12月13日日経記事 iPS細胞から腎臓組織・熊本大・世界初の立体構造
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12月13日日経記事 iPS細胞から腎臓組織・熊本大・世界初の立体構造

2013年12月14日

ES/iPS細胞は身体のあらゆる細胞へ分化できる。ただ、細胞が出来たからと言って、正しく構造化された組織や臓器が造れる訳ではない。ただ、臓器形成する未熟な細胞を取り出して、その細胞が本来持っている自然の力をうまく引き出してやると、臓器様の立体構造を形成する事が知られており、我が国でも盛んに研究されている。例えば理研の笹井さんは大脳立体組織形成に成功しているし、このホームページでも7月4日に紹介したが、横浜市大の谷口さんは肝臓の立体組織形成に成功している。ただ、私自身はこのトレンドについては理解した上で、それでも腎臓の様な複雑な構造は当分できないだろうと考えていた。この予想を覆す仕事が12月13日日経の朝刊で紹介された熊大西中村さん達の仕事だ。(http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20131213&ng=DGKDASDG1205K_S3A211C1CR8000 )日経ではこの立体組織構造が形成できた事をそのまま腎臓移植と関連させて記事を書いている。ただ、この論文を良く読んでみると、臓器発生研究のお手本の様な仕事だ。西中村さん達は腎臓構成細胞の発生過程を中間段階の細胞や未熟組織レベルでほぼ完璧に明らかにしている。次に、これらの細胞の分化の各段階を誘導するために必要な因子を、胎児から取り出した様々な段階の細胞を使って決めている。次にマウスES細胞を培養し、先に決めた因子によって狙いの細胞が予想通り誘導される事を調べて、必要な因子の組み合わせが正しい事を確認している。この詳細な検討の仕上げとして、マウスES細胞から立体的な腎臓組織が作成できるか調べ、ついに一定の構造化を遂げた腎組織の形成に成功している。これでも脱帽だが、さらにマウスで得られた知識がヒトでも通用するかヒトiPS培養を用いて検討し、細胞や構造化した組織の誘導に成功したと言うすばらしい結果だ。これまで腎臓組織は簡単ではないと思っていたが、改める必要がある。
   さて、日経の記事だが、多分熊大のプレス発表をほとんど使っているようだ。とは言え、記事でも透析に代わる腎移植の話を研究の内容より先に、しかも研究自体の紹介よりはるかに詳しく紹介してしまうと、患者さんの誤解の元になる事間違いない。実際、私自身もさきがけメンバーの仕事に反応した患者さんから、透析は必要なくなるのかと何回か聞かれた経験を持つ。今後記事の書き方を更に工夫して欲しいと思う。また、今回は研究そのものの紹介がほとんどなかった。腎臓の発生過程の詳細を明らかにして始めて組織化された腎臓組織の再構成も可能になる。発生過程の理解をスキップして試行錯誤を繰り返す研究の多い中で、西中村さんの研究は発生の理解を積み重ねて技術に至るというグランドストーリーだ。そんな研究の最も核心部分が記事の中では全て省略されたのは本当に残念だ。

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全エクソームDNA配列検査が一般検査になる(New England Journal of Medicine 10月17日号掲載)

