11月7日 不眠とアルツハイマーをつなぐ視床毛様体核(11月3日号 Science Translational Medicine 掲載論文)
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11月7日 不眠とアルツハイマーをつなぐ視床毛様体核(11月3日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2021年11月7日
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元々高齢者では不眠に悩む人が多いが、アルツハイマー病認知症では初期段階から不眠を訴える頻度が高くなることが知られている。一方、眠りは脳内の記憶の整理に必要なだけでなく、覚醒時に脳内にたまった老廃物を脳外へ排出する役目も担っていることが知られている。すなわち、眠りが妨げられると、アミロイドがさらに蓄積しやすくなり、悪循環に陥る。このようにアルツハイマー病でなぜ眠りが妨げられるのか、そのメカニズムを解明することは、この病気の治療にとって重要な課題と言える。

今日紹介するテキサス・ベーラー大学からの論文は、アミロイドが蓄積し始めると覚醒や睡眠状態を調節する視床毛様体核の回路が機能的に変化を来し、睡眠を妨げること、またこの回路を回復させることでアミロイド蓄積の進行を止められることを、マウスモデルを用いて示した研究で、11月3日号Science Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Restoring activity in the thalamic reticular nucleus improves sleep architecture and reduces Aβ accumulation in mice(視床毛様体核の活動を回復させることで睡眠が正常化しアミロイドβ(Aβ)の蓄積を抑えることができる)」だ。

この研究では遺伝的に蓄積しやすいAβ遺伝子を持つトランスジェニックマウス(APマウスと略す)を用いて行動を調べ、 APマウスでは睡眠が断片化し、REM睡眠は正常だが、Slow Wabe Sleepと呼ばれる深い睡眠で見られる脳波が低下していることを確認する。また、これらの異常は海馬や皮質でのAβ蓄積量とも相関する。

すなわち、海馬でのAβ蓄積により、睡眠を調節する視床の機能的変化が起こる可能性が示唆された。そこで、Fos遺伝子の発現を用いて視床神経の興奮状態を調べると、視床毛様体核(TRN)の抑制性神経の活動が低下していることを突き止めている。一方、海馬や皮質と異なり、神経細胞の変性は見られない。

この結果は、Aβ蓄積によりTRN抑制性神経の興奮が低下することが睡眠異常の原因ではないかと考えられる。そこで静脈注射できる薬剤(CNO)でTRN抑制性神経(GABA神経)興奮を選択的に誘導できるようにしたマウスを用いてTRN刺激を行うと、Aβ蓄積が始まったマウスのTRN神経興奮が回復し、その結果として睡眠の中断がなくなり、Slow wave睡眠も正常化することを突き止めている。

では、正常睡眠の回復は期待通りAβの蓄積を抑えることができるだろうか。このために、CNOを30日間、毎日投与して正常睡眠を維持する慢性刺激実験を行い、Aβの蓄積を40%程度抑えられることを明らかにしている。

以上の結果は、少なくともマウスモデルで、Aβ蓄積、睡眠障害、Aβ蓄積促進の相乗サイクルを、正常睡眠を回復することで断ち切れる可能性を示唆している。

最後に人間でこのモデルが適用できるか調べるため、様々なステージのアルツハイマー病の剖検例のTRNを調べ、Fosの発現から推察される神経興奮が、ステージと反比例していること、すなわちステージが進むほどTRNの興奮が低下していることを明らかにしている。

マウスモデルとはいえ、睡眠とアルツハイマー病の生理学として面白く読んだ。是非、同じような効果を示す睡眠導入法が開発されることを期待する。

カテゴリ:論文ウォッチ

11月6日 クリスパー開発者のDoudnaさんのユニークなCovid-19研究(11月4日 Science オンライン掲載論文)

2021年11月6日
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Covid-19についての論文に目を通していても、最近では新鮮な驚きが減って、この分野もアカデミックになってきたなと感じるが、それでもこれまでの常識を疑う素晴らしい研究に出会うことができる。逆に言うと、30Kbと小さなウイルスでも、尽きることがない不思議があり、研究が飽和しているように見えてきたときこそ、新しい発想が必要であることを示唆している。

今日紹介する、昨年クリスパーの開発でノーベル化学賞を受賞したカリフォルニア大学サンフランシスコ校Doudnaさんの研究室、およびカリフォルニア大学バークレー校からの共同研究論文は、新しい発想の研究の重要性を示す典型で、11月4日Scienceにオンライン掲載された。タイトルは「Rapid assessment of SARS-CoV-2 evolved variants using virus-like particles(新型コロナウイルスのウイルス様粒子を用いた変異体の迅速な検定)」だ。

