9月2日 Responsive neurostimulation systemによるてんかん治療の原理(8月25日号 Science Translational Medicine 掲載論文)
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9月2日 Responsive neurostimulation systemによるてんかん治療の原理(8月25日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2021年9月2日
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電極を脳内に留置して、刺激により様々な異常を補正するneurostimulation療法は、心臓のペースメーカー療法並みに普及して、根本治療ではないが、対症療法として定着している。特にパーキンソン病など異常運動や疼痛抑制など、その範囲は広い。ただ、てんかん時の同調した神経興奮を抑えるためにneurostimulationが開発されているのは全く知らなかった。

今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文は、現在行われている局所の脳波異常を記録しながら発作を探知し、刺激でそれを抑えるresponsive neurostimulation system (RNS)が効果を発揮するメカニズムを、同じデバイスで記録した興奮を詳しく分析することで明らかにし、より効果的な刺激方法を開発しようとした研究で8月25日号Science Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Long-term brain network reorganization predicts responsive neurostimulation outcomes for focal epilepsy (長期にわたる脳神経ネットワークの再構築が焦点性てんかんのNRS治療効果を予測する)」だ。

NRSは深部電極とは異なり、神経細胞に電極を挿入するのではなく、脳内ではあるが脳の外に刺激と記録をかねたデバイスを設置する。このため、ペースメーカーと同じように長期間の使用が可能だ。すなわち、てんかん発症にいたる脳波を検知して、一定の領域を刺激して、それぞれの神経に独自性を与えて興奮させることで、同調を止めるという原理と考えられてきた。

この研究では、この治療に反応する人と、反応しない人がはっきり分かれてしまう点に着目し、効果がある場合は、てんかんの焦点を形成する細胞と結合する神経ネットワークの結合性が低下しているのではないかと考えた。

これを証明するため、長期間設置したNRSデバイスで記録できる神経興奮を、領域間の同調性、すなわち結合性という視点で分析し直し、RNS治療を繰り返すうちに、てんかん巣内の低波長の神経結合性が低下する一方、外部との体は腸の結合性が上昇すること、逆に治療が成功する人ではてんかん巣内の高い波長の結合性が増強するようプログラムされることを明らかにした。

すなわち、ペースメーカーのように、人工シグナルだけでてんかんを制御するのではなく、時間をかけててんかん巣内で過興奮をとどめるようにネットワークがプログラムされ直すことが、治療効果に作用することを結論している。

そして、このリプログラムされる程度が、異常興奮を察知しておこるNRSでの刺激数に依存しており、今後さらにプログラムし直すことを目的とした刺激法や波長を工夫することで、この治療が効果を示さない人たちにも利用できるようになるのでは議論している。

この論文は、全く知らないことを学んだというだけでなく、直接電極を挿入しなくとも、領域記録と刺激をリンクさせた方法で、神経ネットワークを刺激依存的にプログラムし直せる可能性を示した点で期待できる。この領域のAI依存性はすさまじい勢いで進んでいることも実感した。

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9月1日 動脈硬化に関わる新しい分子の特定(8月25日 Nature オンライン掲載論文)

2021年9月1日
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動脈硬化を慢性炎症という枠組みで捉えたのはPeter Libbyで、ここから生活習慣病や老化を炎症として捉えるトレンドがスタートしたと言える。実際プラーク形成の細胞動態を見ると、炎症以外の何物でもない。その後、ゲノム研究を中心に多くの動脈硬化分子が発見されたが、多くは自然炎症に関わる分子だった。中にはCD40リガンドやAPRILのように免疫系調節に関わるTNFファミリーに属する分子が、血管にも作用して動脈硬化を悪化させることも知られている。すなわち、動脈硬化が様々な炎症分子の作用の上にできていることがよくわかるが、それぞれが原因か結果かは、なかなかわからない。

今日紹介するウィーン医科大学からの論文は、動脈硬化で上昇していることが知られているTNFSF13(=APRIL)の、動脈硬化への関わりを調べた論文で、動脈硬化が一筋縄では理解できない複雑な過程であることがよくわかる研究だった。タイトルは「APRIL limits atherosclerosis by binding to heparan sulfate proteoglycans(APRILはヘパラン硫酸プロテオグリカンに結合して動脈硬化を抑える)」で、8月25日Nature に掲載された。

APRILが人間の動脈硬化で上昇していることはわかっているので、動脈硬化巣でその受容体の発現を特定し、それぞれの遺伝子をノックアウトした動物モデルを組み合わせればメカニズムは特定できると期待して、研究が始まったのではないだろうか。

まずAPRIL遺伝子をノックアウトしたマウスを、悪玉コレステロール(すなわち自然炎症の誘導因子)として知られるLDLが高レベルで維持されるLDL受容体ノックアウトマウスとかけあわせると、LDLで誘導される動脈硬化が悪化する。一方で、元々APRILの機能が知られていたB細胞の方は、APRIL KOではほとんど影響受けないので、この結果はAPRILの血管への直接作用を反映していると考えられる。