2013年12月13日

私たちのゲノムは大きく、蛋白質へ翻訳される部分と、それ以外の部分に分ける事が出来る。前者をエクソン、後者をイントロンを含む非翻訳領域と呼ぶ。遺伝病やガンの多くは、この翻訳されるエクソンのDNA配列が変化する事によって起こる。このため、この変異を調べるための様々な方法が開発されていた。しかし考えれば、面倒な事は辞めて、最初から全てのエクソンのDNA配列を決めれば済むはずだ(これを全エクソーム検査と言う)。事実、がん研究の分野ではがん細胞の全エクソーム検査が行われ、ガンの原因や経過の詳細が明らかになり、新しい治療につながっている事をこれまでも紹介した。ただこれまではコストの問題があり、一般検査と言うより、研究室での話だった。幸い、DNA 配列決定にかかるコストはますます低下しており、現在信頼できる会社に頼んで解析を依頼すると50万円ぐらいに下がって来た。更にそのコストは低下し、10万円になるのも時間の問題だろう。この様な時代を背景に、診断のために遺伝子診断が必要と医師が考えた200例を超す神経疾患の患者さんのエクソーム検査を行い、一般検査としてのエクソーム解析の意義を調べた研究が行われ、The New England Journal of Medicineの10月17日号に報告された。ヒューストンのベーラー大学の仕事で、「Clinical whole-exome sequencing for diagnosis of Mendelian disorders (遺伝病診断への全エクソーム配列決定の応用)」。結果はわかりやすい。全エクソームのDNA配列決定を行えば25%の患者さんの遺伝子異常が特定できると言うものだ。これまで遺伝疾患である事が疑われても、ほとんど遺伝子が特定できなかった事を考えると格段の進歩だ。エクソームだけでなく、全ゲノムを調べるようになれば更に診断率は上がるだろう。
   2004年日本の研究機関が次世代シークエンサーをこぞって導入しようとした時期、アメリカでは1000ドルゲノム計画がスタートした。ゲノム検査を研究室から診療現場、そして最後は個人へと言う明確なメッセージが示されたすばらしい研究プロジェクトだが、その成果がますます拡がって来たのを実感する。また、12月9日にナビ席で紹介した「個人ゲノム情報に特許はかからない」というアメリカ最高裁の判断もこの様な背景を考慮した判断だろう。私たちもどうするのか議論が必要になって来た。

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12月12日読売新聞記事:世界最古の生命の痕跡発見「37億年前に生物」

2013年12月12日

地球は45億年前に生まれたとされている。それから10億年、基本的には物理と化学法則で支配される事象しか地球で起こらなかった。しかし生命誕生前後から、物理化学法則はそのままで、新しい法則が付け加わった。その結果、物理化学法則だけでは起こる確率が天文学的に低い、多くの新しい現象が高い確率で生まれた。だからこそこの痕跡を探す事で生命(あるいは生物法則)が存在した事を知ることが出来る。その一つが、炭素同位元素12Cと13Cの比だ。生物は炭素12を使いやすいため、生物の遺物には炭素12が濃縮される。1999年この論文の共著者であるRosingによりグリーンランドIsuaにある地表に現れた37億年前の地層の中のグラファイトに炭素13がほとんどない事が報告された。とすると、37億年前にかなりの規模で生物活性が存在した事になる。ただ、地質学的にこの層に蓄積したグラファイトが地層の年代を反映しているのか、鉱物学的、地質学的な反論があった。この論争を解くために、東北大学の掛川さんグループとデンマークのRosingさん(グリーンランドはデンマーク領を付記しておく)さんは、同じ地層でもあまり地質学的変化を受けていない場所から炭素13が含まれないグラファイトを採取し、ラマン分光やグラファイトの形態を詳しく検討して、これが海中の生物沈殿物に由来すると結論した。夢のある仕事だ。
   今日見た所この研究は読売新聞だけが報道しているようだ。内容は詳しく、これまでの論争や、使った方法についても正確に伝えている。申し分ない。ただ著者のなかのデンマーク人はRosingさんただ一人なので、コペンハーゲン大学チームと言うのは違うだろうと思った。

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12月11日:飢餓とエピジェネティックス(11月4日号アメリカアカデミー紀要)

