コーンシロップという形で果糖を大量に消費する様になってから、果糖の毒性と代謝経路についての研究が進んでいる。考えてみると、草食動物も含めてほとんどの野生動物は果糖を摂取する機会はないだろう。一方で、鳥類や霊長類などかなりの果糖を摂取するが、基本的には特殊と言える。従って、我々人間の果糖への反応はこの特殊性を反映しているのではと勝手に想像しているが、多くの果糖研究をマウス(他の動物よりはサルに近いが)で出来ているのもいつも不思議に思っている。
今日紹介するフィラデルフィアにあるモネル化学感覚研究所からの論文は、マウスはグルコースと果糖を区別して脳の食欲中枢に伝える回路を有していることを示す研究で、マウスレベルでもこれほど果糖とブドウ糖が複雑に処理されているのかと驚いた。タイトルは「Attenuated hypothalamic response to fructose via a dedicated gut-brain pathway(特別な腸脳回路を介する果糖の視床下部反応抑制)」だ。
何度も紹介してきたが、Agouti related protein (AGRP) を分泌する視床下部にある細胞が我々の飢餓感を調節しており、食後上昇する脂肪細胞由来のレプチン、様々な消化管ホルモンなどの刺激により抑制されることで食欲を落として摂食を制限している。
この研究では果糖とブドウ糖に AGRP 神経刺激に差があるかどうか、直接十二指腸に果糖/ブドウ糖を注入しそのときの視床下部の AGRP 神経興奮を調べている。すると、ブドウ糖では大きく興奮を抑制できるのに、果糖の抑制活性は1/3程度にとどまっていた。即ち、果糖とブドウ糖では飢餓回路への影響に大きな違いがあることがわかった。
問題は、だからといって果糖では摂食が抑制されず過食になるというわけではなく、注入後の摂食量は変化がない。すなわち、果糖は視床下部 AGRP 神経抑制効果は低いが他のルートで食欲を抑えている。この回路を探ると、果糖投与ではマンニトールと同じで水が保持されることから腸管が広がるので、これが他の経路で食欲を抑えるため、AGRP神経の活動抑制が低くても食欲は抑制できることがわかった。しかし複雑だ。
次に腸から AGRP 神経への回路を、消化管ホルモン分泌について調べている。前もって消化管ホルモンカクテルを投与すると、果糖に対する反応は消えるが、ブドウ糖に対する反応はそのまま残る。即ち、特に果糖は消化管ホルモンを介して AGRP 神経を抑制していることになる。
この回路をさらに探ると、Y2-PYY 受容体を発現した迷走神経を介して視床下部にシグナルが送られることがわかった。一方、Y2 神経はブドウ糖でも刺激できるが、刺激できても AGRP 神経の興奮には影響がない。
以上が結果で、少しややこしいが、AGRP 神経活動の抑制に関してみると、ブドウ糖と果糖では全く異なる神経回路が使われ、果糖は完全に迷走神経依存的にシグナルを送るが、ブドウ糖は脊髄神経回路を用いている。ただ、食欲抑制はこの回路以外にも存在し、特に腸管の膨張が果糖で誘導されるため、消化管ホルモンを介する他の経路で食欲が抑制される。以上、おそらく果糖にほとんど依存しないで生きているマウスで、これほど複雑な果糖とブドウ糖を分別する神経回路があることが不思議だ。
