12月22日 海馬嗅内野の生後発達はヒト特異的(12月20日 Nature オンライン掲載論文)
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12月22日 海馬嗅内野の生後発達はヒト特異的(12月20日 Nature オンライン掲載論文)

2023年12月22日
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海馬の嗅内野(EC)は、海馬に入る様々なインプットの入り口として働くだけでなく、海馬の神経細胞の供給基地としても記憶に重要な働きをしている。さらに、アルツハイマー病(AD)では最初に神経変性が明確になる部位とされており、実際 AD早期に興奮神経と抑制性神経のバランスが壊れて、EC でてんかん様発作が頻発することも知られている。

今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文は、ヒト胎児の固定標本の丁寧な検討から、ECへの神経細胞の供給が人間だけで生後1年以上にわたって続くことを示した研究で、12月20日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Protracted neuronal recruitment in the temporal lobe of young children(幼児の側頭葉で見られる持続的神経供給)」だ。

ほとんどの興奮神経細胞は脳の各領域で発生するが、抑制性の介在神経細胞は ganglionic eminence(GE)と呼ばれる基底核で分裂し、その後大脳各部位へと移動する。この時前頭葉への移動するのは L(lateral)GE、M(medial)GE で増殖する神経で、胎児発生でほぼ完成するが、後方への供給は C(caudal)GE から行われ、生後も続くとされてきた。

この研究では、生後の幼児で起こる CGE から海馬EC への神経供給がいつまで続くかに焦点を当てて調べている。ただ、神経解剖学の常で、様々な分子マーカーと、解剖学的部位の名前が次から次へと現れ、正確な知識がない私たちにはついていくのが難しい論文なので、最終結論だけをまとめる。

  1. まず、EC で見られる未熟細胞が移動している像は、人間では生後1年まで続く。しかし、アカゲザルでは生まれた後の EC には全く未熟細胞が存在せず、人間では神経発達が他の動物と比べ生後も続くという概念を支持している。
  2. 移動している細胞のほとんどは抑制性の介在神経細胞で、CGE で増殖した細胞が、増殖しながら EC へと移動する。
  3. この移動は、前方への移動と同じで脳室に近いゾーンを通る神経の流れを形成して行われる。このEC への経路形成には、人間で側頭葉が融合して脳室がなくなる過程が重要で、サルではこの経路形成が出来ないことが、生後の移動が見られない原因と考えられる。
  4. 一方、生後3ヶ月を過ぎると、EC 内での移動は単一細胞レベルの移動に限られるが、1年あるいはそれ以上続く。

以上が主な結果だが、組織学的実験だけでなく、固定標本から核を分離し、単一核レベルで RNAsequencing を行い、組織学的結果をバックアップし、また発展させるという作業を繰り返しいる。おそらくこれに組織上での RNAライブラリー形成などを加えると、組織学が急速に進化していることがわかる。

結論としては、海馬EC などの側頭葉介在神経の発生が生後も続くことがはっきりさせたことが最も重要な発見だ。今後この過程の可塑性を利用することで、子供の脳発達異常を少しでも軽減するための糸口を示す結果だと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