そこで、APRIL KOの代わりに、APRIL受容体BCMA KOマウスで同じ実験を行うと、動脈硬化には影響されないので、これまで知られていた受容体シグナルとは全く異なる経路でAPRILが作用していることになる。

この新しいメカニズムを探すため、まず血管内皮細胞が発現するAPRIL結合分子を探索し、最終的にヘパラン硫酸結合プロテオグリカン(HSPG)であることを突き止めている。従来の研究でHSPGはLDLの血管基底膜への滞留を誘導して動脈硬化を悪化させることがわかっている。すなわちAPRILはHSPGと結合してLDLの血管基底膜への滞留を抑える可能性が示唆され、マウス大動脈でのLDLの滞留をAPRILが押さえることを示している。

このように、メカニズムが明らかになると、治療標的になり得るか、またAPRILを臨床診断に用いられるかを調べることが重要になる。

まず治療の方だが、プロテオグリカンとAPRILの結合を高める抗体を開発し、これを投与することでAPOE欠損マウスの動脈硬化を押さえることができることを示している。ただ、抗体以外には現在のところ手段はない。

一方診断の方だが、これは簡単でなかったようだ。すなわち、ヒト血中APRILはB 細胞と反応できるタイプのcanonical APRILと反応できないnoncanonical APRILが存在しており、通常noncanonicalタイプ(ncType)が多いことがわかった。最後にncTypeと動脈硬化の関わりを調べると、症状のないグループでは低いほど心臓病になる確率は高い。すなわち、APRILが動脈硬化を押さえていることがわかるが、いったん動脈硬化症状が出ると逆にncTypeが高い人ほど心筋梗塞が増えるという、複雑な結果になっている。

結果は以上で、メカニズムはよくわかるが、診断や治療にそのまま使える結果かというと、問題が多いと思う。動脈硬化はやはり一筋縄ではいかない病気で、当分はスタチンと食事、運動以外の治療は望めないようだ。

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8月31日 腹膜透析の利便性をさらに高める取り組み(8月25日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2021年8月31日
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現在腎不全に対する治療法は、人工透析と腹膜灌流があるが、腹膜灌流の方は様々なメリットがあるにもかかわらず、普及していない。我が国の腹膜灌流比率1%は例外としても、欧米でも10−20%の普及率にとどまっている。この理由の一つは、自宅での清潔作業が必要であるなど運用上の問題もあるが、現在使われているicodextrin入りの灌流液が、生物学的に全く不活性というわけではなく、どうしても腹膜を刺激して、血管新生、腹膜細胞障害、線維化などを誘導して、灌流効果が低下してしまうことも問題になっている。

今日紹介するウィーン大学からの論文は灌流液による腹膜の変化のメカニズムを探り、この作用を塩化リチウムで抑えることが可能であることを示した研究で、8月25日号のScience Translational Medicine に掲載された。タイトルは「Lithium preserves peritoneal membrane integrity by suppressing mesothelial cell αB-crystallin (リチウムは中皮細胞のαBクリスタリンを抑制して腹膜の機能を保全する)」だ。

まず、世界中で安全に使われている灌流液に満足せず、さらに完全なものにしようと努力しているこのグループに脱帽したい。このグループは、灌流液に加えることで、灌流液による影響を軽減させる分子を探索する中で、細胞保護作用と抗炎症効果が知られている塩化リチウムに着目し、この研究を始めている。

研究ではヒトの腹腔由来中皮細胞を培養し、灌流液に暴露したときに見られる変化を、細胞学的遺伝子発現解析や発現タンパク質解析で特定するとともに、この変化を塩化リチウムにより抑制できないか調べている。

結果は期待通りで、灌流液にさらすことで中皮細胞の細胞死や形態変化が誘導されるが、これを塩化リチウムが見事に抑制することができる。そして、遺伝子発現やタンパク質発現の網羅的研究から、この変化を誘導するマスター遺伝子として、αBクリスタリンを特定する。

事実、灌流液にさらされた中皮細胞ではαBクリスタリンの発現が上昇し、塩化リチウムはこの上昇を抑える。そして、αBクリスタリンを過剰発現した細胞では、灌流液による細胞死や形態変化の誘導を塩化リチウムが抑制できなくなる。

次に、このメカニズムを解析し、灌流液がαBクリスタリンのリン酸化を介して核内移行を誘導し、TGFβにより活性化されるSMAD4のユビキチン化を抑制することで、TGFβシグナルが増強し、中皮細胞から間質細胞への転換が誘導されること、そして塩化リチウムはこのαBクリスタリンリン酸化を抑え、中皮細胞/間質細胞転換を抑えることを明らかにしている。

