APOC1 が低下することも明らかになり、これまで知られる遺伝子リスクと完全に一致した。

また、遺伝子発現からT細胞と白血球が刺激しあっている可能性が示されたので、T細胞受容体配列を調べると、アルツハイマー病ではT細胞がクローン増殖している証拠が見つかった。すなわち、特異的T細胞が活性化され、キラー活性などを発揮することが認知症の背景にあることを示した。また、これらT細胞の発現するケモカイン受容体CXCR6は、ほぼ完全にアルツハイマー病でのみ見られ、さらにTauの蓄積と相関していることから、末梢血のT細胞が脳へこのシグナル系を介してリクルートされ、自己免疫に関わることを示している。

以上が結果で、これが本当ならCXCR6阻害によりアルツハイマー病の進行を遅らせる可能性が出てくる。研究自体は測定しただけだが、貴重なサンプルが集まると面白い結果が出てくる。期待したい。

カテゴリ:論文ウォッチ

12月28日 胚中心を考え直す(12月23日 Cell オンライン掲載論文)

2022年12月28日
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抗原に反応するB細胞が発現する抗体遺伝子配列をなんとか決定できるようになったのは1980年代で、今でも覚えているのは、インフルエンザに対して最初反応していたV遺伝子が時間とともに突然変異を繰り返し、抗原への親和性を高める一方で、あるとき突然それまで全く隠れていた新しいV遺伝子がより高い親和性を示して、クローンが置き換わることを見事に示した Milstein の論文だった。

このような抗原に対するB細胞の選択が起こるのは、リンパ組織に形成されるのが胚中心で、これまでの研究で、抗原を長期に提示できる樹状細胞、T細胞、そしてB細胞ががっちりタッグを組んで、より高い抗原結合活性を目指して進化続けるマシナリーであることがわかっていた。そして、この目的のためには、胚中心の無関係のB細胞が入ってこないようしっかりガードされていると考えられてきた。

今日紹介するロックフェラー大学からの論文は、これまでの通説を覆し、胚中心は高親和性の抗体を進化させるマシナリーであることは間違いないが、常に外部からB細胞が入り込んで、既に存在しているマシナリーと競合を繰り返していることを示した研究で、今後、胚中心での過程の再検討を促す重要な研究だと思う。タイトルは「Clonal replacement sustains long-lived germinal centers primed by respiratory viruses(呼吸器系ウイルスにより感作された長期間続く胚中心でのクローンの置き換わり)」だ。

マウスにインフルエンザウイルスを感染させ、縦隔リンパ節の胚中心B細胞を追跡すると、半年にわたって反応が続いているのがわかるが、これまで考えられてきたように、一方的にV遺伝子突然変異が蓄積するわけではなく、一度低下してまた上昇、といった波が繰り返されることを確認している。

とすると、限られたB細胞クローンだけがそこで活動している可能性は低く、胚中心といえども他のB細胞の侵入がある可能性が高い。そこで、感染後胚中心が形成されたところで、胚中心B細胞が蛍光マーカーを発現するようにして調べると、感染により胚中心を形成したB細胞以外に、常に他のB細胞が侵入していること、しかし最初に胚中心に入ったB細胞だけでV遺伝子の変異が蓄積していることを明らかにする。すなわち、他のB細胞はパッセンジャーとして入っては消えしていることがわかる。

この新しいB細胞の侵入が感染による物でないことを示すために、正常個体と血管をつなぐパラビオーシスを行い、感染個体だけでなく、全く免役されていないB細胞も胚中心に入っては消えを繰り返していることを証明している。

重要なことは、こうして侵入するB細胞は、インフルエンザ抗原と反応しない点で、抗原提示細胞を中心にスクラムを組んで他の細胞が入れないというこれまでの考えは、少なくともインフルエンザ感染では否定される。

一方、抗原特異性が限られるトランスジェニックマウスからは、全く新しいB細胞の侵入はないことから、これらのB細胞は他の抗原に対するマシナリーが同じ胚中心で形成されることで、侵入した結果ではないかと考えられる。すなわち、胚中心は一つの抗原に限られるのではなく、実際には様々な抗原に対して形成されるが、一つの胚中心で多くの抗原マシナリーが競合していることになる。

ただ、しっかりとスクラムが組めると、そのマシナリーの寿命は長く、この実験ではこのような競合があるおかげで、インフルエンザに対する高い親和性や、複数のインフルエンザ抗原に反応できる抗体への進化が、数ヶ月にわたって維持できることがわかる。