2013年12月11日

12月2日獲得形質の遺伝の話としてエピジェネティックスについて書いたが大好評のようだった。この時、遺伝子の配列はそのままで、長期間遺伝子の発現を調節するスウィッチに影響を与えるエピジェネティックスと呼ばれる現象を、妊娠中の母体の経験の影響が生涯続くエピジェネティックな変化を子供に誘導する現象を例に短く触れた。この現象を理解させてくれる最も有名な研究が、ドイツ軍占領下に飢餓を経験した母体から生まれた子供を長期間追跡したコホート研究で、「オランダ飢餓経験者のコホート研究」として専門家にはよく知られている。1944-1945の冬の話で、飢餓をなんとかしのいで生まれることが出来た対象者は既に70歳に近づいている。飢餓当時の母親の状態など詳しい聞き取り調査の上で、これまでも定期的に様々な角度から調査が行われ重要な結果がその度に得られている。中でも、50−60歳になった頃の研究で、飢餓を経験したお母さんから生まれたグループでインシュリン分泌能が低下していた事についての報告は反響が大きかった。今日紹介するのは同じ対象者で本当に遺伝子上のエピジェネティックスの変化が見られるのか(DNAのメチル化を調べている)を調べたオランダの研究で、「Persistent epigenetic differences associated with prenatal exposure to famine in humans (出生前の飢餓にさらされたヒトで見られる持続するエピジェネティックな変化)」がタイトルだ。対象者から血液を採取、その全血から得られるDNA上にあるIGF2遺伝子のDNAメチル化を調べている。この遺伝子は、母方から来た染色体上ではインプリントと言って発現抑制がかかっている。このインプリンティングはIGF2遺伝子DNAがメチル化されることによるエピジェネティックな変化であるわかっている。このメチル化の度合いが、母体内で妊娠初期に飢餓を経験したグループではっきりと低下していると言うのがこの研究の結果だ。結論をわかりやすくまとめると、発生途中の一回の飢餓経験が、生涯続く遺伝子の発現調節の変化を誘導できる事を示した研究だ。今の日本には飢餓など無縁だと考えられる向きも多いだろう。しかし妊娠中にもスタイルを保とうと過度のダイエットをしたりすると同じ結果を来す恐れがある事は知っておいて欲しい。
   オランダ飢餓コホートは、不幸な経験はほとんど繰り返す事の出来ないチャンスでもあり、科学的に調査する事が重要である事を示している。戦争による飢餓もそうだが、我が国では被爆と言う不幸な経験をコホート研究を通して新しい世代に伝える事業が行われて来た。また広島、長崎で研究している友人から、被爆者の高齢化とともに新しい問題が見つかる事も聞いている。同じように、私たちは福島と言う不幸な経験に出会った。この経験を不幸で終わらせず、本当に長期的視野で次世代に伝えられる科学的調査として残していって欲しいと思う。コホート研究とは本来、自分は現役で結果を見られない事を覚悟した研究者が始め、新しい世代へと受け継ぐものだろう。

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論文のレフリーは必要?(12月10日 Natureオンライン版掲載)

2013年12月10日

今日紹介するのは、一般の方にはあまり関係ない話だとお断りしておく。
  さて、科学は一つの意見を、他の多くの人が認めるコンセンサスにしていく手続きだと言っていい。だから、論文に書いてあることがいくら審査を通ったからと言って、正しいとは限らない。また、コンセンサスに反する論文を通すのはエネルギーがいる。ミトコンドリアが細胞内に寄生した細菌の末裔だとする説についての論文が受理されるまで5年以上かかったとリン・マグリスは彼女の本の中で書いていたが、研究者なら誰でもレフリーの横暴だと納得する。では、最近流行りのレフリーを通さないオープンアクセスの雑誌の方がいいのか?そんな問題をシュミレーションモデルを使って考えた論文がNatureオンライン版に掲載された。なんと英国ブリストル大学の経済学部からの仕事で「Modelling the effects of subjective and objective decision making in scientific peer review (科学の論文審査での主観的及び客観的意思決定の効果についてのモデル)」と言うタイトルがついている。この様な内容の論文が掲載される事に実際驚くが、レフリーが主観的な意見をどのぐらい主張するかを変数にして、大勢に流されてしまう効果や、誤解の生じる確率を計算して、論文の内容が確率的に信頼できるようにするにはどうすればよいかが計算されている。結果は少し常識的で、レフリーがある程度主観的である方が大勢に流される効果は減ると言うものだ。従って、審査のないオープンアクセスは期待薄と言う事になる。実際のデータの分析も少しはあるが、結局この仕事はモデリングと計算の話だ。多分レフリーと格闘している多くの科学者には納得しがたい論文だろう。しかし、経済学の発想で科学者世界に対して「科学的?」フィードバックを行う事は、捏造・誤解・誤りのない科学雑誌のためには少しは役に立つかもしれない。いずれにせよ、Natureの編集方針に新たな息吹を感じる。とは言え、この論文は投稿が8月、受理が10月と、短い審査期間で審査を通っている。この審査過程も是非公開して欲しいと思った。

