12月7日 初期糖尿病の統合的研究(12月4日  Nature オンライン掲載論文)
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12月7日 初期糖尿病の統合的研究(12月4日 Nature オンライン掲載論文)

2023年12月7日
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先日91歳になられた井村元京大総長とゆっくり飲む機会があった。京大再生研やSchool of Public Health開設、さらに神戸CDBの設立まで、ほぼ20年にわたってプロジェクトを一緒に進めてきた思い出の多いお付き合いだ。91歳になられた今も、当時と変わらない頭の冴えに驚いたが、それだけでなく、体型も以前のままで、その上私と同じ量の食事を平らげられたのには感心した。その井村先生が、今でも理解したいとおっしゃっているのが、なぜ日本人の2型糖尿病患者さんには欧米のような肥満が少ないかという疑問だった。

実際、2003年筑波大学医学部の山田さん達は、日本人の2型糖尿病患者さん2200人のBMIが23.1に対して、英国の平均が29.4と大きく違うことを The Lancet に報告している。すなわち、肥満が続いてインシュリン抵抗性が形成される前に、日本人は膵臓でのインシュリン分泌が低下する可能性が高い。実際、東大の門脇さん達によって、日本人糖尿病のメタゲノム解析が行われ、GLP-1受容体の日本人特有の変異も発見されているが、まだまだ明確な答えはない。

ただ、糖尿病の遺伝リスク解析の中から因果性を導き出すのは簡単でない。その一つの原因は、マウスをモデルとして使えない多くの要因があるからだが、今日紹介するバンダービルド大学とミシガン大学空の共同論文は、この問題を初期糖尿病患者の臓器ドナーから得られた膵島細胞を利用して、ゲノム、臨床、細胞生理学を統合した研究を行うことで、長年の糖尿病の問題を解決した研究で、12月4日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Genetic risk converges on regulatory networks mediating early type 2 diabetes(初期糖尿病に関わる遺伝リスクは遺伝子発現調節ネットワークに集約した)」だ。

研究では、インシュリン分泌が低下した糖尿病患者さんの膵島の遺伝子発現等々のオミックス、組織学的検討、そして培養やマウスへの移植による機能検査を行い、インシュリン分泌不全の原因を探っている。

これまで、初期糖尿病ではβ細胞数が減り始めている可能性が示唆されていたが、今回調べた20人はβ細胞の量、さらにはインシュリン合成は全く正常だが、グルコースの刺激に対して起こるインシュリン分泌反応が低下しており、この性質はマウスへ移植した後も続くことを明らかにした。すなわち、初期糖尿病はβ細胞のインシュリン分泌に関する生理学的機能異常であることが明らかになった。

次にこの機能不全の原因を遺伝子発現解析やクロマチン解析を用いて調べ、糖、脂肪、アミノ酸代謝、さらにはインシュリン分泌に関わる、いわばドンピシャの分子セットに加え、なんと細胞膜の繊毛形成に関わる分子の発現異常が存在することを発見する。さらにこうして糖尿病膵島での発現異常が明らかになった遺伝子の多くは、ゲノムリスク解析で相関が見つかっている遺伝子を多く含んでいる。

発現異常が特定された遺伝子の中で、最も上流にあると注目したのが膵臓発生異常の原因として知られるRFX6転写因子で、正常β細胞でノックダウンすると、2型糖尿病患者β細胞と良く似た遺伝子発現パターンを示し、さらに細胞生存には問題ないが、インシュリン分泌が低下することを発見する。そして、ゲノム解析でもRFX6の発現に関わるイントロンの多型が、糖尿病リスクとしてリストされていることを明らかにしている。

以上が結果で、発生過程に関わる分子として知られるRFX6が2型糖尿病を決める重要なマスター遺伝子の一つであることがわかった。今後、例えばオランダ飢餓研究、あるいは日本人集団など、インシュリン分泌不全が起こりやすい集団での研究は極めて面白く、日本人型の糖尿病を考えている手がかりになるかも知れない。しかし、これだけのことを人間の膵島を使って研究できる時代が来たことは、井村先生も驚かれるように思う。

カテゴリ:論文ウォッチ