紹介はしなかったが、クリスパーの本家本元として、Doudnaさんは一本鎖DNAを切断するCasシステムを用いて、増幅なしのCovid-19ウイルス検出法を開発して発表している。しかし、今回の論文は、全く違う分野の話で、技術的には特に新しいとはいえない、いわば地道な研究だ。

現在ウイルス感染実験はウイルス自体か、偽ウイルスと呼ばれる他のウイルスシステムを用いた感染実験に頼っており、抗体も全てこの方法でテストされている。一方、Doudnaさんたちは、完全にウイルスゲノムを排除したウイルス粒子だけで、感染実験を可能にする条件解明にチャレンジした。

もちろん感染を定量化する必要があるので、感染量を反映できるルシフェラーゼRNAをウイルス粒子の中に取り込んで、蛍光量で感染を検知しようとしている。言ってみれば、コロナウイルスの粒子をRNAの運び屋として利用する条件設定の研究と言える。

この目的のためには、スパイク、マトリックス、エンベロープと粒子外に存在する分子と、RNAとともに粒子内にパッケージされる核(N)タンパク質が至適な割合で作られ、レポーター遺伝子を含んだウイルス粒子を排出するパッケージ細胞を作成する必要がある。

さらに、レポーターRNAがNタンパク質とともに粒子内にパッケージされるように、コロナウイルスが持っているシグナルRNAを突き止め、Nタンパク質と結合するガイドRNA、感染を定量化するためにレポーターRNA、そしてパッケージのためのシグナルRNAを設計する必要がある。これらの条件を設定するのはおそらく簡単ではない。何度も試行錯誤を繰り返して、最終的に全てを至適化し、レポーター遺伝子の発現でウイルス感染を定量できるシステムを作り上げた、まさに地道な研究だ。

見方を変えると、アデノ随伴ウイルスベクターのようなコロナウイルス粒子遺伝子ベクター系が完成したことになる。

この研究ではこの新しいウイルス粒子+レポーター遺伝子感染実験系を用いて、スパイク変異の影響、スパイクに対する抗体の中和活性、そしてNタンパク質の変異の感染への影響を調べている。

まず驚くのは、この実験系では、α株、β株、δ株特有のスパイク変異が感染の効率に反映しないことだ。もちろんこれまでの研究を否定するものではないが、感染性を全てスパイクの問題にしていたことから考えると、今後は注意が必要だ。一方、スパイク変異の抗体への感受性は良く反映されている。抗体の中和活性を簡単に調べる素晴らしい方法だと思う。

さらに驚くのは、スパイク変異と異なり、粒子内にとどまるNタンパク質の変異は、パッケージ過程の効率上昇を介して感染性を高める効果が大きく、δ株の持つ変異によりなんと10倍以上の感染効率上昇が観察される。この結果を確かめるため、Nタンパク質の変異のみが異なるウイルスを作成して実際の感染実験を行い、感染で50倍の差が見られることを確認している。

以上が結果だが、この研究の重要性を私なりに考えると次のようにまとめられる。

  1. Doudnaさんが述べているように、構造タンパク質の変異も含めてウイルスの感染性を迅速に調べることができるシステムが完成した。
  2. このウイルス粒子は凍結融解で安定なため、ウイルス実験が難しい企業などに提供できる、簡単安全な感染実験を可能にした。
  3. 大きなRNAを運ぶウイルスベクターへの道を開いた。現在のlipid nanoparticleは簡単だが、コストが高い。このパッケージャーを用いて、アデノウイルスワクチン並みのコストで、コロナウイルス感染標的細胞(例えば気道上皮)を狙ったワクチンも可能になるかもしれない。

以上、さすがDoudnaさんと思える、ユニークな研究だと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ

11月5日 思春期の始まりを告げる遺伝子:UKバイオバンクの威力がまた示される(11月3日 Nature オンライン掲載論文)

2021年11月5日
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我々団塊の世代は、新しい世代に接するたびに実感するが、遺伝背景にかかわらず、子供時代の栄養状態が、身長に大きな影響を及ぼしている。もちろん疫学的にも、体格とともに、初経の時期など、思春期の始まる時期も栄養と比例していることが知られている。一見当たり前のように思えるこの事実も、しかし説明することは簡単でない。これは、栄養と内分泌系が食欲中枢などを介して、複雑に関係しているからで、これを解きほぐすためには、思春期や子供の成長と密接に関わるマスター分子を特定することが必要になる。

この候補分子が、レプチン・メラノコルチン系で、代謝と視床下部でのホルモンネットワークをつなぐ最も重要な回路と考えられている。今日紹介する英国医学協会代謝疾患ユニットからの論文は、ヒトゲノムデータベースを駆使してメラノコルチン受容体の一つMC3Rが思春期の時期を決める重要な分子であることを特定した重要な研究で、11月3日Natureオンライン版に掲載された。タイトルは「MC3R links nutritional state to childhood growth and the timing of puberty(MC3Rは栄養状態と児童の成長および思春期の時期をつないでいる)」だ。