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12月9日 新薬開発促進に関する動向

2013年12月9日

臨床関係の雑誌を見ていて、創薬や診療に関してアメリカ政府が創薬促進に本腰を入れている様なので紹介しておく。
   最初は、遺伝子特許についてのアメリカ最高裁の判決についてで、Annals of Internal Medicine に掲載された(6月11日に既に公表されている)。現在最も広く利用されている遺伝子診断の一つが乳がんのBRCA1とBRCA2遺伝子の突然変異に関する検査だ。日本では一検査あたり20-30万円かかるが、その多くの部分はアメリカのMyriad社に対する特許料だ。この突然変異は乳がんの予後を知るために極めて重要であるため世界的に行われており、そのおかげでMyriad社の2013の4半期の売り上げは500億円を突破している。勿論BRCA1と乳がんの関係はMyriadが発見したにしても、突然変異は個人の遺伝情報であり、例えば全ゲノムを調べると自然にわかる事だ。もしBRCA1/2を含む全遺伝子を調べる際にMyriad社に特許を払うとすると、何となくおかしいのではないかと言う疑問が持たれていた。即ち、各人が自然に持つ遺伝子配列が特許の対象になるのかと言う問題だ。これについてアメリカ最高裁は、ゲノム遺伝子配列については特許の対象にならない事を明確に決定した。一方、検査のための方法や、試薬類全ては特許として認められる。この結果、全ゲノムや全エクソーム解析自体に特許がかかる事は無くなり、個人ゲノムビジネスは更に発展すると予想される。
   次はFDAが新しい「ブレークスルー治療」と認定した薬剤の開発を別枠で促進する道を開いたと言う報告で、The New England Journal of Medicineの11月19日号(p1877)に紹介されていた。2012年新薬開発促進のため、FDA Safety and Innovation(FDASIA)が制定された。この中の一つのプログラムが「ブレークスルー治療」プログラムで、生命の危険が高い病気に対する薬が一定の条件(動物実験などメカニズムを明らかにする前臨床研究で現在利用できる薬剤より優れた効果が十分予想される場合など)を満たしておれば、FDAは集中的にサポートして、薬剤として許可するかどうかを4ヶ月程度を目処に行うと言うプログラムだ。2013年に80以上のプロジェクトが申請され、現在26プロジェクトが個のプログラムとして認定されている。認定された薬剤の多くは、ガン、希少疾患が標的であり期待できる。
   最後が、Nature Medicine、11月19日号(p1353)に紹介されていた新しい治験方法についての記事だ。現在薬剤の有効性は、いくら分子メカニズムが明確であったとしても、ランダム化した患者さんを対象にする二重盲検法に従う治験を経て始めて判断される。この際、半分近くの患者さんについて偽薬と呼ばれる、まさに毒にも薬にもならない薬が与えられ、心理的効果による効果が除外される。しかしこれを患者側から見れば、全く治療を受けないで放置される可能性を認めた上で治験に参加しなければならない事になる。特に、効果が初期から予想される場合は、いくら医療統計上必要と言え、残酷な方法だ。また、必要な患者さんの数も多く小さな会社にとっては負担になる。この問題を少しでも緩和した治験方法として、偽薬効果がなかった患者さんを早期に再編成して、実際のお薬を服用するグループへとリクルートする方法でsequential parallel comparative designと呼ばれている。この論文ではこの方法を用いた治験、特に精神疾患に対する薬剤の治験が現在14進行中で、徐々に普及し始めた事が紹介されている。更に、この偽薬効果がなかったグループを一定期間ごとに再編成を繰り返すTEDと言う方法も始まっているようだ。規制当局もともに、薬剤の有効性を早く確かめ、患者さんの元へ届ける努力が続いているようで、期待できる。