以上、一つの胚中心で、異なる抗原に対するマシナリーの競争が起こっているというシナリオは、今後ワクチン設計も含めて重要な結果だと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ

12月27日 青班核刺激は人工内耳による聴覚機能再建を促進する(12月21日 Nature オンライン掲載論文)

2022年12月27日
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補聴器を使うようになってから、音も様々な音素を脳で再構成して聞いていることがよくわかるようになった。現在会話など一般使用と、音楽会など用2種類の補聴器を使い分け、設定もスマフォでこまめに行うことで、自分のイメージに合った音の世界を手に入れている。ただ、補聴器による補正は、機能が大きく低下したとは言え、まだ空気の波を感じられる段階で、これが出来なくなると現在では人工内耳を用いて、直接内耳神経を刺激する方法が用いられる。この場合マイクで拾った音を直接神経刺激に変えるため、音の世界がうまく表象できるようになるために時間がかかり、また個人差が極めて大きい。

今日紹介するニューヨーク大学からの論文は、ラットに人工内耳を設置して、聴力が失われる前の音の世界を人工内耳で表象する時、青班核を刺激することで機能回復が著明に早まることを示した重要な研究で、12月21日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Locus coeruleus activity improves cochlear implant performance(青班核の活性が人工内耳の性能を高める)」だ。

タイトルにある青班核というのは、脳幹にあるノルアドレナリン作動性神経の小さな集合で、脳を覚醒させる網様体賦活系の一つで、刺激を受けたときの覚醒し、さらに目がさえてくるのは青班核の働きだ。また、記憶や学習時に、どの刺激を選択するかにも関わっている。

この研究では、正常ラットにまず特定の音に反応する課題を学習させた後で、内耳を破壊して聴力を喪失させた後、人工内耳を挿入、これをケージに設置したマイクと連結させ、聴力を回復させている。これにより、蝸牛核など直接音が入る神経領域の興奮は誘導できるが、正常時に学習した課題をこなすためには時間がかかる。また、人間と同じように個体差も大きい。

いずれにせよ、トライアルを重ねると、学習した課題が出来るようになる。この過程に、音に対して反応し注意を向ける過程に関わる青班核が関わると考え、学習中の青班核の反応を調べると、最初は音ではなく課題での鼻の刺激や褒美に驚いて反応していた段階から、徐々に目的の音を聞き分けて褒美の反応にリンクさせる過程が観察される。すなわち、目的の音だけが青班核を活性化出来るよう訓練されることがわかる。

そこで、目的の音を聞いたときに、光遺伝学的に青班核を刺激して、目的の音と青班核の興奮をリンクさせると、人工内耳を通して課題が出来るようになるまでの時間が大きく短縮する。

最後に、聴覚を統合している領域全体の興奮を記録し、青班核の刺激により誘導された音の表象を調べてみると、青班核を刺激された個体だけ課題を遂行する過程での興奮神経と抑制神経のバランスがとれ、さらに多くの領域が反応していることが明らかになった。またこうして測定される脳の興奮パターンの指標と、課題遂行の成績は完全に比例する。

以上の結果は、青班核による指向性の誘導が、目的の音を他の音から区別して聞き取る過程に重要な役割を演じていることを明らかにするとともに、人工内耳に早く慣れるために青班核の刺激は有効であることを示している。青班核は小さいので、特異的に刺激は難しいと想像されるし、また投射は様々な領域に広がっているので、ランダムな刺激が他の行動に影響を持つ心配もあるが、臨床応用の可能性は是非進めてほしいと思う。

しかし、ラットの内耳に人工内耳を埋め込むことだけでも大変だと思うが、このグループの聴力に関する研究への執念が感じられる論文だった。

カテゴリ:論文ウォッチ

12月26日 意外にも Claudin1 が線維化を促進する(12月22日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2022年12月26日
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Claudin1 は、亡くなった月田さんの京大医学部研究室で、古瀬さん達によりマウス肝臓のタイトジャンクション分子として1998年報告されたが、月田さんが亡くなるまでのほぼ同じ時期を京大医学部で過ごし、遺伝子クローニングまでのいきさつを折にふれ詳しく聞くことが出来た私にとっても思い出深い分子の一つだ。論文が出て少ししてから、上皮以外にも発現する細胞があって、何か面白い機能を持っているかも知れないという話も聞いていた。