これまでヒトやマウスの研究からメラノコルチンが、食欲やIGFなどを介して児童の成長に関わることが知られていたが、思春期との関わりは指摘されていなかった。しかし、MC3R遺伝子欠損マウスでは、低栄養により思春期が遅れる人間のケースとの類似が見られることから、このグループはMC3Rが思春期のタイミングに関わる分子ではないかとあたりをつけ、UKバイオバンクの20万人にも及ぶエクソーム解析結果を調べ、0.8%、すなわち十分統計的に調べられる1000人近い人がMC3Rの機能異常変異を持つことを突き止める。

そして、この人たちが身長や座高が低いだけでなく、初経や声変わりなど思春期が4.7ヶ月遅れることを突き止める。そして、試験管内で検出できるそれぞれのMC3R機能異常の程度が、思春期時期の遅れと比例することを示している。

また、試験管内の実験では強い異常がなくても、例えばUKバイオバンク50万人のうち5万人に見られるコモンバリアントでも、思春期の遅れや低身長が統計的に相関することまで確かめている。さらに他のデータベースを調べ、新しい変異の存在を特定し、それぞれの変異が少しづつ異なる形質を示すことを明らかにしている。

これほど大きなデータベースがあると、当然ホモ変異個体を発見することができる。発見された2人のホモ変異では、期待通り思春期は大幅に遅れている。とはいえ、結婚して子供もできているので、性成熟には影響がない。驚くことに、身長が低く痩せ型のヘテロ個体と異なり、ホモ個体は強い肥満が認められる。

最後に、MC3Rを発現する視床下部細胞で調べ、これまで指摘されていたように、性腺刺激を刺激するホルモン分泌神経に発現していることを確認している。

以上、レプチン・メラノコルチンという代謝と脳をつなぐシステムが、MC3Rを介して性腺刺激ホルモンと視床下部で結合することで、思春期の開始と栄養代謝が結合していること、そして栄養が改善すると、体格とともに思春期が早まるという統計学的結果の分子メカニズがよく理解できた。

とはいえ、思春期の遅れない多型の存在など、まだまだ複雑な回路を示唆しており、MC3Rの機能をさらに解析することの重要性もよくわかった。

論文を読み終わって、UKバイオバンクの威力のすごさをつくづく認識した。

カテゴリ:論文ウォッチ

11月4日 寒さが自己免疫病発症を予防する (11月2日号 Cell Metabolism 掲載論文)

2021年11月4日
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2日間専門知識の必要な論文が続いたので、今日はわかりやすい論文を選んだ。ジュネーブ大学からの論文で、マウスを室温10度の環境にさらすと、驚くことに実験的自己免疫性脳脊髄炎が劇的に改善するという研究で、11月2日のCell Metabolismに掲載された。タイトルは「Cold exposure protects from neuroinflammation through immunologic reprogramming(低温暴露は免疫をプログラムし直して神経炎症から守る)」だ。

なぜこのような実験に至ったのかはよくわからない。例えば低温地帯で屋外労働に携わると自己免疫病が減ると言った疫学調査があるのかどうか全く知らないが、低温にすることで代謝が低下するので、エネルギーコストの高い免疫反応が低下するのではと着想したようだ。

まず10度の室温で2週間飼育すると、骨髄でのマクロファージの分化やインターフェロン誘導に関わる遺伝子の発現が軒並み低下し、骨髄でのマクロファージの生産数が低下する。さらには、末梢血中から、免疫誘導に必要な組織適合抗原を発現したマクロファージがほとんど消失していることを発見する。

すなわち免疫反応誘導が強く阻害されていることが想定されるので、低温にさらした後自己免疫性脳脊髄炎を実験的に誘導してみると、予想通りほとんどのマウスが病気を発症しない。また、低温にさらす時間を2日に減らしても、病気発症を抑制する効果は十分得られる。逆に、34度という高温で7日間飼育すると、病気が悪化する。

低温にさらされることで、体温を維持するためにアドレナリン作動性の神経刺激が起こり、褐色脂肪組織で熱が合成されるが、この結果エネルギーバランスが免疫反応に供給されないのではと、様々な実験を行っている。残念ながら、明確な代謝の変化が特定されたわけではない。もっと他の理由を考えた方が良さそうに思うが、著者らは代謝変化が免疫抑制につながっていると、少し無理な結論で終わらせている。

最後に、細胞移植で自己免疫を誘導する実験を行い、免疫誘導時期の低温が大事で、自己免疫誘導T細胞を低温暴露マウスに投与すると、低温で維持していても普通に病気が発症することを示している。

