昨日に続き今日紹介するワシントン大学からの論文も脳にあるマスト細胞に注目してその機能を調べ、ヒスタミンなどの分泌を介してクモ膜下腔から硬膜へと続く脳脊髄液の流れをネガティブに調節することを示した研究で、昨日紹介した研究とサイドバイサイドで7月24日 Cell にオンライン掲載されている。タイトルは「Mast cells regulate the brain-dura interface and CSF dynamics(マスト細胞は脳と硬膜のインターフェースを調節して脳脊髄液のダイナミックスに影響する)」だ。
この研究では昨日頭蓋骨髄からのカナル構造がクモ膜を突き抜けることで、クモ膜下腔から脳脊髄液 (CSF) を硬膜へと流す流路にもなっており、マスト細胞は頭蓋からの細胞移動だけでなくCSF の流れも調節するのではと考えた。
そこで、まず昨日紹介したマスト細胞特異的に発現している Mrgprb2 に作用があることが知られている 48/80 と呼ばれる化合物を頭部皮下に注射し、脳のマスト細胞を刺激すると、期待通りマスト細胞は活性化し脱顆粒する。そのとき、脳の大槽に直接蛍光タンパク質を注射しその動きを追跡すると、クモ膜下腔から硬膜への CSF の流れが強く抑制されることを発見する。この抑制は48/80でなく、同じく Mrgprb2 を刺激できる内因物質 substance P でも起こるし、また IgE による刺激でも起こるので、マクロファージ活性化に伴う脱顆粒で分泌される分子が直接 CSF の流れを抑えていることがわかる。
当然最も重要なマスト細胞由来分子はヒスタミンなので、ヒスタミンを頭蓋皮下に注射すると、期待通り CSF の流れが抑制される。これは頭蓋からのカナルを形成する静脈をヒスタミンが拡張させ、その結果クモ膜下腔と硬膜をつなぐ隙間が減少することで起こることを示している。
昨日の論文と合わせると、マスト細胞の活性化はカナルを通る好中球を高めるとともに、CSFの流れは抑えられることになる。
昨日の論文では卒中によるマスト細胞の活性化に焦点を当て、結果マスト細胞の活性化を抑えることが卒中後の神経壊死を抑えることを示していた。即ち、マスト細胞はネガティブな作用を持つことになる。
一方この研究では、細菌やウイルス感染によるマスト細胞の活性化モデルを取り上げ、細菌によるマスト細胞の活性化が CSF が流れる隙間を閉じることでカナルから出てきた細菌やウイルスが脳内への侵入を防ぐポジティブな役割があることを示している。また、この研究でもマスト細胞の活性化により好中球が頭蓋骨髄から脳内への浸潤が高まることも示している。即ち、細菌感染という枠組みで考えると、マスト細胞がこの特殊な組織構造を調節して脳を感染から守るポジティブな役割を演じていることもわかる。
以上2日間、まだまだマスト細胞の謎はつきないようだ。