9月4日気になる臨床研究(9月2日 Nature Medicine オンライン掲載論文他)
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9月4日気になる臨床研究(9月2日 Nature Medicine オンライン掲載論文他)

2025年9月4日
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今回の気になる臨床研究は3編紹介する。

最初のペンシルバニア大学からの論文は、乳ガンで見られる転移後休眠期に入って様々な治療に抵抗する休眠ガン細胞を標的にした治療開発研究で、9月2日 Nature Medicine にオンライン掲載された。タイトルは「Targeting dormant tumor cells to prevent recurrent breast cancer: a randomized phase 2 trial(休眠期の腫瘍細胞を標的にした治療で乳ガンの再発を抑える:無作為化第二相治験)」だ。

早期乳ガンいって手術治療だけで対応すると、20−30%が再発することが知られている。このため現在では手術前から手術後まで、化学療法や放射線療法を続けて、再発の元を絶つ治療が行われ、成果を上げている。ただ、患者さんへの負担は大きい。このグループは休眠期の細胞を減らせる治療法の開発を進めており、オートファジー阻害や、mTOR阻害によって休眠期の乳ガンをたたけることを明らかにしてきた。この研究では、動物を用いた前臨床研究を最初に紹介したあと、オートファジー抑制剤 hydroxychloroquine (HCQ) 、mTOR阻害剤 everolimus (EVE) 、あるいは療法併用の3グループに分けた治験を行っている。

といっても乳ガンは長丁場だし、これまで効果が確認されているネオアジュバントやアジュバント治療を押しのけて治験を行うことは難しい。そこで、通常の乳ガン治療観察中に骨髄穿刺を行い、休眠乳ガンが検出された患者さんについて再発リスクを説明し、これらの治療に振り変える治験を行っている。

結果だが53症例のうち再発したのは一例だけで、現在も経過観察中なので生存や再発を指標とした結果は出せていない。ただ、骨髄穿刺によって残存休眠ガン細胞を調べると、これらのHCQやEVを投与されないグループと比べ、強く抑えられていることがわかった。以上が結果で、骨髄穿刺による早期の休眠細胞の検出と、これを標的にした治療をベースにもう少し大規模治験が行われるだろう。ただ、アジュバント治療を新しい治療に変えられるかの結論には長い時間がかかると思う。それまでは患者さんに対するネオアジュバント、アジュバント治療の負担は続けるしかないと思う。

次のマドリッド心血管研究所からの論文は、心筋梗塞を発症後左室拍出量が40%以上維持されている患者さん8438例について、梗塞後に維持治療に βブロッカーの効果が本当にあるのか比べたコホート研究で、8月30日 European Heart Journal にオンライン掲載された。タイトルは「Beta-blockers after myocardial infarction: effects according to sex in the REBOOT trial (心筋梗塞後のβブロッカー:REBOOT治験からわかる性別による違い)」だ。

教科書的には心筋梗塞後の治療は、血栓防止、動脈硬化防止、血圧治療、そして心臓の過労働を防ぐ βブロッカーの組み合わせになる。最近ではSGLT2阻害剤なども加えられる事がある。ただ、βブロッカーが本当に必要かはこれまでも議論があった。

この研究では男性6811人、女性1627人の結果から、男性では βブロッカー有り無しで全く差が無いこと。しかし、女性になると βブロッカーを投与した場合死亡率や、再入院確率がオッズ比で5割ほど上昇するという驚くべき結果が示された。

当然逆のデータもこれまでに発表されており、この研究だけで危険と結論するのは早いと思う。ただ、6000人を超す男性の結果で差が無いことを考えると、このデータを見てしまうと女性には使わないという選択を行う意思も増えるのではないだろうか。

最後はローマにある Bamino Gesu小児病院からの論文で、神経芽腫の再発例に対するdisialoganglioside (GD2) 抗原に対するCAR-T治療の第一相/第二相治験で、8月21日 Nature Medicine にオンライン掲載された。タイトルは「GD2-targeting CAR T cells in high-risk neuroblastoma: a phase 1/2 trial(ハイリスク経芽種患者さんへのGD2を標的とするCAR-T:第一相/第二相治験)」。

すでに初期の結果については報告しているようだが、さらに長期の結果が紹介されている。治療直後に脳神経炎や腎障害など急性副作用が発生しているが、それをIL-6抗体などで乗り越えると、その後は新しい副作用は出てこない。

半年で見たときに完全寛解率は40%で、治療への反応率は66%とかなり期待できる。この研究で重要なのは、64%の人で投与したCARTが長期間維持されていることで、しかもCD8T細胞中心に維持されている。面白いのは投与後急速にCARTが増加するのを認めるが、この程度と治療効果が一致しないことも面白い。

最後に、神経芽腫の発生場所と治療効果が相関する点で、骨髄の場合は83%が治療に反応するが、軟部組織に局在しているときでは65%に低下、リンパ節にある場合は47%に反応率が落ちる。

他にも様々な検討が行われているが、結論的にはかなり期待が持てる。反応率で見ると、3種類以上の治療プロトコルを経験した患者さんは良くないので、一つのプロトコルが難しいとわかったら早めにCARTに切り替えるのがいいのではと結論している。ぼちぼち固形ガンにも効くCARTが報告され始めている。

カテゴリ:論文ウォッチ
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