9月10日 活性酸素の二面性(9月3日 Science掲載論文)
AASJホームページ > 2026年 > 9月 > 10日

9月10日 活性酸素の二面性(9月3日 Science掲載論文)

2026年9月10日
SNSシェア

酸素が反応性の高い化合物(例えば過酸化水素)に変換したものを活性酸素と呼んでおり、一般にも馴染みの深い言葉になっている。ただ、活性酸素についての一般のイミージはほとんどネガティブな側面が強調され、健康や抗老化のために活性酸素は抑えるべきという話になってしまっている。

今日紹介する英国ケンブリッジ大学からの論文は、ガンが抗酸化分子を分泌して、自分に対する免疫反応を抑えていることを示す研究で、9月3日Scienceに掲載された。タイトルは「Tumor-derived antioxidants suppress immunity by depriving T cells of reactive oxygen species(腫瘍由来の抗酸化分子がT細胞から活性酸素を奪って免疫を抑える)」だ。

ガンは免疫を抑える様々な仕組みを発現している。そのうちのPD-L1によるキラーT細胞の抑制機構は今や一般にも知られている例だが、他の要因を探して今も研究が続いている。この研究では、ガン組織中の組織液を絞り出し、これを試験管内でT細胞に加えて反応を変化を調べるという、極めて古典的な研究がまず行われている。メラノーマを用いているが、ガンの組織液は見事にT細胞の活性化を抑える。

この組織液中の分子を探索だが、大規模な生化学研究はおそらく行っておらず、最初から抗酸化分子に焦点を当てている。と言うのも、活性酸素はT細胞の活性化を抑える脱リン酸化酵素を抑える働きがあり、T細胞の活性化に必要であることが知られているからだ。分子サイズが小さいことを確認した上で、ガン細胞から分泌される抗酸化分子を探り、最も強い発現が見られるPRDX1が免疫を抑える因子だと突き止める。

次に、実際PRDX1が活性酸素を除去することでT細胞の反応を抑えていること、またこれに必要な様々な分子が組織中に存在することを確認している。重要なのは、ガンから発生するPRDX1だけでなく、NACのような抗酸化剤でも全く同じ効果がある点で、「何が何でも抗酸化」などと考えてしまうと、逆に免疫を抑えてガンを助ける可能性が示唆される。事実、ガンに対して活性酸素を抑える治療はほとんどうまくいっていない。

次はガンが発現するPRDX1がどの程度ガンを助けているのかを知るため、ガン細胞からPRDX1をノックアウトしてマウスに移植する実験を行い、免疫系がはたらいているところでPRDX1がノックアウトされると、ガンの増殖が強く抑制されることを示している。これに対応して、ガン組織でのキラー細胞の増殖、インターフェロンの発現、キラー分子の発現などが上昇するが、制御性T細胞などにはほとんど変化が見られないことを示している。

結果は以上で、極めて古典的な実験だが、これまで見落とされていたPRDX1をガン免疫増強の標的として特定したのは大きい。

自分のガンの遺伝子発現を見ると、確かにPRDX1の発現は高い。元々増殖が早く活性酸素発現が高いガンなので、これに対応するために当然の結果だと思う。幸い、ガン組織の免疫反応を調べると、granzyme等免疫反応は高いので、私のガンの場合PRDX1は発現していてもそこまで聞いていないのではと期待している。   

カテゴリ:論文ウォッチ
2026年9月
« 8月  
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930