結果は以上で、メカニズムについては正直全くわかっていないと言っていい。ただ、実験的自己免疫性脳脊髄炎誘導抑制効果ははっきりしており、メカニズムが明らかになればトランスレーションの可能性もなきにしもあらずだ。ただ、低温暴露というと簡単そうに思うが、臨床的には2日間であっても、簡単な話でないだろう。いろんなことを思いつく人がいるなと言うのが印象だった。

カテゴリ:論文ウォッチ

11月3日 Repair-seqを使ってプライム編集法の効率を高める:昨日の続編(10月28日号 Cell 掲載論文)

2021年11月3日
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昨日紹介したRepair-seqのアイデアには本当に感銘を受けたが、実はこの論文は、この方法を用いてプライム編集と呼ばれる新しい遺伝子編集法を改良したもう一つの論文とセットになっている。ただ、内容はRepair-seqの応用で、改善ポイントもわざわざこの方法を用いなくともわかっていると思ったので、紹介しないでおこうと思っていた。

ところが、全く独学で生命科学を勉強されている知人から、「Repair-seqは、遺伝子治療による遺伝子改変法の改良に役立つと思うがどうか」と聞かれたので、この問いに答える例として、昨日紹介した論文の次に掲載されている論文を、今日続けて紹介することにした。タイトルは「Enhanced prime editing systems by manipulating cellular determinants of editing outcomes(プライム編集システムの効率を編集結果に影響する細胞側の因子を操作することで促進する)」だ。

CRISPRと逆転写酵素を組みあわせたプライム編集が徐々に広がりを見せている。この技術についてはGIZMODOが詳しく解説しているので是非読んでおいてほしい(https://www.gizmodo.jp/2019/11/prime-editing.html) Casによってゲノムに切れ目を入れただけでは、何が起こるかコントロールできないところを、ガイドRNAに結合させた編集後の配列を逆転写酵素で読ませて、編集したい領域の片側のDNA鎖に挿入し、正確な遺伝子編集を可能にする技術だ。

例えばGIZMODOなどでは万能のように書かれているが、実は効率が良くない。これは当然で、編集した方のDNA鎖ともう一方で塩基ミスマッチが起こるため、再度、元の配列に戻ったりと、様々な問題が起こる。そのため、実際にはもう一つのCasを用いて編集されなかった側に切れ目を入れ、強制的に編集側にそろえると言った方法がとられている。

この研究では、このプライム編集系をレトロウイルスに取り込んで、Repair-seqと同じように、正確な編集に及ぼす遺伝子の影響を網羅的に調べている。プライム編集用のガイド配列を作成し直す必要があり、かなりのコストがかかったと思うが、結果はプライム編集過程について想定されていた分子が全てリストされてきた。

まず、DNA鎖をはねのけたり、切れ目を閉じたりする過程に関わる酵素が欠損すると、正確な編集効率が低下する。一方、期待通り、塩基の対応が一致しないときにそこを修復するミスマッチ修復に関わる分子を抑えてやると、効率が2倍に増える。

わざわざRepair-seqを使わなくても、大体想像がつくのにとは思うが、コンセプトを確かめるという意味では、完全に働くことがわかった。今後は、もっと複雑な、組み換え型の編集についても、同じようなテストが可能になるのではないだろうか。とすると、かなり期待できる。

Repair-seqを使った研究はここまでで、編集時のみにミスマッチ修復酵素(MMR)を一時的に抑える分子を開発し、またMMRを抑えるために適した塩基配列の特徴などを詰めていき、最後に逆転写酵素の活性を至適化して(これは大変なプロセスだと思う)、最終的にスーパープライム編集システムに仕上げている。そして、最終的には正確に編集できる効率50%を達成するに至っている。

以上が結果で、昨日の論文を読んだ後では、特に驚くというほどではないが、いずれにせよ膨大な実験を重ねて、新しい遺伝子編集系を論理的に作り上げている。

多くのデータを割愛して紹介したのと、専門外でも頑張って理解するという知人の意気込みにも触れたので、知人が都合のいい11月26日夜8時から、これら2編の論文の解説をYoutubeで配信することにした。Zoomに参加して一言話そうという人は、直接連絡してもらえればzoomアカウントを送ります。

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11月2日 DNA切断修復機構の網羅的解析法:そのアイデアに感嘆する(10月28日号 Cell 掲載論文)

2021年11月2日
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今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校とプリンストン大学からの論文は、一般の読者にはかなり難解な論文であることを最初に断っておく。というより、私の能力では易しく解説することができない。しかも、内容が膨大すぎて、個々の結果を詳しく説明することも簡単でない。しかし研究内容はトップジャーナルに掲載されている論文の中でも、間違いなくトップクラスで、むちゃくちゃ面白い。この論文を読んで「なんと素晴らしいアイデアか!」と膝を打った。タイトルは「Mapping the genetic landscape of DNA double-strand break repair(DNA二重鎖切断修復の状態の遺伝的原因を特定する)」だ。