今日紹介するストラスブール大学からの論文は、その Claudin1 が、シグナル分子のスキャフォールドとして線維化を促進しており、治療標的になり得ることを明らかにした研究で、12月22日号 Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「A monoclonal antibody targeting nonjunctional claudin-1 inhibits fibrosis in patient-derived models by modulating cell plasticity(Claudin-1の非接着部分に対する抗体は細胞の可塑性を変化させて患者さん由来細胞モデルでの線維化を抑制する)」だ。

理研に移ってからはほとんどフォローできていなかったが、Claudin1 はC型肝炎ウイルスの侵入に寄与し、また肝臓の線維化により発現が強く上昇することが明らかになっていたようだ。

この研究では、慢性の肝臓病では、幹細胞だけでなく、血液や間質細胞でも Claudin1 の発現が上昇すること、また TNFα 刺激により NFκB により直接転写が上昇することをまず確認した後、既に確立していた Claudin1 の非接着部分に結合する抗体を用いて、線維化進行とともにこの抗体の染色が高まることを明らかにする。

以上の患者さんでの結果は、炎症により肝臓で分泌される TNFα により様々な細胞で非接着性Claudin1 が上昇していることを示している。そこで、Claudin1 が直接線維化に関わるかどうかを確かめる意味で、人の肝臓細胞をマウスに移植して肝臓を再構成する実験系で、siRNAを用いて Claudin1 をノックダウンする実験を行い、Claudin1 が直接線維化促進因子として働くことを明らかにしている。

この同じ実験系で、siRNAと同じ効果を非接着Claudin1 に対して作成したモノクローナル抗体が肝臓の線維化を抑えることがわかったので、そのメカニズムと臨床応用可能性について研究を行っている。

メカニズムだが、マウスモデルや、ヒト肝臓オルガノイド培養を用いた実験で、いずれも線維化が促進すること、また線維化に関わる様々なシグナル回路を同じ抗体が抑制できることから、おそらく Claudin1 は細胞表面で様々なシグナル受容体や接着分子と結合するスキャフォールドを提供し、シグナルを増強する役割を演じており、非接着Claudin1 に対する抗体は、スキャフォールドとしての機能を抑制することで線維化を抑制することを明らかにする。そのため、同じ抗体が、肝細胞、血液細胞、間質細胞それぞれで異なる作用を示し、線維化だけでなく、肝細胞の場合は成熟細胞への分化を促進することも示している。

動物モデルや肝臓のオルガノイドモデルを用いた実験結果は、肝臓線維化抑制の前臨床実験としてはかなり有望と言える。そこで次の段階として、サルを用いた抗体の安全性試験を行っている。もし接着 Claudin1 にも何らかの作用を示せば、これは大変なことになる。幸い、サルに長期投与しても細胞接着には大きな影響は見られなかったようだ。

以上が結果で、肝臓だけでなく、肺や腎臓の線維化にも効果があることを示す実験も行って、この抗体が将来線維化一般の治療に使える可能性も示唆している。思いもかけないところから、しかしかなりパワフルな治療法が開発された気がする。

カテゴリ:論文ウォッチ

12月25日 新生児腸内細菌叢発達の徹底研究(12月22日号 Cell 掲載論文)

2022年12月25日
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このブログでも何回か紹介してきたが、生後1年は私たちの腸内細菌叢が量・質ともに大きく変化する時期で、このとき細菌叢が炎症を抑える方向に働くことが、アレルギーなどその後の免疫状態を決める重要な要因であるとして、研究が進んでいる。

最初はただリボゾームの配列から細菌叢の変化を特定するだけだった研究は、その後細菌叢の全ゲノム配列を決定する大規模研究へと変化し、結局勝負は多数のサンプルから得られるビッグデータを解析する能力になっているように思う。その結果、限られた研究所のアクティビティーがますます高くなってきている感じがする。

今日紹介するのは、フィンランドの新生児についてのコホート研究だが、コレスポンデンスは Broad研究所で、覚えておられると思うがバングラデシュの新生児の細菌叢発達について細菌叢とメタボロームを調べた(https://aasj.jp/news/watch/20882)のと同じ研究室からの論文で、対象がフィンランド人だけという違いになっている。タイトルは「Mobile genetic elements from the maternal microbiome shape infant gut microbial assembly and metabolism(母親細菌叢からの伝搬性遺伝要因が子供の腸内細菌叢と代謝の発達に関わる)」だ。

