12月14日 mRNAワクチンの落とし穴(12月6日 Nature オンライン掲載論文)
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12月14日 mRNAワクチンの落とし穴(12月6日 Nature オンライン掲載論文)

2023年12月14日
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Covid-19に関わる科学を代表する技術といえばmRNAワクチンだろう。そして、これを支える技術が昨年ノーベル賞を受賞したカリコさん達の修飾RNAといっていい。私もこのワクチンの開発スピードと効果について何度も紹介した。

シュードウリジンはmRNAに対する自然免疫反応を抑える目的で使われるが、私だけでなく、これまでそれを取り込んだmRNAは翻訳の鋳型としては問題がないと考えてきた。しかし、今日紹介するケンブリッジ大学からの論文は、シュードウリジンを取り込んだmRNAには、フレームがずれたペプチドを翻訳してしまうと言う思わぬ落とし穴があることを示し、今後シュードウリジンを取り込んだmRNAを使うために必要な塩基配列デザイン法まで示唆した重要な研究で、12月6日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「N 1 -methylpseudouridylation of mRNA causes +1 ribosomal frameshifting(シュードウリジンmRNAはリボゾームで一塩基のフレームシフトを誘導する)」だ。

驚くことに、N1 がメチル化されたシュードウリジン(メチルΨ)を用いたmRNAの翻訳効率についてはほとんど研究がなかったようだ。要するにこれほど普及しているにもかかわらず、非修飾mRNAと同じように翻訳されると思い込んでいたことは、科学として猛烈に反省が必要だろう。そのことに気づいたこの研究グループは、フレームがずれると初めて機能的蛋白質が出来るmRNAをデザインし、メチルΨと非修飾mRNAとで比べ、メチルΨを用いたときだけ、フレームがずれた酵素活性を持った蛋白質が作られることを確認する。

そこで、ビオンテックのRNAワクチンに使われたメチルΨを試験管内で翻訳させると3種類のフレームがずれたペプチドが合成される。そして、このワクチンで免疫したマウスは、正常スパイクだけでなく、フレームがずれて出来たペプチドに対してもT細胞反応が起こる。

次にワクチン接種を受けた人間でもスパイク以外のペプチドに免疫が誘導されていないか、アデノウイルスワクチンとmRNAワクチン接種を受けた人について調べると、ビオンテックのmRNAワクチン接種を受けた人の2割ぐらいに、フレームがずれたペプチドに対する反応を確認することが出来る。

幸い、Covid-19スパイクに対するワクチンの場合、フレームがずれて出来たペプチドに交叉する例えば自己蛋白質などがなかったため、問題は発生しなかったが、今後メチルΨを他の抗原を標的として使うとき、想定外の抗原に対する反応が副作用として発生する可能性がある。

そこで、まずフレームがずれる翻訳が起こる原因を調べていくと、アミノ酸と結合したアミノアシルtRNAとの結合力が変化したため、リボゾーム上での翻訳が止まってしまい、これを動かすためにスリップして他のtRNA と結合する結果であることを突き止める。

リボゾーム上での翻訳が停止させやすいコドン配列は特定できるので、アミノ酸はそのままでコドンだけを変異させると、メチルΨを用いてもフレームのずれを抑えることに成功している。すなわちこの問題をかなり解決することが可能であることを示している。

以上が結果で、今後メチルΨを用いる場合は慎重に翻訳反応を検討し、フレームがずれない配列に設計し直すことが重要であることがよくわかる。今後mRNAを様々な目的に使って行くためには大変重要な貢献をした研究だ。

モデルナやビオンテックのmRNAワクチンが発表されたとき、既に蓄積されていたSARSワクチンの経験から、自然の塩基配列でなく、わざわざ突然変異を導入してスパイク構造を安定化させたデザイン配列を使っているのに驚いた。すなわち、知識にもとづいてデザインすることの重要性だが、今後はフレームシフトを防ぐデザインが必須になる。反省と対策を繰り返す科学の健全性についてもよくわかる論文だと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