6月24日 5000年前のペスト菌も致死的な感染症だった(6月17日号Natureオンライン掲載論文)
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6月24日 5000年前のペスト菌も致死的な感染症だった(6月17日号Natureオンライン掲載論文)

2026年6月24日
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15日手術を受けて、今日朝退院になったので、早めに論文ウォッチをアップしている。

歴史上にペスト・パンデミックが現れるのは紀元-8世紀の東ローマ帝国、そしてヨーロッパ中世で黒死病とおそらられた大流行、そして19世紀の中国起点で我が国にも感染者が見られた流行の3回で、それ以外に大きな流行は記述されていない。この理由は、ペスト菌が仮性結核菌から別れた後、一定の病原性はあってもひどい流行を起こすための遺伝子が欠損していたからと言われている。即ち、ペストが大流行を起こす菌へと進化するためには、まずノミの体内で生存するための遺伝子が獲得され、その後肺ペストへ進展する毒性を獲得した結果、パンデミックを起こす恐ろしい菌となったとされている。

今日紹介するデンマークコペンハーゲン大学、カナダアルベルタ大学、そして英国オックスフォード大学からの論文は、ペスト菌が仮性結核菌から別れてすぐ、主に子供を襲う致死的感染症として流行を繰り返していた可能性を示す研究で、6月17日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「Lethal plague outbreaks in Lake Baikal hunter-gatherers 5,500 years ago(5500年前のバイカル湖の狩猟採取民に見られる致死的ペストの流行)」だ。

バイカル湖周辺では、長期間にわたって定着性のない狩猟採取民が独特の文化を形成しており、考古学研究の重要なフィールドになっている。3カ所の発掘現場から出土した46体の個体をについて感染症の原因となる菌を探索した結果、ペスト菌の感染が35%と言う頻度で見られることを突き止めた。

もちろん感染しているからと言って致死的とは言えないので、ペスト菌保の進化と多様化だけでなく、菌保有者の親族関係、埋葬のされ方など文化人類学的特徴を詳しく解析している。すると、ペスト菌感染がほとんど時間をおかずに近親者間で起こっていること、近親関係が強い子供だけが3体一度に埋められた墓が見つかるなど、感染症の流行が起こったことが強く示唆されたと結論している。ただ、身体的な明確な病気のサインは骨から得られているわけではないと言えるので、この文化人類学的な結論をどこまで信頼できるのかが問題になるだろう。

ただペスト菌が広く感染していることは確かで、文化人類学的にも病気による埋葬を特定できているのだとすると、仮性結核菌から別れたばかりのペスト菌も致死的感染症を起こす原因となったことになる。この時代のペスト菌はノミが媒介することは出来ないので、いわゆる腺ペストの病態ではなかったと思える。この研究では、親族内で感染が起こっていること、特に子供に致死性が高いと言った特徴から、これまで知られている成人を襲うペストとは異なる、呼吸器感染症を含む炎症性疾患でなかったかと考えている。さらに小さな狩猟採取民の集団で見られることから、バイカル湖で狩猟の対象になっていた大型齧歯類マーモットの中で進化していたペスト菌が、おそらく生肉などを通して人間に感染し、人間同士でも感染する流行性感染症になったと結論している。

最後にこの病原性の原因遺伝子についても検討し、ypmとして知られるクラスIIMHCに結合して免疫反応を誘導して炎症性疾患を起こすトキシンが短い間に進化した結果である可能性が高いことを示している。同じような免疫反応が我が国で泉熱と呼ばれる小児疾患や、川崎病に似た発熱疾患でも見られることから、特に小児で感染者が多い今回の発見と一致すると結論している。

結果は以上で、結論はともかく、時代特定、埋葬のされ方等の文化人類学的検討とともに、一体一体ゲノムを調べて親族関係を決めるという分子生物学が合体した、新しい考古学のあり方がよくわかる論文だった。

カテゴリ:論文ウォッチ
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