DNA切断修復は、放射線などの外界ストレスに対する防御だけでなく、減数分裂時の組み換え、遺伝子再構成など、様々な生命過程に関わっており、関わる分子も多様かつ重複しており、極めて複雑だ。ただ、抗体遺伝子再構成のように、組み変わる場所が絞られている場合はともかく、DNA切断があちこちで起こると、解析が難しい。また、一つの修復過程に数多くの分子が重複して関わるため、個々の遺伝子ノックアウトを組み合わせる研究では、らちが明かない。

これらの問題を一挙に解決したアイデアが、クリスパーを用いて遺伝子ノックアウトと同時に、DNA切断部位も特定できるようにした今回のRepair-seqと呼ぶアイデアだ。まず、この方法について詳しく紹介しよう。

実験系は思いのほか単純だ。レトロウイルスベクターに、これまで二重鎖切断(DBS)修復に関わることが知られている遺伝子をノックアウトするためのガイドRNAを組み込み、その下流にさらにCas9により切断されるためのPAM配列を設置しておくと、ガイドRNAが転写されたとき、ホスト遺伝子だけでなく、ガイドRNAをコードするレトロウイルス自体にも、DNA切断酵素としてのCas9がリクルートされる。このCAS9により、ホスト遺伝子がノックアウトされると同時に、レトロウイルス上のPAM配列上流もカットされることになる。

このDSBは修復できないと細胞は死ぬので、修復された細胞が生き残るが、それぞれの細胞では、DSB修復に関わる遺伝子のどれかがノックアウトされており、どの遺伝子がノックアウトされているのかも、レトロウイルス中のガイドRNAをコードする遺伝子配列から特定できる。

すなわち、ある特定の遺伝子をノックアウトしたとき、修復結果がどうなるかを、ゲノムに飛び込んだレトロウイルス遺伝子の配列の一部を決めるだけで、全てわかるという方法だ。

これまで、DBSがゲノムの様々な場所で起こるため、修復結果を配列として調べるのが難しいという問題を、見事に解決し、特定の遺伝子が欠損すると修復状態がどう変わるかについて、包括的に調べられるようになった。

では何がわかるようになったのか。実際には、修復のされ方は様々なので、切断箇所が修復された後の配列から、起こったプロセスをおおよそ想像することができる。例えば、大きな欠損が入ったり、逆に他の配列が飛び込んだりするためには、特定の修復のされ方が必要になる。

この研究により10種類以上の修復のされ方を配列から分別することができ、この修復のされ方と、それに関わる遺伝子を対応させることで、例えば挿入修復には3種類存在し、それぞれ別の酵素により調節されていることがわかる。また、従来この過程に関わるとされてきたNHE結合に関わる分子群は決して同じようにそれぞれの過程に働くのではなく、過程によって促進的に、あるいは抑制的に働くことがわかる。このようなマップを、他の修復状態についても全て特定することができる。

さらには、一つ一つの過程に関わる酵素について、関わりの強さとともに完全にリストすることができ、このリストを元により詳しい解析が可能になる。

また、細胞周期や発ガン過程などでのDBS修復のインパクトについても、ノックアウトした細胞の細胞周期や遺伝子発現を調べることで、解明することができる。DBS修復の生体機能への重要性を考えると、このリストは素晴らしい。

この研究ではCas9を主にDBSに使っているが、Cas12のような、切り方の異なる酵素を使うことで、同じ系で他の修復に関わるマップも作成できる。

最後に、遺伝子編集の微細な調整に必要な条件についても、例えば修復時に遺伝子配列を挿入させる条件で、成功率とそれに関わる遺伝子リストを作成し、例えば点突然変異誘導のための正確な条件を特定することができる。

以上、様々な可能性を追求した論文なので、データが膨大で読みにくいとは思うが、誰もが利用できるエンサイクロペディアが完成したという印象の、素晴らしい論文だった。是非読んで欲しい。

カテゴリ:論文ウォッチ

11月1日 p21は休止細胞の除去にも関わる:よくできた話(10月29日号 Science 掲載論文)

2021年11月1日
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これまで老化した細胞を積極的に除去することで組織の若返りを図るsenolysisに関する論文は、何回も紹介してきた。中でも東大医科研の中西さんたちが発見した、glutaminaseを阻害すると細胞が酸性に傾いてsenolysisが起こるという発見は、特記すべき発見だろう(https://aasj.jp/news/watch/14787)。