最後に、マウスの腹膜灌流モデルで誘導される、腹膜肥厚、線維化、血管新生などを塩化リチウムが抑制できることを確認し、臨床へのトランスレーションが可能であることを示している。

以上が結果で、少なくとも現在の腹膜灌流液は刺激性があり改善の余地があること、またこの問題を灌流液に塩化リチウムを加えることでかなり改善できることを示している。ただ、臨床へのトランスレーションに当たって今後確認が必要な点は、塩化リチウムの副作用の問題だ。塩化リチウムは躁病に対する薬剤としてすでに利用されており、命に関わる有害事象が発生する可能性は少ないが、それでも腎毒性などが指摘されており、灌流液に加えて使う場合も副作用への注意が必要になる。ただ、著者らは灌流液に有効濃度の塩化リチウムを加えても、血中の塩化リチウム上昇が少ないことから、副作用もかなり局所で抑えられると議論しているが、今後の研究が必要だろう。

いずれにせよ、αBクリスタリンを、灌流液の腹膜障害性の鍵として特定できたことは、今後より安全な腹膜灌流液の開発に大きく寄与できると期待する。

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8月30日 変異株や新型コロナウイルスに備えるワクチンは可能か(8月27日号 Science 掲載論文)

2021年8月30日
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先週、梅北2期、参加型ヘルスケアプロジェクトの活動として、WHO武漢調査にも参加された国立感染研究所・獣医科学部部長の前田健先生をお招きしzoom講演をしていただいた。熱い議論が続き、1時間を優に超してしまったが、その様子は近々このHPでも公開するので楽しみにしてほしい。今後多くの新しいコロナウイルスが、動物の中で人間に感染する機会を待っていることがよくわかる講演だった。

もしコロナウイルス、特にsarbecovirusにより、新しいパンデミックを覚悟する必要があるとすると、一つは広い範囲のsarbecovirusに効果がある治療薬とワクチンの開発が必要になる。

例えばすでに米国政府が170万回分を12億ドルで調達を決めたメルク社molnupiravirは、以前紹介した、経口投与可能、ウイルスRNA複製を中断しないで遺伝子変異を指数関数的に上昇させるという特徴で、レムデシビルを凌駕する可能性があり、しかも軽症者に投与可能な治療薬だが(https://aasj.jp/news/watch/17631)おそらく他のSarbecovirusにも効果があるだろう。

他にも現在治験が進むCoV2ウイルスのメインプロテアーゼを標的にしたファイザーや塩野義の阻害剤も、SARS関連コロナウイルス(sarbecovirus)全体に効果を示すのではないだろうか。

またEUが緊急承認したGSK社ウイルス中和モノクローナル抗体sotrovimabは、元々SARS患者さんから分離された抗体で、多くのsarbecovirusに効果を示すことから、新しいsarbecovirusパンデミックの備えになる。

このような広いスペクトラムのsarbecovirusの感染を抑える抗体が存在する事実は、同じような抗体を誘導できるワクチンの開発が可能であることを示している。またこれとは別に、スパイクの一部がup formをとるときに初めて分子表面に現れる領域に対するモノクローナル抗体が、ほとんどのsarbecovirusに効果があることを示した研究は、この領域特異的に抗体を誘導するワクチンを設計できれば、多くのコロナ感染に備えることが可能であることを示している(https://aasj.jp/news/watch/17067)。

よく効く薬と抗体薬があれば、ワクチンは必要ないのではという考えもあるが、パンデミック制御に必要なコストはワクチンの方が驚くほど少ない。これは国産が可能になっても同じで、広い範囲のsarvecovirusに対して抵抗力をつけるワクチンが設計できればそれに越したことはない。

ただ、お手本になる抗体とそれが認識しているスパイク領域の構造がわかっても、それだけを誘導するワクチンの設計は、簡単ではなく、現在は様々な可能性を試す試行錯誤の段階にある。そのための一つのアイデアは、様々なウイルスのreceptor binding domain(RBD)を同時に免役するワクチンの開発で、例えば今年の2月、ウイルス様粒子上に数種類のRBDを発現させるワクチンが開発され、様々なコロナウイルスに対する免疫が誘導できることを示す論文がカルテックから発表された。ただ、構造が複雑なことを考えると、コストなどの面で実用化は遠い気がした。

これに対し、今日紹介するノースカロライナ大学からの論文は、いくつかのウイルスのスパイク分子を混合して免役するという発想から始まってはいるが、mRNAとより単純なモダリティーを持ちいている点で実現性は高く、これにより多くのsarbecovirus感染を抑えることができることを示した研究で8月27日号Scienceに掲載されている。

