手術前に慌ただしく書いている。
さて、リンパ節転移を伴う比較的珍しいガンにかかってみて、自分のガンを冷静に分析し、今後どのように対応するか考えてみると、リンパ節郭清を伴う手術と、年齢を考えて陽子線のアジュバント治療は従来の標準に従うとしても、その後は様々な分析結果に基づいて、可能性を追求しようと思っている。ただ、年齢を考えると最終的にはガン特異的免疫反応が重要になるだろうと想像するが、経過を見るまではわからない。
幸い私にはこのような贅沢が許されているが、一般の患者さんにとっては自分にガン免疫が成立しているかどうかなど知ることは難しい。そこで、ガンの突然変異数や、組織学的免疫反応指標などを用いて免疫成立の可能性を推察することになる。
その指標の一つとして最近注目されてきたのがガン組織に形成される3次リンパ組織 (TLS) の存在で、ガンの組織診には今後是非加えてほしいと思う指標だ。今日紹介するテキサス MDアンダーソン ガン研究所からの論文は、空間トランスクリプトーム解析データベースをTLSの観点から再検討し、これに基づいて通常の組織標本からTLSの存在を抽出できる機械学習モデルを作成した研究で、5月28日号の Science に掲載された。タイトルは「Pan-cancer spatial atlas of tertiary lymphoid structures(ガン横断的三次リンパ組織アトラス)」だ。
研究では12種類のガン、340種類の組織について Xenium などの多数の遺伝子発現が一度に解析できる空間トランスクリプトーム解析データを元に、自動で TLS の存在、TLS のガンとの関係、そして TLS の3段階の成熟度を抽出するシステムを構築している。例えば TLS の発生頻度の高いガンを調べると、肺ガンや、腎臓ガン、胃ガンなどが上位に上がってくる。意外だったのは、immune cold と言われている乳ガンで TLS が結構認められることで、しかもサイズは大きい。その意味で、外からアプローチしやすい乳ガンをもう一度免疫ホットなガンとして見直すのもおもしろい。
次に、TLS を初期、1次濾胞型、2次濾胞型に区別し、段階的により組織化された構造になっていく過程を細胞レベル分子レベルで定義している。それぞれのタイプの割合をそれぞれのガンと重ねると、TLS が見られるガンでは、概ね3タイプが同じ程度に観察される。唯一例外は肝臓ガンで一次濾胞型が圧倒的に多い。ただ、この現象の意味については追求されていないが、肝臓ガンが免疫的に特殊であることが知られておりおもしろいと思う。このような例外を除くと、基本的には、ガンの進展とともにガンの TLS も成熟していくと考えられ、ガン免疫を考える点では重要だ。
他にも TLS とガンの距離関係についても抽出することができる。また、免疫に関わる分子の発現と腫瘍との関係も抽出可能で、基本的に MHC-II やインターフェロンなどは腫瘍の近いところで発現が強く、離れるにつれて発現が下がる。即ち、腫瘍近くで免疫反応が起こっているのを可視化できる。
このように、多くの空間トランスクリプトームデータを集めデータベースが構築されたが、全く新しい発見があったわけではない。代わりに、この空間トランスクリプトームデータを通常のヘマトキシリンエオジン染色と対応させて機械学習モデルを構築し、最終的にかなりの確度で H&E 染色組織から TLS の数、位置、そして組織型を特定する AI モデルを構築し、これを通常の組織検査に適用することが出来ることを示している。即ち、新しい組織検査 AI モデルを完成させている。
そしてこの結果に基づいて、それぞれの組織の免疫反応状況を推定するとともに、ガンの免疫治療や、あるいは一般的治療の予後予測にも使えることを示している。いくつかのガンがこれで解析されているが、このAIを用いる方法でも、乳ガンが意外と免疫ホットであることが示されているのはおもしろい。
以上詳細は大分省いたが、空間トランスクリプトームデータを H&E 染色と対応させ AI モデルを作成するのは最近のトレンドで、TLS に絞った今度のモデルは、ガンの個性を知る上でも重要な手段になるのではと思う。特に乳ガンが思いのほか免疫ホットのガンであることを知って、免疫を主軸にした新しい治療も可能かもしれないと思った。