しかしこれらの研究は、老化した細胞でも自然にはなかなか除去されないことを示している。ところが今日紹介するメイヨークリニックからの論文は、細胞周期を止めて老化を誘導することで知られたp21が、なんと細胞周期を止めるだけでなく、老化した細胞の周りにマクロファージを集めて免疫的に除去する作用もあることを示した研究で、どうして今まで気づかなかったのかと思うぐらい良くできた話だ。タイトルは「p21 produces a bioactive secretome that places stressed cells under immunosurveillance(p21はストレスを受けた細胞を免疫サーべーランスに回すための分泌分子を誘導する)」で、10月29日号Scienceに掲載された。

このグループは、細胞老化で活性化されるスーパーエンハンサーによる転写調節を研究する過程で、p21がRb1のリン酸化を介して細胞周期抑制に関わる分子だけでなく、免疫系や炎症に関わる転写因子、増殖因子、ケモカインの誘導に関わることを発見する。そして、p21を肝臓で誘導できるようにしたトランスジェニックマウスでは、p21発現場所にマクロファージが遊走することも確かめている。

この現象には、マクロファージの遊走を誘導するケモカインCXCL14が重要で、CXCL14に対する抗体を投与することで、p21へのマクロファージの遊走を止めることができる。ただp21/Rb1はSTATやSMADと言った炎症や免疫の遺伝子発現調節に関わる分子の発現も誘導するため、、マクロファージの遊走を引きつけるだけでなく、p21発現細胞が免疫センサーのテストを受けるよう周りの免疫環境をリプログラムしている。そして、時間が経つとp21誘導が維持される細胞は細胞死に陥る。ただ、この間p21の発現が落ちると免疫センサーから免れることができる。

以上の結果から、p21が発現すると、これまで知られていたようにRb1のリン酸化を通して、転写プログラムが変わり、細胞増殖を止め老化が誘導されるだけでなく、周囲環境をリプログラムして、最初にマクロファージ、次いで免疫細胞をリクルートするための因子を誘導して、老化細胞を除去していることになる。

P21はガン遺伝子Rasの強い活性によるストレスで発現して、発ガンを自然に抑えようとする分子であることも知られている。そこで、最後の仕上げに、マウス肝臓に活性化Rasが発現してp21が誘導される状況で、同じように周囲環境がリプログラムされるか調べ、K-ras活性化された肝細胞がp21を発現すると、周りにマクロファージが惹きつけられること、そしてこの遊走はp21がノックアウトされたマウスでは見られないことを示している。

少し複雑なので詳細は省くが、さらにこった実験を計画して、p21発現時間と、免疫サーべーランスのタイムスケジュールについて検討し、最終的に次のような発ガン時のp21機能についてのシナリオを提案している。

  1. 発ガン遺伝子によるストレスやp53によりp21が誘導され、細胞増殖を抑える。
  2. 同時にCXCL14などのマクロファージ遊走因子を発現し、マクロファージを周りにリクルートする。
  3. STAT,SMAD発現を介する免疫系分子の発現により、マクロファージを活性化する。
  4. その結果、免疫系の細胞がp21発現細胞局所にリクルートされることで、老化細胞を除去する。

すなわち、p21による細胞除去機構が、発ガン初期の細胞を除去する最初の前線として機能しているという話だ。また、紹介しなかったが、免疫サーベーランス誘導機能はp21特異的で、p16など他の細胞周期抑制因子にはこの作用が全くない。それぞれの細胞周期抑制因子がどう使い分けられているのか、今後の面白い話になるだろう。逆に、p21にこのような炎症誘導作用があるとすると、老化に伴う炎症inflammageingにも関わるのかもしれない。

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10月31日 ネズミの脳を少しでも人間に近づける実験(10月27日 Nature オンライン掲載論文)

2021年10月31日
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遺伝子の系統樹で見ると、ネズミは犬や猫などより遙かに人間やサルに近い。すなわち我々と同じ仲間と言っていい。最初からこの点を考えてマウスが実験動物として選ばれたとは思わないが、幸いにもマウスを用いた動物実験系が最も整っていることは、動物から人間への進化を、実験的に検証するためにも素晴らしい選択だったと思う。

今日紹介するニューヨーク・コロンビア大学からの論文は、人類特異的な遺伝子変化をマウス脳に導入したときに起こる変化を調べた研究で、人間脳の特性理解のための研究方向を代表している論文の一つと言える。タイトルは「A human-specific modifier of cortical connectivity and circuit function(皮質神経結合性を変化させ回路機能を変える人間特異的分子)」だ。

進化では小さな遺伝子変化の積み重ねも起こるが、新しい性質が生まれやすいのは、既存の遺伝子の数が増える遺伝子重複が起こったときではないかと考えられている。従って、脳進化を実験的に調べたいと考える研究者は、まず人類特異的に見られる重複遺伝子を特定し、新しく生まれた遺伝子を動物に導入したとき生まれる新しい機能を探している。