この研究では、RBDだけを抗原にしないで、スパイク全体を抗原に用いるが、それぞれの領域を様々なウイルスから持ってきたキメラ遺伝子を合成し、これをmRNAワクチンとして免疫に用いている。大きな分子を用いることで、細胞性免疫ペプチド抗原も十分確保するという点では、スパイク全体を使う方がRBDだけに絞るより実践的だ。様々なキメラ遺伝子を用意する必要はあるが、mRNAワクチンをモダリティーとして利用する場合は、十分実現性はあると思う。

実際には、N末領域(NTD)/RBD/S2領域の組み合わせを、コウモリウイルス/SARS/CoV2、SARS/Cov2/SARS、SARS/Cov2/Cov2、そしてCoV2/カメウイルス/CoV2の4種類キメラ遺伝子を用意している。

目的はノースカロライナ大学と同じで、4種類全部を用いれば、多くのウイルスに対応できると考えた。実際、4種類全部、あるいは最初に2種類、後から他の2種類でブーストと言った方法で免役すると、たしかに様々なウイルスに対応できるワクチンとして利用できることがわかった。また、様々なCoV2変異株にも効果があり、マウスの肺炎を予防する効果も高い。以前紹介したシンガポール在住のSARS感染者にCoV2ワクチンを接種することで、多くのウイルスをカバーする抗体が誘導できた結果(https://aasj.jp/news/watch/17664)を考えると、ワクチン戦略としても十分あり得るかと納得できる。

この論文の明確な結論としてはここまでで、4種類を同時注射でもワクチンとして十分実現性はある。これとは別に、個人的に最も面白いと思ったのは、数種類を同時注射しなくても、カメ/CoV2/CoV2型ワクチンを単独で用いても、CoV2に対しての抗体誘導能は劣るが、調べた4種類全てのsarbecovirusに抗体が誘導されていた点だ。

これは個人の想像に過ぎないが、ACE2結合のための最も肝心のRBDがカメに置き換わったことで、up/downフォームの頻度が変化したりして、以前紹介した領域(https://aasj.jp/news/watch/17067)に対する抗体を誘導できた可能性がある。全てポリクローナル抗体であること、そして抗原の構造解析が全くできていない点で、まだまだ研究が必要だが、さらに研究を重ねれば、sarbecovirus全般に対応できる、一種類のワクチンも開発できそうな印象だ。

このように、ワクチン競争はもはや新しいパンデミックを予想して、一つのウイルスだけでなく、その種全体をカバーできるワクチン開発にシフトしていることは確かだ。これはsarbecovirusだけでない。論文を見ていると最近だけでも、インフルエンザ、αウイルス、HIVなどなど、全てで開発競争が熾烈になっている。その意味で、今回のコロナウイルスパンデミックは、ワクチン研究にとって、大きなブースター効果があったと思う。

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8月29日 子宮内膜症に関わる全く新しい標的分子の特定(8月25日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2021年8月29日
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子宮内膜症は、子宮と名前がついているが、実際には子宮以外の卵巣や卵管(他にも様々な場所)に内膜様の組織ができてしまい、それが月経周期に併せて増殖・消退を繰り返す病気で、内膜症の場所を特定するのが難しい場合、診断が遅れる。治療としては、内膜の増殖を止めるためのホルモン治療が中心だが、内膜自体を除去する手術も行われる。

今日紹介するオックスフォード大学からの論文は、症状の重い子宮内膜症患者さんの遺伝学的解析から neuropeptide S(NPS)とその受容体neuropeptide S receptor 1(NPSR1)が内膜症の誘導因子であることを突き止め、治療可能性を示唆した論文で8月25日号Science Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Neuropeptide S receptor 1 is a nonhormonal treatment target in endometriosis (Neuropeptide S receptor 1は子宮内膜症のホルモン以外の標的になる)」だ。

すでにゲノム解析から、頻度は少ないが子宮内膜症と相関する遺伝子座が特定されており、この研究では染色体7番にある遺伝子座の中から、最終的にNPSR1遺伝子のアミノ酸の変化を伴う突然変異が子宮内膜症に関わっていることを特定している。

ただ、これは頻度の低いレアバリアントなので、次にNPSR1遺伝子がより広い範囲の子宮内膜症に関わっている可能性を、SNPデータベース探索により調べ、この領域にあるいくつかのSNPが子宮内膜症に関係すること、またそのうちのいくつかがNPSR1発現に関わっていることを確認している。

これで十分な気もするが、驚くことにこの研究ではアカゲザルの集団の子宮内膜症と遺伝解析を組み合わせた研究も行い、NPSR1の変異が子宮内膜症に関わることを明らかにしている。おそらくオックスフォードでは人間のデータをバックアップするためのサルの集団が維持されていると思われるが、用意周到さに驚く。

後は、NPSR1が子宮内膜症にどう関わるか、メカニズム解析になるが、これは難航したようで、正常と内膜症組織でNPSR1の発現などはほとんど差がない。様々な探索の結果、CyTOFと呼ばれる細胞内分子まで単一細胞レベルで調べられる方法で、ようやく子宮内膜症患者さんの腹腔液の中のマクロファージでNPSR1の発現が上昇していることを発見する。

