変わり種の治験研究 1 自動車運転中の音楽 (2019.12.2)
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変わり種の治験研究 1 自動車運転中の音楽 (2019.12.2)

2019年12月2日

一般の人むけに、今日から変わり種の治験研究を探して別枠で紹介することにした。第一回目は、自動車を運転するとき音楽をかけた方がいいか実際に調べた結果を報告したブラジルの研究で、Complementary Therapies in Medicine: vol 46 p158に掲載されている。

研究ではたった5人だが、ラッシュアワー時でイライラする時間に、同じコースを同じ車で運転してもらう。さらに運転席に座った後10分間気持ちをしずめてゆっくり呼吸をしてもらい20分同じコースを運転してもらう。この20分の間、音楽を聞いたときと、聞かなかった状態で、連続的に心拍数の変動を調べている。それぞれの被験者は音楽あり、音楽なしで1回づつ同じコースを運転するが、いつどの順番でテストするかは無作為化してテストしている。

結果だが、心拍数の平均で見ると音楽を聞いていても、聞いていなくてもそれほど変わらない。しかし、フラクタル次元解析と呼ばれる方法で時間・時間の変化を解析すると、やはり音楽を聴いた方が心臓にはいいという計算結果だ。

はっきりいって、単純な方法で見られなかった差も、複雑な解析方法で見れば差が出てくるという結果だが、なににせよ5人だし、音楽の種類や民族性で結果も異なることは間違い無いので、信じるかどうかは皆さんにお任せする。

このような変わり種の治験は問題も多いが、しかし何事も思いつきで決めないで、統計学的に調べてみようという考えは重要だ。その意味で、ドライブ中に音楽を聴く方がいいかどうかすら治験対象になる。ただ、統計学だからそのまま信用できるかどうかについての個人的感想は、今後積極的に述べていく。

降圧剤は寝る前に飲むのがいい(2019.11.1)

2019年11月1日

高齢になってからは別として、血圧は必要なら薬剤を積極的に使用して低めに保つという考えが一般的だ。では降圧剤を服用するとして、いつ飲むのが一番いいのだろう。個人的経験から言うと、忘れることが少ないので就寝前にしている。

しかし効果の方はどうなのだろう。意外なことに、この点についての徹底的な臨床試験は行われていなかったようだ。

そこで今日紹介したいのは、スペイン・ビーゴ大学のグループがEuropean Heart Journalに発表した論文で、なんと2万人近い降圧剤の服用が必要な患者さんを、起きている時間に服用する群と、寝る前に服用する群に分け、その後の経過を少なくとも6.3年追跡した研究だ。

結果は驚くほどはっきりしており、様々な補正をした上でも、就寝前に飲むほうが、心筋梗塞など心臓発作の発生率が低く、さらに死亡率で見てもはるかに低いことが明らかになった。

もちろん民族性など様々な要因が高血圧には絡んでいるので、日本人に当てはめる時には少し割り引く必要があるかもしれないが、それでもその差は大きく、就寝前というのが答えだと思う。私も安心した。

お茶を飲む習慣は脳の機能を高めてくれる。

2019年10月25日

お茶が健康にいいという研究は疫学から栄養学まで数多くあるとおもうが、さすがにお茶を飲んでいる人と飲まない人の脳の構造を比べた研究は見たことがなかった。

、ところが、英国とシンガポールのグループがお茶をよく飲む生活を送ってきた人と、あまり飲まない生活を送って来た人(平均70歳、1日3回以上を6点、全く飲まないを1点、それに生活年数をかけて計算したスコアで分けている)をそれぞれ15人、21人集め、なんとMRIで脳の機能と構造を調べたた論文をAging 11月号に発表した。

詳細は専門的なので省くが、お茶を長年飲んで生活してきた高齢者は、

  • 右脳と左脳の構造的神経結合のバランスが取れているが、機能的な左右の差に大きな変化はない。
  • お茶を飲む人は、安静時に調べる脳全体の機能的結合が強まっている。しかし、構造的には両者で大きな差はない。

以上が結果で、お茶を飲む習慣はMRIレベルでわかる脳の変化をもたらすことを初めて示した面白い論文だと思う。

犬を飼っている方が心筋梗塞からの回復が良いことがほぼ証明された(2019.10.10)