このHPでも、人類特異的に遺伝子重複で生まれたARHGAP11B遺伝子をマウスに導入すると、シワのないマウス脳にシワができるという論文を紹介した(https://aasj.jp/news/watch/3151)。

今日紹介する研究が注目しているのは、SRGAP2Cと呼ばれるGAP遺伝子で、これまでの研究では、脳に発現させると、重複の親遺伝子に当たるSRGAP2A遺伝子の機能を抑えることが知られていた。さらにマウス錐体神経にSRGAP2Cを導入する実験もすでに行われており、錐体神経へのシナプス結合が増加することが明らかにされていた。実際、マウスと人間の皮質錐体神経を比べると、人間の方がシナプス結合数は多い。

ただ、全ての錐体神経が人間特異的遺伝子を発現してしまうと、それぞれの神経に起こった変化を捉えにくい。そこでこの研究では、発生時期に少ない錐体細胞だけでSRGAP2C遺伝子がオンになる工夫を凝らした実験系を作成し、成長してからSRGAP2C発現神経に見られる変化を詳細に調べることに成功した。

面白い結果だ。まず、感覚野の錐体神経にSRGAP2Cを発現させても、この神経とシナプス結合する領域は全く変化しないが、結合する神経数は増加し、またシナプス形成を反映する場所でスパインの数も増加する。もちろん長距離神経結合も増加するが、特に目立つのが局所介在神経とのシナプス結合の増加で、解剖学的にも微細な調整が可能な構造ができ上がっている。

この可能性を、ヒゲを刺激したとき感覚野のSRGAP2C発現細胞で見られる興奮を、カルシウムイメージングを用いて調べている。結果は感覚刺激に対して、反応が高まるだけでなく、刺激時と非刺激時の差が明瞭になり、また刺激への反応時間も高まる。すなわち、感覚の特異性と感受性が高まっていることがわかる。

この神経細胞レベルの変化が、行動レベルにどう反映しているかを調べる目的で、マウスのヒゲにザラザラとした表面で刺激を加えたとき、この繊細なテクスチャーの差を感させる課題を設定し、SRGAP2Cを発現したマウスと通常マウスを比べている。この課題は簡単ではなく、何度も繰り返しながら学習するのだが、SRGAP2Cを発現したマウスは、学習が早いことが示された。

結果は以上で、人類特異的遺伝子SRGAP2Cを発現することで、微細な感覚を身につけることができたというのが結論だ。さて、今後どこまでマウスの脳機能を人間に近づけられるのか、ますます楽しみになってきた。

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10月30日 グリコーゲンの相分離が発ガンを促す(10月28日号 Cell 掲載論文)

2021年10月30日
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昨日紹介したNRLP6の相分離は、これまでの研究から考えてさもありなんと思ったが、今日紹介する中国・厦門大学からの論文は、グリコーゲンが蓄積して相分離を起こし、ガン増殖を促進するという研究で10月28日号のCellに掲載された。タイトルは「Glycogen accumulation and phase separation drives liver tumor initiation(グリコーゲンの蓄積と相分離は肝臓ガンの発ガンを誘導する)」だ。

このグループは相分離と言うより、肝臓ガンの発生とグリコーゲンの関係を研究していたのだと思う。グリコーゲンはブドウ糖を蓄積するために我々が持っている重要な手段で、解糖系で使わずに余ったグルコースをグリコーゲンに変換し、肝臓や筋肉に蓄積する。グルコースの供給が絶たれると、この経路からG6Pや最終的にはグルコースまで合成して、エネルギーバランスを保つ。

ガンと糖代謝は現在重要なテーマになっており、研究方向は納得できる。この研究ではまずヒトの初期肝臓ガンを調べ、グリコーゲンが腫瘍と一致して蓄積していることを明らかにしている。

次に、より詳しい分子解析を進めるため、マウスの発ガンを用いてグリコーゲン蓄積の影響を調べている。まず、発ガン剤投与によりグリコーゲンを分解してグルコースへと変化させるG6pc酵素の低下が起こり、次にグリコーゲンの蓄積が始まり、その結果肝臓ガンのドライバーとして知られているHippo/Yapシグナル系の変化(詳細は省くが、Hippoシグナル低下、Yap/TAZ転写活性の恒常的上昇)が見られ、これが発ガンを原因になっていることを突き止める。

では、なぜグリコーゲンの蓄積によりHippoシグナルが低下するのかを調べる過程で、肝臓内でグリコーゲンが蓄積すると、相分離を起こして相分離液滴が形成され、なんとそこにHippo(MST1/MST2)が隔離されてしまう結果、Hippoにより抑えられていたYapの活性が高いまま持続することが明らかになった。