1ヶ月の間に同じ研究室からの論文を2編も紹介することになったが、バングラデシュといい今回のフィンランドといい、世界中の発達期の研究が集まってくるとはうらやましい限りだ。研究としては70組の母子の細菌叢のDNAメタゲノム配列決定、およびメタボロームの解析を経時的に行い、得られたビッグデータを読み解いており、素人の私から見ても、そんじょそこらインフォーマティスとでは太刀打ちできない力がある研究室と言える。だからこそ、フィンランドのコホートも全面的に解析を委ねているのだと思う。

タイトルにもあるように、この論文の最大の売りは、母親と子供の遺伝子配列の解析から、11種類の母親に存在するバクテリア種から、なんと977種類の遺伝子が、子供の細菌叢に水平遺伝子伝播したという結果だ。すなわち、伝搬したと考えられ得る遺伝子の前後配列が、母親と子供では異なることや、その遺伝子が伝搬したホスト細菌と、元の細菌の種類が異なることなどが確認され、細菌自体が増殖したのではないことを示している。これを調べられるだけのデータ解析力は感心する。

しかし、遺伝子断片と言っても別の個体間で伝達される必要があり、ほとんどがファージを介すると言っても、ファージ自体が個体間で伝搬したとは考えにくいだろう。元々、外部からのバクテリアの定着率は低いが、なんとか腸まで達した母親由来バクテリアから、ファージウイルスが活性化され、広まることで水平伝搬が起こったと考えるのが最もわかりやすい。

事実、伝搬される多くの遺伝子は炭水化物やアミノ酸の代謝に関わり、遺伝子を獲得したバクテリアの選択を通して、細菌叢の構成を決めている可能性を示している。ただ、水平遺伝子伝搬については納得できるが、それが都合よく子供の細菌叢の機能を高めているという話は、まだまだ検討が必要だと思う。

さて、これ以外にも様々な面白い結果が示されているので箇条書きにしておく。

  • 妊娠前、妊娠中、そして産後と、妊婦さんの細菌叢は大きく変化する。特に細菌叢による胆汁酸の代謝と、硫化水素代謝が大きく影響されることがわかった。ただ、その意味については明確ではない。
  • 代謝物の解析から、人工栄養の子供は腸内環境が炎症に引っ張られている可能性が、細菌や代謝物から示唆された。ただ、この研究のもう一つの目的である、抗原性のあるタンパク質を徹底的にペプチドへと加水分解した人工栄養を与えることで、炎症性の変化は抑えることが出来る。
  • 母乳による炎症環境抑制に、炎症のメディエーターとして知られるエイコサノイドが直接関わることがわかった。即ち、母乳で育つ子供だけが、便中のエイコサノイドが存在する。

以上が気になった点だ。今後、もう少し焦点を絞って詳しい解析が行われると思うが、いずれにせよ生後1年という大事な時期の解析が、世界規模で進むことの意味は大きい。

カテゴリ:論文ウォッチ

12月24日 能ある鷹は爪を隠し、透明のガラスガエルは赤血球を隠す(12月22日号 Science 掲載論文)

2022年12月24日
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写真はCDB時代、研究員として在籍し、現在スイスETHの教授をしているTimm Schroederが、おそらくコスタリカで撮影して送ってくれた「Glassfrogガラスガエル」の写真だ。Timmは大学教授にしておくのは惜しいほどの写真の腕前で、多くの生物の写真を送ってくれているので、機会があれば今後も紹介したい。

今日紹介するデューク大学からの論文は、ガラスガエルの透明性の秘密に迫った驚きの研究で、12月22日号 Science に掲載された。タイトルは「Glassfrogs conceal blood in their liver to maintain transparency(ガラスガエルは透明性を保つために血液を隠す)」だ。

この研究が対象にしたガラスガエル、Hyalinobatrachium fleischmanniは皮膚の色素がほとんどないためTimmの写真よりさらに透明に見える。しかし、なぜこれほどの透明性が、不透明のヘモグロビンが詰まった赤血球を全身に循環させる必要がある脊椎動物で可能なのか?

この研究では、この透明性は睡眠中の現象で、動いているときは体中に赤血球が循環して透明性が低下することに注目し、睡眠中は赤血球が全身の循環から切り離されるのではと着想した。

勿論これを確かめるためには、生きて睡眠中のカエルの赤血球の居場所を調べる必要があるが、光だけでは透明でよくわからない。そこで登場するのが以前紹介した photoacoustic microscopy(PAM) で、光がヘモグロビンに吸収される時に発生する超音波を拾って画像化する技術だ(https://aasj.jp/news/watch/19684)。