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なぜレナリドマイドが骨髄腫やBリンパ腫に効果があるのか?(骨髄腫、リンパ腫)

2013年12月8日

骨髄腫は化学療法治療により長期の生存が可能になって来た腫瘍の一つだが、それでもなかなか完治の難しい腫瘍だ。しかし最近サリドマイド及びサリドマイド由来の化合物レナリドマイドが骨髄腫特異的な効果があることが分かってきて、生存率の大幅な改善につながっている。ほとんどの年配の方なら大きな薬害事件としてサリドマイドという薬を覚えておられると思う。これは本来鎮痛催眠剤として用いられたサリドマイドを妊婦さんが服用し、そして生まれた多くの子供が四肢の発育異常を示した世界的に大きなスキャンダルになった事件だ。サリドマイドはセレブロンと言う分子に結びつく事で手足の成長に関わる増殖因子が壊されてしまうためである事がわかっている。サリドマイドによる四肢の成長阻害のメカニズムについては、半田さん(東工大)や小椋さん(東北大)の貢献により明らかにされている。しかし、骨髄腫で同じメカニズムが働いている証拠はなく、解明が待たれていた。先週サイエンス誌オンライン版に掲載された2報の論文はこのメカニズムがついに明らかになったと言う事を報告している。両方とも同じ内容なので先に掲載されている方だけ紹介しよう。タイトルは「Lenalinomide causes selective degradation of IKZF1 and IKZF3 in multiple myeloma cells (レナリドマイドは骨髄腫細胞内でIKZF1, IKZF3分子の特異的分解を誘導する)」で、ボストンのBrigham Women’s Hospitalの研究だ。結果はわかりやすい。先ず入り口は半田さんや小椋さんがサリドマイドで明らかにした結果と同じで、骨髄腫細胞でレナリドマイドが結合するのもセレブロン分子を含む蛋白質分解に関わる複合体だ。ただ、骨髄腫細胞ではこの複合体によって分解される分子が、半田さん達が見つけた増殖因子ではなく、リンパ球の発生や増殖に重要な働きをする事が知られている二つの分子、IKZF1, IKZF3である事が明らかになった。なぜこの二つの分子が骨髄腫の増殖に必須であるかなどの詳細は省くが、レナリドマイドによりIKZF1, IKZF3の2種類の蛋白質が特異的に分解され、その結果細胞が増殖できなくなることが、骨髄腫にこの薬剤が効くメカニズムだ。しかし、特定の蛋白質の分解を化合物で誘導できると言う今回の研究は、新しい可能性を示している。先ず、メカニズムが明らかになる事で、レナリドマイドより更に優れた薬剤の開発が可能になる事だ。もう一つの可能性は、同じメカニズムを使って、異なる腫瘍で、異なる分子を特異的に分解する可能性だ。いずれにせよ、この重要な研究のルーツに半田さんや小椋さんの研究がある事も是非銘記しておきたい。

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12月6日朝日新聞記事(福島)細胞内で異物につく分子、東北大・東京医科歯科大が発見。