次の問題は、なぜMst1/Mst2がグリコーゲン相分離体に隔離されるかだが、Laforinと呼ばれるグリコーゲン脱リン酸化酵素が、相分離したグリコーゲンとHippoをつないでいることを発見する。実際、Laforinを肝臓細胞でノックアウトすると、Hippoはグリコーゲン相分離体に取り込まれず、Yap/Tazの活性を抑えることができる。

後は、G6pcを肝臓からノックアウトして、グリコーゲンをたまりやすくして、肝臓ガンの発ガン過程が高まることなども示しているが、割愛する。

相分離研究という点では、「グリコーゲンよおまえもか」で終わるが、LaforinからYap/Taz活性化までのプロセス解析は、なかなかのグランドストーリーだと感心する。この結果、新しいガン抑制経路が開発できるのではと期待する。

カテゴリ:論文ウォッチ

10月29日 自然免疫と相分離(11月11日号 Cell 掲載論文)

2021年10月29日
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これまで何度も相分離の論文を紹介し、さらにYoutubeでの解説も行ってきたが、無数の分子の漂う細胞内で、特定の分子を集合させることで、特異的で効率の良い信号を発生できる素晴らしい物理法則だ。これまでの研究を見ていると、特異的高効率のタンパク質反応が起こる状況では、一度は相分離の可能性を疑った方がいいとすら言える。

そんな例が自然免疫で、様々な刺激に反応してNLRP分子がインフラマゾームと呼ばれる大きなコンプレックスがシグナル発生の中心になる。実際、これまで免疫シグナルに関わるいくつかの分子が相分離を起こすことが示されてきたが、インフラマゾームの主体NLRPについてはその証拠は見つかっていなかった。

今日紹介する中国科学技術大学とハーバード大学からの共同論文はNLRPの一つNLRP6が二重鎖RNAによる相分離により顆粒シグナル伝達の核を形成することを示した研究で11月11日号のCellに掲載された。タイトルは「Phase separation drives RNA virus-induced activation of the NLRP6 inflammasome(相分離がRNA ウイルスによるNLRP6インフラマゾームの活性化に関わる)」だ。

NLRP6は直接ウイルスなどのRNAと結合して活性化されることが知られているが、この研究ではNLRP6に結合するRNAの性状について詳しく検討し、NLRP6単独で二重鎖RNA(dRNA)に結合し、RNAの長さが長いほど結合活性が高いことを確認している。

その上で、蛍光標識したNLRP6にdRNAを加える実験から、NLRPがLRRドメインを介して相分離し、さらに相分離の形成にNLRP内に存在する天然変性タンパク質領域(IDR)が必須であることを明らかにする。

試験管内で相分離を確認した後は、細胞内や生体での機能の検討へ進んでいる。期待通り、蛍光標識したNLRP6を発現する細胞株に、二重鎖RNAを導入すると相分離した小さな液滴が形成される。そして、この形成にはIDRが必須であることも示している。

生体内での機能に関しては、相分離がモニターできるマウスを作成し、マウスのコロナウイルスを感染させたときにRNAとNLRP6が凝縮した液滴が形成され、またこの液滴が形成できない変異型NLRP6では、インフラマゾームに依存したウイルス抵抗性が強く抑制されることを示している。また、元々NLRP6の発現が高い小腸上皮でも、ロタウイルス感染によりNLRP6の相分離が誘導され、抵抗性に関わること、また時によって相分離体を通してNLRP9も巻き込み、高いウイルス検知を実現することまで示している。

ここまでは、相分離の新しい例が付け加わっただけだが、最後の実験は面白い。インフラマゾームは複合体を形成した後、様々な分子と反応して顆粒のシグナルを伝達する。当然これらの分子は、NLRP6の相分離体の中に引き込まれて活性化されると考えられる。

この研究では、NLRP6の下流シグナル分子としてASCとDHX15を取り上げている。ASCはカスパーゼ活性化を介してIL1やIL18誘導に関わり、DHX15はインターフェロン誘導に関わることが知られている。この研究では、それぞれの分子がNLRP6相分離体内に濃縮されているだけでなく、相互作用する分子により、相分離体の物理性質が変化することを示している。特に、ASCと相互作用することで、相分離体の流動性が低下し、より硬直した、あるいは安定な構造が形成されることを示し、NLRP6相分離体が多様な状態をとることで、それぞれのシグナルのファインチューニングが行われていることを示している。

相分離の広がりを感じさせる面白い論文だが、明日も同じ号のCellに掲載された、また新しい相分離の側面をのぞける論文を紹介することにする。

カテゴリ:論文ウォッチ