メカニズムの探索はここまでで、あとはNPSR1阻害分子が存在するので、マウス腹腔に炎症を誘導したとき、この阻害剤が腹腔内の炎症を押さえて、痛みを取るかどうか、マウスモデルで調べている。結果は上々で、マウス子宮内膜症モデルで、痛みを示す行動を強く押さえるとともに、炎症性マクロファージをある程度抑制することを示している。

結果は以上で、NPSR1が脳で機能していることを考えると、脳には到達しないお薬が必要になるが、治療の難しい子宮内膜症症状改善に使えるのではと期待できる。

しかしこの論文で一番驚いたのは、サルの集団でゲノム解析が行われている点で、さすがサル学の進む日本でも、ここまで踏み込んだ研究はないように思う。

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8月28日 ウォレーシアで見つかった人類(8月25日 Nature オンライン掲載論文)

2021年8月28日
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中東を通ってホモサピエンスがユーラシアに進出したのは4−5万年前だが、アラビア、インド、インドネシア、オセアニアにかけての南ルートは、ネアンデルタール人のような抑止力がなかったせいか、ずっと早くにホモサピエンスが進出し、ユーラシアとオセアニアの境、ウォレス線を渡ったのは6−7万年前と遙かに早い。この人たちの痕跡はパプアニューギニア人などに残っており、また絵や石器などが残されていても、高温多湿な気候のせいで、ゲノムが得られる遺跡が見つかっていなかった。

今日紹介するドイツ、イエナ・マックスプランク研究所を中心とする国際チームの論文は、ウォレス線を越した側のスラワジ島、Leang Panningeの発掘現場から発見された7千年前の女性の人骨からDNA採取に成功し、おそらく南ルートを通ってきたホモサピエンスの子孫であることを証明した研究で、8月25日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「Genome of a middle Holocene hunter-gatherer from Wallacea(ウォレシアから出土した中期完新世狩猟採取民のゲノム)」だ。

ウオレス線の東側は、謎のフローレンス人が出土したり、最近では1万年前ぐらいまでデニソーワ人が生存していた証拠が出るなど、人類史研究のホットスポットになっているが、ゲノム考古学をリードしてきたドイツチームがすでに活動して成果を上げ始めているのには感心した。

いずれにせよ、このような発掘は考古学とゲノム科学の密接な連携が必要で、おそらく限られた領域で発見される特徴のある石器から、ユニークな文化(Toalean文化)を代表しており、これまでとは異なる系統のホモサピエンスが発見できるのではと期待して、発掘を進めてきたのだと思う。

そしてついに、17歳前後の女性の頭部の骨を発見できた。骨の形状からは、メラネシア人に類似しており、南ルートの末裔ではないかと期待が膨らんだはずだ。

やはり高温多湿地帯のため、7千年前の骨でも傷みが早く、到底全ゲノムというわけにはいかないが、大体30万SNP部位を解読でき、これとミトコンドリアゲノムの配列を、これまで知られているゲノムと比較している。

その結果、

  1. ウオレス線西側の民族と、ウオレス線東側の民族のちょうど中間に、今回のゲノムが位置しており、オンゲ族や天元人とパプア人が半々に混ざった構成をとっていることがわかった。
  2. デニソーワ人ゲノムは、パプア人と比べると低いが、一般より高い割合(2.2%)で存在しており、パプア人とLeang Panninge人の共通祖先の段階で、交雑があったと考えられる。
  3. 以上の結果から系統関係を構築すると、Leang Panninge人はパプア人と同じ南ルートで広がったホモサピエンスと、天元人/斎河人のゲノムを半々に持つ民族が形成され、その後あまり交雑なく小さな領域でToalean分化を維持した。

以上の結果は、パプア人ルートと、天元人のような南アジアの民族との交流がかなり昔からあったことを示している。いずれにせよ、この地域の古代ゲノム研究は始まったばかりで、期待される。

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8月27日 言葉を聞くときの神経活動のマッピング(9月2日号 Cell 掲載論文)

2021年8月27日
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昨日はコウモリの赤ちゃんの言葉の話だったが、今日は大きくジャンプして、人間の成人の言語処理に関する論文を紹介する。

言語に関わる脳領域というと、運動失語に関わるブロカ領域や感音性失語に関わるウェルニッケ領域をはじめとする、高次情報処理に関わるプロセスを思い浮かべるが、それより前に、音を感知して、言葉か単純な音かの判断を、一次聴覚領域である程度済まさないと、刻々入ってくる複雑な言語情報を処理することは困難だ。しかし、時間解像度の高い脳波計では正確に活動計測が難しい領域であることから、音を聞いた直後の言語処理ネットワークについては以外と研究は遅れている。

