DNAに結合している転写因子などを免疫沈降してDNA結合モチーフを調べる Chip-seq 法は、転写研究にかなり早い段階で導入されたゲノムテクノロジーだと思う。その後、クロマチンの構造を調べる様々なゲノムテクノロジーが続々導入され、さらに多くのテクノロジーはなんと single cell level に適用できるまでに至っている。
ところが転写研究の本家本元と言える Chip-seq を single cell に適用する方法は存在しなかった。Atac-seq に似た方法で、転写因子が結合している部位にタグを付けて特定する方法も開発されているが、single cell レベルには至っていない。
今日紹介するコーネル大学らの論文は、転写因子が結合している部位のシトシンをデアミナーゼでウラシルに変換することで、タグ付けよりはるかに効率の高い標識を行う方法を開発し、これを Atac-seq と組み合わせると、single cell レベルで特定の転写因子の結合している配列をゲノムワイドに特定できることを示した研究で、6月4日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Single-cell mapping of regulatory DNA-protein interactions(転写調節でのDNAとタンパク質の相互作用を single cell レベルでマッピングする)」だ。
方法を概説すると以下のようになる。調べたい転写因子に対する抗体をDNAデアミナーゼと結合させた分子を固定した細胞内に浸透させる。これによりデアミナーゼが転写因子結合部位特異的に働くことで、転写因子が結合している配列の近くのシトシンがウラシル化される。こうして変化させたゲノムの配列を、正常配列と比べて、転写因子が結合している部位を特定することができる。
この方法がうまく働くか、まず細胞株を用いてGATA1や染色体の3次元構造形成に重要なCTCF分子の結合サイトを例に調べている。そして、この方法を用いると、クロマチンが拓いた部位だけではなく、クロマチンが閉じた部位でも、特定の分子が集まっている部位を特定できることを明らかにしている。
また少数の細胞でこれまで開発された Cut & RUN などと比較し、デアミナーゼ法では10個から5000個までの細胞数で、ほとんど特異的検出効率が劣化することなく使えること、一方 CUT & RUN では5000個でも検出感度はデアミナーゼ法に劣ることを確認している。
次がいよいよ single cell レベルへの応用だが、この場合クロマチンの開いた部位を検出する Atac-seq を組み合わせるので、基本的には開いた部位についてのみの解析になる。実際には、転写因子部位をデアミネーションした上で、Atac-seq で細胞を展開し、その上に核酸がウラシルに変換された場所の違いをマップすることになる。この結果、例えばGATA1結合部位は骨髄性白血病細胞特異的にラベルされ、B細胞株ではラベルが少ないことが single cell level でわかる。
次に、細胞株ではなく様々な細胞を含むヒト末梢血細胞で調べ、例えばCD8T細胞の染色体3次元マッピングでゲノムが折りたたまれる場所に一致してCTCFが結合することが示される。さらに、DNAメチル化に変化によりクロマチン構造が変化する突然変異を持った細胞が混じった末梢血では、CTCF結合様態で変異細胞ではゲノムの区域化がずれて、転写が大きく変化することも single cell level で示している。
最後に正常ヒト造血細胞が赤血球へ分化する過程でのGATA1結合部位の変異を調べ、赤血球と白血球へ分化する前駆細胞から急速にGATA1結合部位が増加、これが下流遺伝子の発現と完全に一致していることを示している。
以上が結果で、技術としてはまだ完成したとは言えないと思うが、デアミナーゼの効率を様々な方法で高めること、さらに Atac-seq だけでなく、single cell whole genome方法と組み合わせることで、クロマチンの構造にかかわらずゲノムに結合する分子の動態を追跡できるようになると思う。Chip-seq 登場から考えると、時間がかかった。