2019年10月10日

(紹介論文 Circulation: Cardiovascular Quaity Outcome 12:e005342. 掲載論文)

様々な病気の患者さんにとってペットが孤独を癒し、心の支えになることで病気の回復を助けることが知られている。例えば、血圧ですらペットと一緒に暮らしていると下がるという報告もある。これらを受けて、米国の心臓病学会では2013年、ペットを飼うことは心臓病の予防や治療に役に立つ可能性を述べているぐらいだ。ただこの可能性を大規模調査で確かめた研究はなかった。

今日紹介したいのは、スウェーデン・ウプサラ大学からの論文で、スウェーデンの疾患レジストレーションから心筋梗塞や狭心症の発作を起こした患者さんを抜き出し、予後を調べるときに犬を飼っているか、飼っていないかの2群に分けて、犬を飼うことの効果を調べている。論文はCirculationのCardiovascular Quality and Outcomes に掲載され、タイトルは「Dog Ownership and Survival After a Major Cardiovascular Event(重大な心臓発作後の生存に犬を飼うことの影響)」だ。

国の疾患レジストレーションなので数は多く、心筋梗塞が18万人、虚血性発作が15万人で、それぞれ5.7%、4.8%が犬の飼い主と特定されている(私の予想よりは低い感じだ)。

結果はいずれの心臓発作でも、発作後の死亡のリスクが犬を飼っている方が優位に低下している。特に、一人暮らしの患者さんの場合危険度(hazard ratio)が心筋梗塞で0.67、虚血性発作で0.73とかなり低下している。

おそらく犬に限らないとは思うが、ペットと暮らすことの心の安らぎ、あるいは散歩などの運動は、心臓発作からの回復を助けることは確かなようだ。

聞こえが悪いのに補聴器を使わないと認知症リスクが上がる (2019.9.22:米国老年学会誌掲載論文)

2019年9月22日

私自身は40代から特に右耳の難聴があり、65歳の引退を機に補聴器を購入して使っている。音楽会も含めて日常生活は補聴器なしで済ませることができるが、会議や会話になるといまや補聴器はなしで済ませない。

これまでの研究で、聞こえが悪くなり周りとの関わりが減ると認知症になったり、うつ病になるリスクが高まる可能性が指摘されていた。この可能性を検証するため、ミシガン大学のグループは10万人を超す難聴と診断された66歳以上の高齢者について調べた論文を米国老年医学誌にオンライン発表したので紹介する。

この研究では、米国で2008年から2016年にかけて難聴と診断され医療保険が利用された113862人の66歳以上の高齢者を追跡し、アルツハイマー病、うつ病、そして転倒による外傷の発症頻度を、補聴器を使い始めた人と(女性11.3%,男性13.3%)と、使わなかった人で比べている。

結果は明確で、難聴と診断され補聴器を使い始めた人たちの方が、アルツハイマー病、うつ病と不安神経症、転倒による外傷の相対危険度がそれぞれ0.83、0.86、0.87と優位に低かった。

以上の結果から、難聴と診断されればやせ我慢しないで補聴器を使うべきだと結論している。

「ごもっとも」と納得できる論文だが、それならもう少し補聴器が安くなることを期待する。

ゴリラの水遊び (2019.9.20 Primate オンライン版掲載論文)

2019年9月20日

実は先週、ウガンダに旅行し野生のゴリラやチンパンジーを求めて、KibaleやBiwindi国立公園の山中をトレッキングしてきた。特にゴリラは違ったファミリーとの出会いを求めて、2日連続で山歩きを敢行し、70を越した我が身の老化を思い知った。それでも、予想外に静かなゴリラ・ファミリーとの出会いは疲れを忘れさせた。そして、まだ歩けるうちに思い切ってウガンダ旅行を決断して良かったと、忙しい日本に帰って旅行を振り返っている。

そんな時、Primateという雑誌のオンライン版に京都大学の霊長類研究所と、ポルトガル、ウガンダの研究機関の研究者たちが、まさに私たちが歩いていた領域のゴリラファミリーを観察し続けた論文を発表しているのをみて興奮し、紹介することにした。タイトルは「Water games by mountain gorillas: implications for behavioral development and flexibility—a case report (マウンテンゴリラの水遊び:行動の発達と可塑性―一例報告)」だ。