今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文は、脳の大きな溝、シルビウス溝下部の一次聴覚野全体に、てんかん診断のための留置クラスター電極を設置した患者さんを用いて、言葉を聞いたときの各領域の反応を計測し、それぞれの神経の特異性をマッピングした研究で、9月2日号Cellに掲載された。タイトルは「Parallel and distributed encoding of speech across human auditory cortex (人間の一次聴覚野の言語の平行分散型処理)」だ。

この研究は、9人のボランティアのシルビウス溝下部側頭葉の一次聴覚野(6領域に分けているが名称などは割愛する)にクラスター電極を設置して、ただの音や言葉を聞かせた時の活動を計測し、記録するだけの実験だ。電極が設置された領域に刺激を与えた時のネットワークへの影響も調べているが、基本的には多くの電極から得られたビッグデータを情報処理して、一次視覚野の言語処理過程を推察する研究になる。

9人のうち5人は、手術中に実験を行っている。9人全体で、総数636カ所からの活動記録が得られており、それぞれの神経の活動特性を全て総合して解析している。

課題は簡単で、単純な音を聞かせた時、および、短いセンテンスを聞かせた時の、それぞれの電極が拾った記録をベースに、音が感知されてから、どのように神経興奮が伝搬しているのかを、それぞれの神経の興奮時間を元に計算していく。すなわち、早く興奮したところが最初の知覚で、そこから他の神経に広がると、時間差が生まれるので、時間経過からどう伝搬しているかがわかる。

これまで、蝸牛の配置に対応するコア領域(HG)でまず音が感知され、他の領域へ伝搬する中で言語であることの判断など、様々な処理が行われると考えられていたが、今回の研究により、言葉を聞かせた時の興奮経過を調べると、HGだけでなく、PTやSTG(名前の説明は割愛する)にも、HGとほぼ同時に興奮する神経があり、シグナル処理がいわゆる並行処理型で行われることが明らかになった。

そして、単純な音、あるいは言語に対する神経活動を分析すると、言語だけに反応し処理に関わる神経が存在すること、そして言語でも、音節の始まりに反応する神経、絶対的ピッチに対応する神経、相対的ピッチに対応する神経、などが存在し、個々の神経が異なる情報処理を専門的に行うことがわかる。

重要なのは、これらが一次聴覚野の決まった領域に固まって存在しているのではなく、それぞれの領域に分散的に存在していることで、それぞれの音を迅速に処理することに役立っていると思われる(絶対ピッチに関わる神経だけはTPにクラスターしている)。

階層的ではない並行処理が本当に行われているのか調べる目的で、階層的な処理の場合、必ず通過する必要のある最初の入り口としてのHGに電気刺激を行う実験を行うと、刺激により幻聴は生じるものの、言葉の聞き取りに全く影響ないことがわかる。またてHGにあるてんかん巣を取り去った患者さんでも、幻聴は消失したのに、言葉の理解は全く傷害されなかった。一方で、2次処理に関わるSTG領域の刺激は、言葉の認識を傷害することも示している。

繰り返すと、この研究から、おそらく言葉や音楽のような複雑な音を処理するために、聴覚神経がHG意外にも投射しており、このようなインプットを、散在する特殊な機能に特化した神経が処理する、分散型並行処理が言語理解の脳ネットワーク構造であることが示唆されている。

実際には、ビッグデータの情報処理研究なので、ついて行くのは難しかったが、なるほどと納得できる論文だった。

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8月26日 普遍的赤ちゃん言葉(8月20日号 Science 掲載論文)

2021年8月26日
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今日から2回、言語についての論文を紹介する。

さて一昨日、ライプニッツを、現在、我々が理解している細胞理解にかなり近いイメージを持っていたとする「モナド論」解題をアップロードしたが(https://aasj.jp/news/philosophy/17672)、ライプニッツの名前を、数学の研究所ではなく、自然史に近いNaturkunde博物館付属の研究所につけているのが、Leibniz Institute for Evolution and Biodiversity Scienceで、同じ意見の人がいると思うと心強いが、今日紹介するのはこの研究所からの論文で、コウモリの赤ちゃん語(Babbling)から、成人型への発語への転換を研究して、この過程が人間のそれと多くの類似性があることを示した研究で、8月20日号のScienceに掲載された。タイトルは「Babbling in a vocal learning bat resembles human infant babbling(コウモリの発語学習でのbabblingは人間の幼児のbabblingに似ている)」だ。

全く知らなかったが、コウモリの赤ちゃんも、大人の発語とは全く異なる、赤ちゃん特有のbabblingを行うことが知られていたらしい。この研究では、パナマとコスタリカで、20匹の幼児の発達を追跡するとともに、その間の行動と発語を記録し、最終的に216種類のbabbling発語の中から55056シラブル分離し、それを大人の発語と比べている。個々でシラブルとは、明確に分離した音の塊と考えれば良い。

