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8月18日 血小板は末梢に流れる DNA の掃除屋?(8月14日 Science 掲載論文)

2025年8月18日
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末梢血には血液細胞を中心に、様々な細胞から吐き出されたDNAが流れている。この中にはガン細胞から吐き出されるDNAもあるし、妊婦さんの場合は胎児に由来するDNAも流れている。これを利用して、ガンの経過を追跡したり、胎児の出生前診断が行われている。このように末梢に流れるDNAは臨床に利用できる便利な材料だが、例えば感染や敗血症で量が増えると、腎臓での濾過障害や炎症を起こすこともある。従って、一定の量を超えないようにDNAを処理できるようになっている。最も重要なのは血中のDNaseによる分解、マクロファージなどによる除去、そして断片化されたDNAは腎臓から濾過される。

今日紹介するオックスフォード大学からの論文は、血小板も末梢のDNAを取り込んでDNA濃度を抑える働きがあり、末梢血の cell free DNA (cfDNA) と同じように利用できることを示した研究で、8月14日 Science に掲載された。タイトルは「Platelets sequester extracellular DNA, capturing tumor-derived and free fetal DNA(血小板は細胞外のDNAを隔離する機能を保ち、腫瘍や胎児由来のDNAを捕捉できる)」だ。

血小板や赤血球がDNAを取り込む可能性があることは以前から指摘されていたが、これが血中からDNAを除去する一つのメカニズムではないかと着想したのがこの研究の全てといえる。

まず血小板にDNAが取り込まれていること、そして通常は全体の8%ぐらいが多くのDNAを取り込んでおり、取り込まれたDNAには胎児のY染色体由来の遺伝子も含まれることから、血小板ができるときに取り込まれたDNAではなく、末梢に流れる間に取り込んでいることを確認している。

次に血小板が血中DNAのクリアランスを行っていることを示すため、人為的に血小板減少症を誘導して血中のDNA量を調べると、血小板の低下に伴い、血中DNA濃度は4倍近くも高まることを示している。即ち、DNA分解酵素だけではなく、血小板も血中 cfDNA濃度の調節に重要な働きをしている。

次は血小板にDNAが取り込まれる様式を細胞学的に調べ、一つは血小板がエネルギー依存的に膜が落ち込むエンドゾーム形成による cfDNA取り込みと、細胞から吐き出されたDNAが詰まったエクソゾームを取り込むことが主な様式で、DNAは膜で守られているため、外部のDNaseの影響を受けないことを示している。血小板の寿命は1週間から10日ぐらいなので、血小板とともに貪食細胞に処理されることになる。この過程は、細胞骨格の変化を伴う過程なので、様々な化合物を使って抑えたり、高めたりすることもできる。

では血小板に取り込まれたDNAをガンの診断に用いることができるか?結論的には、cfDNAと同じぐらいの感度でガンや胎児診断に使うことができる。ただ、マウスを使った大腸ガンモデルを使って cfDNAと検出感度を比べ、少し血小板のDNAの方が感度良くガン特異的DNAを検出できることを示しているが、手間も考えると cfDNAアッセイに変わるところまでは行かないだろう。

結果は以上で、着想の面白さと血小板減少と血中 cfDNAを比較した実験以外は、驚くほどの結果ではなかったが、例えばSLEで血小板減少が見られるときには腎障害の頻度が高まると言った現象も新しい見方ができるかもしれない。

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