4月20日  自由に進化させられるサイトカインの設計(4月14日 Cell オンライン掲載論文)
AASJホームページ > 2022年 > 4月 > 20日

4月20日 自由に進化させられるサイトカインの設計(4月14日 Cell オンライン掲載論文)

2022年4月20日
SNSシェア

IL-2はT細胞の増殖を誘導するインターロイキンとして最も古くから利用されており、現在でもガンのキラー細胞試験管内増幅に利用されている。ところが、IL-2を生体内に投与する治療は行われていない。というのも、キラー細胞だけでなく、抑制性細胞、NK細胞、果ては単球までが刺激され、作用が多様すぎてコントロールがきかない。これは、IL-2に対する受容体が3種類もあり、その発現の違いにより、IL-2への様々な感受性が生まれるためだ。従って、IL-2やIL-15分子を変異させて、それぞれの受容体の刺激の仕方を変化させる、人工リガンドを用いて、キラー細胞だけ(https://aasj.jp/news/watch/9537)、あるいは抑制性T細胞だけ(https://aasj.jp/news/watch/14564)を増殖させる方法の開発が続けられ、実際に人体に投与するところまでこぎ着けている。

このように既存のインターロイキンに変異を導入する代わりに、それぞれの受容体に対する結合力の異なる抗体を用いて受容体からのシグナルを自由に調節できないか調べたのが、今日紹介するスタンフォード大学からの論文で、4月14日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Facile discovery of surrogate cytokine agonists(サイトカインに代わる作用分子の簡単な開発)」だ。

これまでサイトカイン受容体に対する抗体を用いて、サイトカイン自身に代わるアゴニスト効果を得る研究は行われてきている。ただこの研究では、通常の抗体を用いず、抗体の重鎖変異部分(VH)だけを用い、VHをファージディスプレイと呼ばれる方法を用いて進化させ、これをリンカーで結合させることで、サイトカインの代わりにならないか調べている。

まずIL-2について可能性を調べている。IL-2は α、β、γ の3種類の受容体から出来ているが、細胞内へのシグナルは β、γ 受容体が集まることで発生する。そこで、βに対するVHと γ に対するVHをリンカーで繋いで、両分子を近接させる可能性を探っている。実際には、βに対する65種類のVH、γに対する50種類のVHを選んだ後、配列からそれぞれ4種類、6種類に絞り、全ての組み合わせで人工リガンドを作成、細胞の増殖に必要なSTAT5活性能力を指標に10種類に絞って、様々な活性を調べている。

当然膨大な結果なので、要点をまとめると次のようになる。

1)刺激により誘導される転写因子を調べると、IL-2に比べて多様な刺激が発生している。例えば、STAT5は活性化されているが、STAT1は全く活性化されないといった変化が、VHリガンドでは得られる。

2)この違いは、VHリガンドにより誘導される β、γ 受容体の構造が大きく異なることに起因している。すなわち、受容体の集り方を変化させることで、細胞内のシグナルを変化させられる。

3)その結果として、T細胞やNK細胞の異なる活性を引き出すことが出来るリガンドを設計できる。例えば、NK細胞だけを強く活性化したり、エフェクターT細胞やメモリー細胞を別々に刺激することが出来る。

今後、β に対するVHだけを組み合わせたり、γ に対するVHだけを組み合わせたりすることで、さらに自由に活性を調節できる可能性がある。

これを示すために、この研究では β に対するVHに、IL-2とは異なるIL-10受容体に対する抗体を組みあわせるリガンドを作成し、これによりCD8は増殖させるが、CD4は全く増殖しないリガンド作成に成功している。

また、2つのインターフェロン受容体に対する異なる結合力を持ったVHを組みあわせたリガンドを設計して、抗ウイルス活性ではインターフェロンに匹敵するだけでなく、問題になる炎症性サイトカインをほとんど誘導しない新しいリガンドの作成にも成功している。

以上が結果で、VHを徹底的に進化させた後(あるいは、進化の結果、袋小路に入った受容体システムの進化を巻き戻しているのかもしれない)目的に合った分子を選択することで、従来の方法より遙かに自由にシグナルを設計できるリガンド作成方法が可能になったことを示す、重要な研究だと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