京大霊長類研究所はコンゴで研究を行なっているとばかり思っていたが、野生とはいえ毎日1時間、入れ替わり立ち替わり8人ぐらいの観光客の訪問を受けるマウンテンゴリラも観察対象にしていることを知り驚いた。

おそらく私たちが見た2つの家族とは違う家族だと思うが、この研究グループはこの地区に生息する一つのファミリーの行動を、特に水遊びに焦点を当てて観察を続けていた。と言うのも、チンパンジーでは記録がある様だが、ゴリラが水遊びをすると言う記録はないらしく、水場の観察がしやすい場所で2018年1月から2月にかけて観察を続けている。

そして幸運なのか、あるいはかなり準備をしていた結果か、2ヶ月に満たない観察期間の内に3回ゴリラが水遊びをするのを観察するのに成功している。

1回目はKanywaniと名付けられている若いオスゴリラが、水飲みに出かけた時、水を飲むだけでなく、手を水中にいれて渦ができるのを見る行動を繰り返した。近くにいたメスのKamaraも同じ様な動作を繰り返していたが、Kanywaniがドラミングで誘っても反応せず、それぞれ勝手に遊んでいた。

2回目は全メンバーが水場に降りてきた際、Kamaraが水の上にしゃがみ込んで水しぶきをあげる行動を繰り返した。そこにKanyndo, Kabunga, Kanywaniが近づいて、一緒にではなくそれぞれ独自に水しぶきをあげる遊びを繰り返した。

3回目は2回目に登場した7歳のオスKabungaが、ほんの短い瞬間水しぶきを上げて遊んだが、シルバーバックが近くにいたためか、すぐに遊びをやめた。

以上が結果で、たった3回の水遊びの観察かなどと思われるかもしれないが、実際に観察してみると、2時間にわたって眺めていて、ただただ草を食べているのしかわからなかった私と違い、さすがプロだと思う。

この様な小さな発見の積み重ねが、人間とサルの違いを教えてくれるのだろう。

などとわかった様なことは言わないでおく。今日の記事は、京大の後輩(おそらく)が、同じ場所に観察に来ていたと言う興奮と、撮影したシルバーバックの写真を見せたくて書いた。

若い人の原因不明の視力低下はジャンクフードを疑え(2019.9.06)

2019年9月6日

Annals Internal Medicineという雑誌にセンセーショナルなタイトル「Blindness caused by Junkfood(ジャンクフードによる失明)という一例報告が掲載された(Harrison et al, Annals Internal Medicine:doi: 10.7326/L19-0361)

17歳ぐらいから急速に視力が低下した視神経症の男性の症例報告だが、よくよく原因を探していくと、子供の時からフライドポテト、ポテトチップス、ハムとソーセージしか食べない偏った食生活のため、ビタミンB12や銅、セレンなどの低下し、それにより視力低下が来たことが明らかになった。

問題は、栄養を正常に戻しても、視力は戻らなかった点で、不可逆的な変化が起こってしまうことを示している。

この満ち足りた世の中で、こんな特殊な栄養失調が起こるなど、医者でもまず考えられない。その意味で、この症例報告は重要だと思う。

更年期障害のホルモン補充療法による乳ガン発生リスク(8月29日The Lancetオンライン掲載論文)(20 19.09.03)

2019年9月3日

我が国での普及は5%に達していないと思うが、閉経による様々な症状を、エストロジェン、あるいはエストロジェン+プロゲステロンのホルモン補充によって治療するホルモン補充療法(MHT)は、欧米で広く普及している。自覚症状だけでなく、動脈硬化、骨粗鬆症、肌の老化などが防げ、気持ちも前向きになるなど、いいことづくめに思えるが、ホルモンを補充することで乳ガンの発症リスクがあるという指摘がなされた。

今日紹介する英国を中心とする国際共同チームが英国の医学誌The Lancetに発表した論文は、MHTの乳ガンリスクについてのほぼ決定版と言える論文で、閉経後乳がんを発症した約10万人の患者さんについての調査研究だ(The Lancet: http://dx.doi.org/10.1016/S0140-6736(19)31709-X)。

