4月22日 ゲノムの傷も病気の過程を知る記録になる:アルツハイマー病のケース(4月20日 Nature オンライン掲載論文)
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4月22日 ゲノムの傷も病気の過程を知る記録になる:アルツハイマー病のケース(4月20日 Nature オンライン掲載論文)

2022年4月22日
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単一細胞のゲノム解析手法がいくつも開発されたおかげで、体細胞突然変異解析についての論文を目にする機会が増えてきた。先日は、肺上皮細胞で、老化による突然変異蓄積に加えて、喫煙者ではタバコによる違うタイプの変異が時間とともに増加することが示された(https://aasj.jp/news/watch/19509)。このような論文を読むと、DNA は遺伝子とその発現をコードする情報と言うだけでなく、個々の細胞の経験を知るための情報としても使えることがわかる。

この、ゲノムに残された特殊な体験を、アルツハイマー病の興奮神経細胞で調べたのが、今日紹介するハーバード大学からの論文で4月20日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Somatic genomic changes in single Alzheimer’s disease neurons(単一のアルツハイマー病神経に見られる体細胞ゲノム変異)」。

方法論などは前回紹介した気管支上皮細胞の単一細胞ゲノム解析と同じだ。ただ、アルツハイマー病(AD)で特に問題になる興奮神経細胞だけを FACS で純化して解析している。また、海馬の CA1 領域、及び前頭前皮質から細胞を調製し、AD の影響を、正常神経細胞と比較している。

結果は以下のようにまとめられる。

1)肺上皮で見られたように、年齢とともに神経細胞でもほぼ同じレートで変異が蓄積する。肺上皮と比べたときこの結果は極めて重要で、神経細胞はほぼ分裂しないと考えていいので、新陳代謝する肺上皮も、増殖しない神経細胞も、同じように変異が蓄積することは、変異が細胞の増殖ではなく、転写時に発生する DNA ストレスで起こっていることがわかる。これは突然変にのタイプからも推定される。以上、細胞が生きて DNA が転写される限り、変異は時間とともに蓄積する。

2)AD 患者さんの細胞でも、この自然に起こる変異の蓄積はほぼ同じレートで見られる。ただ AD の場合、これに加えて新しいタイプの変異が上積みされ、結果として AD では変異の数が増加する。特に海馬の CA1 で変位数の上昇が大きい。この上積み分の変異のタイプを調べると、酸化ストレスによる DNA 切断由来の変異であることがわかる。

3)最後に、これらの変異によって神経細胞活動に影響が出る可能性についても調べている。勿論、ゲノムを調べた細胞の機能を知ることは出来ない。従って全て推定だが、一つの遺伝子機能が完全に欠如した変異が、0.1%の確立で生まれること、そして転写時に変異が発生することから、当然神経細胞に必要な分子の発現に関わる変異が発生すると考えられることから、変異によって神経活動が低下する可能性は十分あると結論している。

結果は以上で、まだテクノロジーが安定しないのではと、なかなか鵜呑みにしづらいのだが、ゲノムに記されたエラー記録から病気を調べることが流行る気がする。

 

カテゴリ:論文ウォッチ