2013年12月7日

朝日新聞の福島さんが東北大学のオートファジーに関する研究を紹介した。(http://www.asahi.com/articles/TKY201312040406.html)論文はMolecular Cell誌に掲載され、タイトルは「Endogenous Nitrated Nucleotide is a key mediator of autophagy and innate defence against bacteria(細胞内のニトロ化核酸はオートファジーと細菌に対する自然防御に必須の役割を持つ)」だ。しかし、「細胞内で異物につく分子・・・発見」と言う見出しを見た時、一般の人はどう感じるのだろう。私は見出しを見た時何を言っているのか全くわからなかった(勿論記事を読んで納得したが)。多分中途半端にものを知っていると、コミュニケーションが図れないのかもしれない。
   さて論文を読んでみるとこの仕事が、A型連鎖球菌が貪食細胞に食べられた後どう処理されるのかを丹念に調べた仕事だとわかる。一つ一つの分子の詳細は全て省くが、まず細菌成分による刺激でNO(一酸化窒素)が発生し、次にこれに反応してニトロ化cGMPが作られる。次にこの分子が細菌上の蛋白質を直接変化させることで、細菌はオートファジーが起こる様印がつき、オートファジーが進んで小器官に閉じ込められた後、分解されると言う一連の過程を解明している。この研究の売りは、NO発生によりニトロ化cAMPが作られ、これが細菌の蛋白を変化させることで、オートファジー経路に導かれると言うメカニズムの発見だ。はっきり言って、派手さのない極めて専門的な仕事で、一般の人にはわかりにくく福島さんも記事にするのに苦労したと思う。勿論、記事の最後にまとめられているメカニズムについてはうまく書けている。しかし、なぜこの論文を記事に選んだのか勿論私にはわからないが、おそらくオートファジーについての研究と言う事が理由ではないだろうかと推察する。オートファジーは、現東工大の大隅さんが酵母の電顕の観察から着想を得てライフワークとして進められた独創的な研究で、分子メカニズムが大隅さん達によって明らかになり、今では細胞内での不用な分子を処理する重要な機構である事が世界に認められている。即ち、我が国発のオリジナルな仕事だ。細胞内にはもう一つ不必要な分子を処理する機構がある。ユビキチン化と蛋白質分解による処理だが、この機構の発見には既にノーベル賞が与えられている。このため、大隅さんは今年のノーベル賞の有力候補だと言う記事が多くの新聞をにぎわせた。おそらく今回の記事も、この事が頭にあるのではないだろうか。それなら、日本の誇る大隅さんも含めて紹介すればもう少しわかりやすかった様な気がする。研究は歴史的に見てみると一般の人にもわかりやすい。特に日本オリジナルな重要な概念については、歴史についても紹介して欲しいと思う。ともかく、「どこかの誰かが、よくわからないけど重要な事をしたようだ」と言った記事はいただけない。

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ハイデルベルグ原人のミトコンドリアゲノム解明(Natureオンライン版掲載:12月4日NY Times他多くの欧米メディアが掲載))