結論だけをまとめると、MHTは間違いなく乳ガンのリスクを高める。特に、エストロジェンにプロゲステロンを加える治療法はさらにリスクを高める。

様々な統計数値が計算で示されているが、最も分かりやすい例だけ説明すると、

  • 毎日プロゲステロンを服用するMHTを5年以上続けた場合、20年後に乳がんを発症する率は、MHTを受けない場合の6.3%から8.3%に上昇する(すなわち100人あたり2人多く発症する)。
  • 一方、エストロジェンのみのMHTの場合、リスクは上昇するが6.3%から6.8%に増加が止まる。
  • 10年以上MHTを続けると同じ条件でのリスクは倍加する。

以上が結果で、まず間違いなく乳ガンリスクは高まると言っていいだろう。

ただこれは全て欧米での調査結果で、これをそのまま日本人のリスクに当てはめられるかどうかわからない。

またMHTの多面的な効果はすでに実証されており、乳ガンリスクを理解した上で、MHTを続ける意義は十分ある。今後この治療を説明するために重要な統計は、MHTを受けた場合の疾患を問わない生存率で、これがわかれば更年期の女性も自分でMHTを受けるかどうか、十分考えて決断することができる様になるのではないだろうか。

3歳以下のてんかんに対するケトン食(2019.8.30)

2019年8月30日

今日の論文紹介は、ケトン体と幹細胞の話だったが(http://aasj.jp/news/watch/11238)少し理解しづらかったと思うので、一般向けの記事として、10年にわたって治療法のない3歳以下の幼児のてんかん患者(109人)に対してケトン食療法を続けた、シカゴにあるルリエ小児病院の経験について報告した論文を紹介する(Scientific Reports 9:8736, 2019)。

平均1.4歳という幼児でも、ケトン食を始めると3ヶ月で約4割の子供でてんかん発作が50%減り、20%の子供ではほぼ完全に発作をコントロールできたと言う、素晴らしい結果だ。さらに問題になるような副作用は見られず、3歳以下の子供でも安全に治療できることから、一般治療が困難なてんかんの場合、ケトン食は重要な選択肢になると結論している。

一機関だけの結果で、さらに長期の効果、あるいはケトン食をやめたらどうなるかなど、まだまだ知りたい点は多いが、研究を拡大する十分な動機になる論文だと思う。

個人的に興味を持ったのは、幼児に食べさせるケトン食のベースになる加工食材を簡単にネットなどから手に入れることができる点で、この病院でも積極的に市販品を使ったプロトコルを作成して、誰でもが簡単にケトン食を続けられるようにしている。輸入でもいいので、我が国でも簡単に利用できるようにして欲しいと思った。

抗生物質を使いすぎると大腸ガンのリスクが高まる(2019 ,8.26)

2019年8月26日

腸内細菌叢がガンを含む様々な病気に影響を持っていることについてはもう疑う人はいない。とすると、経口で抗生物質を服用するという行為は、腸内細菌叢の構成に大きな変化をもたらしてしまい、対象となる病気だけでなく、予想しなかった病気のリスクを招く可能性がある。

実際、経口抗生物質を服用している人の方が、様々なガンのリスクが高まることを示す疫学調査も報告されている。ただ、がんのリスクを正確に調べるためには、抗生物質服用以外の様々な条件を揃える必要があり、これまでの研究は決定的とは言い難かった。

これに対し米国ジョンホプキンス大学のグループは、世界最大と言われる英国の医療電子データを用いて、他の条件をできるだけ揃えた大腸ガンの発生率調査を行い英国消化器学会の機関紙Gutに報告した(Zhang et al Gut in press, 2019:doi:10.1136/gutjnl-2019-318593)

結果をまとめると次のようになる。

1)大腸ガンを発症したグループは、発症しなかったグループに比較して抗生物質の服用歴を持つ人が多い(71.3% vs 69.2%)

2)大腸ガンの発症で見ると、抗生物質の服用期間が長いほどリスクが高まる。

3)一方直腸癌で見ると、60日以上の服用歴のある人では、ガンのリスクが低下する。

4)15年以上長期の追跡が行えるグループではより大腸ガンリスクの上昇がはっきりする。

この研究の重要性は、英国のデジタルビッグデータを用いて、十分な対象数についてリスクを計算できた点で、驚くほどリスクが高まるというわけではないが、確かにリスクがあることは確認できた。

個人的には、この程度のリスク上昇では、抗生物質を使わないリスクと比べた時、抗生物質を避けるという決断はないと思う。したがって、今後は抗生物質の種類や、影響を受ける細菌を特定して、より安全な抗生物質の使用法を確立してほしい。