結果は、

  1. コウモリの幼児は大人の発語とは全く異なる、特有のbabblingを生まれてすぐから発声する。
  2. ただ、決まったシラブルを持つbabblingを発声するのは2.5週目からで、それが7週間続く。
  3. babblingのシラブルは、個体ごとに大きく異なるが、人間と同じで同じ音の繰り返しが多い(da-da, pa-paのような感じ)
  4. 人間とは異なり、親は子供のbabblingに反応しないことから、社会的コミュニケーションの意味はない。従って、大人型の発語のための本能的な練習と考えられる。
  5. 実際、大人型のシラブルの原型が徐々にbabblingシラブルの中に混じるようになる。
  6. 3ヶ月でコウモリは離乳を果たすが、このとき大人言葉はせいぜい25シラブルに過ぎない。また、どのシラブルを学習するかも全くランダムで、決まっていない。
  7. 大人型シラブルの学習は、始まると急速に増加し一定に達する。決して順番に学習するものではない。

などなどだ。これを人間と比べると、babbling発生に時間がかかること、大人言葉に似ていても異なる特有の構成を持っていること、様々なシラブルが発声すること、子供ごとにbabblingレパートリーが異なること、リズミックであること、babblingは特に社会的要求を反映しないことなど、確かに似ている。おそらくbabblingで私たちは発語の自然訓練を行うようできているようだ。

それはともかく、個人的には、大人型のシラブルが混合を始め、それが言葉として独立した途端に、急速にレパートリーが増えるという、人間の言語獲得過程との類似性に感銘を受けた。これが、人間の言語獲得と、チンパンジーやボノボの言語獲得の違いで、コウモリの脳科学は進みつつあるので、この辺の秘密も解けるかもしれない。

普遍文法を唱えたチョムスキーも最近では動物に普遍的な脳過程として言語を考える総説を書いている。ずいぶん先になると思うが、是非生命科学の目で見る哲学でも取り上げたいと思っている(頭がぼけていなければだが)。

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8月25日 脳血管関門を通る核酸薬 (8月12日 Nature Biotechnology オンライン掲載論文)

2021年8月25日
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遺伝子が重複して組織での遺伝子発現が正常より上昇してしまうと病気になる多くの病気が存在する。わかりやすいのはダウン症のように染色体数が増えることで起こる病気だが、MECP2重複症のように、局所的に遺伝子が重複する場合もある。このような状態の治療には、RNAase 依存性のアンチセンスオリゴ核酸(ASO)や、Dicer依存性の2本鎖RNAを用いるRNAiやshRNAを用いて、mRNA量を半分程度に低下させる方法が考えられ、開発が進んでいる。

今日紹介する東京医科歯科大学からの論文は、DNAとRNAが結合したheteroduplexに脂肪を結合させることで、遺伝子制御効率を高められるだけでなく、全身投与した核酸薬が脳血管関門を通って脳組織で働けることを示した研究で8月12日、Nature Biotechnologyにオンライン掲載された。タイトルは「Cholesterol-functionalized DNA/RNA heteroduplexes cross the blood–brain barrier and knock down genes in the rodent CNS(コレステロールとDNA/RNA ヘテロドゥプレックス結合体は脳血管関門を通ってマウス中枢神経で遺伝子をノックダウンできる)」だ。

ワクチンで注目されている核酸テクノロジーだが、我が国でも様々な研究開発が行われていることがわかる研究だ。このグループは、両端(Wingと呼んでいる)に修飾RNAを持った、DNAとRNAのheteroduplexをもちいる核酸薬を独自に開発し、ASOと同じようにRNaseH依存的に遺伝子ノックダウンできること、さらにこれにビタミンEやコレステロールを結合させると、細胞へのデリバリーが高まり、高いノックダウン効果があることを示してきた(HDO技術と名付けている)。

この研究では、同じように設計したHDOが、全身投与するだけで自然に脳組織に到達し、そこで遺伝子ノックダウンが起こることを示すための詳細な技術的検証が行われている。

例えばHDOを静脈投与するだけで、神経変性に関わることがわかっているノンコーディングRNA、Malat1の発現を脳内のほぼすべての領域、および全ての細胞種で、半減させられることを示している。また、一度に大量を注射するのは難しい場合、連続投与すればさらに効果が高まることが示されている。そして得られた結果は2週間がピークだが、効果は1ヶ月以上長続きできることも示している。一定レベルにRNA量を落とせばいいMECP2重複症のような場合はかなり期待できるデータだ。

個人的印象だが、コレステロール結合HDOだけが何もしなくても循環から脳へ移行するという今回の結果は驚くべき結果だと思う。我が国発の核酸技術として発展してほしい。ただ、投与量についてみると、直接脳内に注射する場合と比べると、ほぼ10倍のHDO を投与する必要がある。この場合、全身性の遺伝疾患の場合は、脳以外の組織でのノックダウン効率と、神経組織内での効率が変わることになり、例えば脳症状が最も強いが、全組織で発現が見られるMECP2重複症に使うのは難しいかもしれない。