PAMの技術は素晴らしく、睡眠中になんと8−9割の赤血球が肝臓に隔離されることを見事に明らかにした。これは、肝臓に存在する類洞に多くの赤血球を貯蔵できるためで、他のカエルも原則同じことが可能かも知れないが、実際はガラスガエルだけが、循環を大きく変化させられるメカニズムを持っている。このダイナミズムを見ると、一種の冬眠に近い状態が日々繰り返されていることになる。

とはいえ、赤血球が肝臓に集まればそれだけで余計目立つのではと心配になる。これについては既に研究があり、ガラスガエルの内臓は光を反射するクリスタルでデコレートされた袋に入っているため、外部から内部が見えにくくなっているようだ。

いずれにせよ、こんなに赤血球を詰め込んで血栓ができないのかなど、医学的にも興味がわく面白い研究だった。何よりも、クリスマスに子供に語るお話として最適だ。

カテゴリ:論文ウォッチ

12月23日 Asgardアーキアの細胞骨格が見えた(12月21日 Nature オンライン掲載論文)

2022年12月23日
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Science の今年のニュースは先週発表されたが、Natureは今年の10人だけで、ニュースの発表は12月21日号にも掲載されていなかった。おそらく来週になると思うので、その時今年のニュースを振り返るzoomを計画したい。おそらく本当の年末になる気がする。

さて、2019年 Sience が選んだ10大ニュースの中に、産総研の高井さん達が Nature に発表した生きた Asgardアーキアの分離が選ばれたのは記憶に新しい(https://aasj.jp/news/watch/12204)。それまで、メタゲノム解析から、アーキアと真核生物をつなぐリンクとして特定されていた Asgardアーキアの増殖条件を決定し、その特異な形態を示したインパクトは大きい。

それだけでなく、Asgardアーキアが長い突起を使ってバクテリア代謝系を徐々に取り込み真核生物へと進化するという高井さん達のストーリーは、形態と機能の見本のような話で説得力があった。

当然、細胞体から蜘蛛の足のように突起が伸びる形態の分子背景を知りたくなるが、今日紹介するウィーン大学からの論文は、もう少し扱いやすい新しい Asgardアーキアを分離し、その細胞骨格の構造を示すことに成功した研究で12月21日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Actin cytoskeleton and complex cell architecture in an Asgard archaeon(Asgard-アーキアのアクチン細胞骨格と複雑な細胞構造)」だ。

産総研の論文は、深海の沈殿物から分離した Asgardアーキア(AA) が、装飾が遅く壊れやすい生物であるかを示していた。おそらく、電子顕微鏡レベルで細胞骨格を研究するの極めて難しい課題のようだ。

この研究は産総研の AA を使うのではなく、スロベニアの運河河口の泥から新しい種類を分離している。この結果は、海水が存在すれば、深海でなくとも AA が存在し、分離できることを示している。今後さらに多くの AA が分離されるが、今回分離された種は産総研の Ca P.syntrophicum と極めて近い関係にある AA なので、良く似た AA が世界中に拡がっている可能性が高い。

面白いのは産総研の AA と比べて、遺伝子数が多いことで、例えばリボゾームRNAは産総研の AA が1種類しかないのに対し3種類存在する。すなわち、近縁でも AA で遺伝子の獲得、喪失など大きな変化が起こっていることを示している。そのおかげか、増殖スピードは産総研の AA より少し速い。それでも、純粋な培養は難しく、エサになるバクテリアなどが培養に混在しないと増殖できない。その結果、最も純粋な培養で AA が80%で、残りは他のバクテリアが2種類存在する培養になる。

細胞骨格を調べる場合、骨格の基本となるアクチンを検出する抗体と、電顕などが必要になるが、AA は極めて壊れやすく簡単ではなかったようだ。いずれにせよ、様々な工夫を重ねて混在しているバクテリア特別して AA を電顕で撮影する方法を開発し、またアクチンに対する抗体を作成し、最終的に細胞骨格が細胞突起の隅々に張り巡らされていること、また細胞体内では膜近くに存在すること、さらにクライオ電顕上でヘリックス構造を持つ構造をとって、まさに細胞骨格として働いていることを示している。

アクチンに対する抗体で染色することで、一般の顕微鏡でも特異的観察が可能になり、電顕で観察されるのと同じように、突起の隅々までアクチンが重合していることが明らかになった。

基本的には、AA の細胞骨格をついに見ることが出来たのがこの論文のハイライトで、今後新しい方法や抗体を用いて、さらに多くの研究が続く気がする。そして、ようやく真核生物が進化について明らかにされると思う。

カテゴリ:論文ウォッチ
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