2013年12月5日

NY Timesを始め欧米のメディアが大騒ぎしている論文を紹介する。このホームページでも、11月14日に紹介したが、ドイツライプチッヒにあるマックスプランク人類進化研究所は今世界の目を引きつけている。これまで、ネアンデルタール人、及びシベリアで発見されたデニソーバ人の全ゲノムを解明し、私たちの起源の理解について極めて大きな貢献をしてきた。もし皆さんが遺伝子検査を依頼して、ネアンデルタール度2%などと返事を貰ったら、これは全てこのライプチッヒの研究所の成果に基づく計算と言っていい。そしてついに、私たちを含む4種類の新しい人類(デニソーバ、ネアンデルタール、フロレンシス、そしてホモサピエンス)の先祖と考えられるハイデルベルグ原人の遺伝子解明に成功した言う仕事だ。Natureオンライン版に掲載され、「A mitochondrial genome sequence of a hominin from sima de los Huesos (Sima de los Huesosで見つかった原人のミトコンドリアゲノム配列)」と言うタイトルがついている。このタイトルにある、Sima de los Huesosは多くのネアンデルタールを含む原人の骨が見つかって現在も発掘が続くスペインにある有名な場所で、特に温度が保たれ、化石にDNAが保存されている期待の大きな場所だ。またいつか詳しくニコ動で紹介したいと思うが、化石DNAの配列を決めるためには、やはりこの研究所で開発されてきた多くの方法やノウハウが必要で、その全てを駆使して今回の解析が行われた。結果はわかりやすい。先ず、今回選ばれた化石はハイデルベルグ原人とネアンデルタールの両方の特徴を持っており、分類がしにくい化石だが、ミトコンドリアDNAの配列を決める事が出来、遺伝子配列からもこの化石が40万年前の原人の物であることが明らかになった。40万年前にゲノムでさかのぼれるのも驚くべき事だ。しかしもっと驚くのは、この化石のミトコンドリアゲノム配列が、ネアンデルタールよりデニソーバに似ていたことだ。この研究を行ったMeyerさんもNY Timesのインタビューに対し、最初は初期ネアンデルタールの遺伝子を調べようと思っていたと答えている。(http://www.nytimes.com/2013/12/05/science/at-400000-years-oldest-human-dna-yet-found-raises-new-mysteries.html?hpw&rref=science )  実際化石には、ネアンデルタールと言える特徴もある。しかし期待に反して、現在のところシベリアでしか見つかっておらず、東アジアに限局していたと考えられているデニソーバ人に近かった。と言うことから、この化石はネアンデルタールやデニソーバではなく、両方の祖先と言うことになる。考古学の常で、何かが明らかになると、更に大きな謎が残る。ハイデルベルグ原人から新しい人類への分離はアフリカで起こったとされているが本当だろうか?ネアンデルタールとデニソーバは同じ領域や時間を共有していたことはあるのか?そもそもデニソーバとはどんな人類か?これまでのシナリオが大きく書き換えられる可能性もある。当分はライプチッヒから目が離せない。

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大気汚染と自閉症(Epidemiology誌オンライン版掲載)

2013年12月4日

今個人的に自閉症研究の現状を調べているため、自閉症についての記載が続く。さて、今日紹介する仕事ははっきり言って「本当か?」と言う疑問と、「こんな事まで調べているのか?」と言う驚きが混じっている。Epidemiologyという疫学関係の雑誌に掲載された南カリフォルニア大学の仕事だ。タイトルは「Autism Spectrum Disorder, Interaction of Air Pollution with the Met Receptor Tyrosine Kinase Gene (自閉症スペクトラム:大気汚染とMETチロシンキナーゼ遺伝子の相互作用)」。これを見ると自閉症と大気汚染?とだれでも先ずいぶかしがる。しかし、この仕事以前にもこのグループはハイウェイ近くの大気汚染と自閉症の関係を疫学的に調べている。即ち、自閉症の原因を求めて、可能なあらゆる事との相関性を調べるのが疫学研究だ。ではMET遺伝子はなぜ選ばれたのか。まずこの遺伝子のプロモーター部位の多型と自閉症との相関が既に知られている。その上で、母マウスが大気汚染物質に晒されると、生まれた仔マウスのMET遺伝子の脳内発現が低下する事が知られている。まさに12月2日に紹介したエピジェネティックな影響の例だ。いずれにせよ、これは疑わしいと言う直感を科学にする必要があるが、このための学問が疫学で、基本的に統計学的手法が用いられている。結果はタイトル通りで、MET遺伝子の一つのタイプと、大気汚染が重なると自閉症のリスクが上昇すると言うものだ。この研究の他にも母体へのストレスによる自閉症発症の研究は多くある(これも調べようと思っている)。有名な所では、第2次世界大戦中のアムステルダム封鎖に伴う飢餓状態の中で生まれた子供に自閉症の多いという報告を挙げる事が出来る。私はこれまで自閉症の分子遺伝学過程ばかりを紹介して来たが、このように遺伝とは異なる要素についての研究も進んでいることを改めて認識した。飢餓であれ、大気汚染であれ、自閉症に遺伝以外の要因の関与がはっきりする事は、予防だけでなく、治療への様々な可能性を開いてくれる。その意味では直感的に疑わしいあらゆる要因を科学的に調べる疫学は重要だ。

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