しかし、脳に入るかどうかは別にしてHDOの効率は高そうなので、髄腔投与であっても、高い効果が見られる気がする。是非進展することを願うが、wing付きのheteroduplexに脂肪を結合させる設計から推察すると、さぞコストがかかるのではと少し心配だ。

カテゴリ:論文ウォッチ

8月24日 多くのコロナウイルスと反応する抗体の誘導(8月19日号 The New England Journal of Medicine 掲載論文)

2021年8月24日
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今回Covid-19に関する研究を眺めていて感じるのは、様々なワクチンや治療手段が前臨床研究から臨床治験に至るまで迅速に論文として発表されている点だ。とはいえ、全く論文を発表せずEUとFDAの承認を得たモノクローナル抗体薬がsotrovimab(VIR-7831)で、ベンチャー企業Vir Biotechnologyが開発、GSKが製造販売している(https://jp.gsk.com/jp/media/press-releases/2021/20210604_gsk-and-vir-biotechnology-announce-sotrovimab/)。

この抗体について最初に知ったのは治験結果をレポートした3月のNature記事で、なんと2003年にSARSからの回復者から分離してきた抗体薬であること、そしてδ株を含むほとんどのCoV-2に高い効果を示すことが書かれていた。

残念ながらsotrovimabについてはその後も論文は発表されていないが、7月31日に紹介したワシントン大学からの論文(https://aasj.jp/news/watch/17067 )では、1)Covid-19から回復した36歳男性から、Sarbecovirusに属するほとんどのコロナウイルス(変異株も含めて)に反応するsotrovimabと良く似たモノクローナル抗体が分離できたこと、2)このような広いスペクトラムの反応性は、抗体が認識しているRBD領域がSarbecovirus共通に保存されているスパイク分子内に隠れている部位であること、3)抗体の結合はACE2との結合を直接阻害するのではなく、抗体結合によりスパイク自体の構造が変化し、スパイクS1領域が乖離してしまったpostfusion formができてしまうことで、正常な膜融合の確立を下げていることを示した。

おそらく上に書いたスパイクの変化はほとんどの方には理解不能だと思う。これは、スパイクを用いてウイルスが侵入する過程が極めて複雑で、一般に説明されているようなACEとスパイクが、鍵と鍵穴となってウイルスが侵入するといった話とは全く違うためで、これに興味ある学生さんはScience Museum Groupの提供している解説を読んでほしい(https://www.sciencemuseumgroup.org.uk/blog/coronavirus-the-spike/)。

いずれにせよ、sarbecovirus全体に反応できる抗体が人間で誘導できることは明らかになったが、どの程度の確率でこのような抗体が誘導できるのかについてはわからなかった。

今日紹介するシンガポール国立大学医学校からの論文は、以前SARS-CoV1に感染既往のある人にファイザー/ビオンテックmRNAワクチンを注射すると、ほとんどのケースで同じようなsarbecovirus全体に反応する抗体が誘導できることを示した面白い論文で8月19日号のThe New England Journal of Medicineに掲載された。

この研究では、SARS既往のある人、Covid-19回復者、コロナウイルス既往歴のないワクチン接種を終えた人、Covid-19回復者でワクチン接種を終えた人、そしてSARS既往者でワクチン接種を終えた人、それぞれの血清を、δ株を含む様々なCoV2, センザンコウウイルス、コウモリウイルス、そしてSARS-CoV1ウイルスの感染実験(実際のウイルス感染ではなくpseudo-中和試験)系で調べている。

結果は驚くべきもので、ワクチンや感染はウイルス特異的な抗体だけを誘導するが、SARS-CoV1感染者がCoV2のスパイクに対するmRNAワクチン接種を受けると、ほぼ全員ですべてのウイルスに対する中和抗体が誘導される。さらに、この結果を確かめるために、真性のウイルス中和試験も行い、SARS既往者がワクチン接種を受けたときだけ、すべてのウイルスに対する中和活性があることを示している。

結果は以上で、誘導された抗体がワシントン大学の論文が明らかにしたスパイク部位を認識しているのかどうかはまだわからない。しかし、変異株も含めsarbecovirus全体に強く反応できる抗体がヒトで誘導できること、しかも抗原を工夫することで、ほぼ100%の確率で同じような抗体を誘導できる可能性が示されたことから、今後起こるsarbecovirus感染も含めてカバーできるワクチンの開発が可能になったことを示している。

すでに多くの人がワクチン接種した現状でも、同じようなクローンを引っ張ってこれるのか、まだまだハードルは高いが、パンコロナ抗体とパンコロナワクチンの可能性を示唆する驚くべき論文だと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ
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