カテゴリ:論文ウォッチ
4月26日血液を若返らせて造血幹細胞を造る(4月24日Cell誌掲載論文)
2014年4月26日
幹細胞の臨床利用が最も進んでいるのは言うまでもなく血液細胞だ。骨髄移植、臍帯血移植は現在様々な疾患の標準治療になっており、1990年には骨髄移植実現に対してトーマス博士などにノーベル賞も与えられている。骨髄移植が可能なのは、中に自己再生を繰り返しながらあらゆる血液細胞を造り続ける造血幹細胞が存在しているからだ。しかしiPSが樹立され、様々な種類の幹細胞が試験管内で造れるようになった今も、骨髄移植に利用できる造血幹細胞を試験管内で造る事は難しかった。これまで試験管内で造血幹細胞を造ると言うと、骨髄や臍帯血内の造血幹細胞の自己再生を試験管内で誘導するか、あるいはiPSやES細胞から新たに誘導する方法が考えられて来た。今日紹介するのは山中さんが分化細胞からiPSを誘導したように、分化した血液を造血幹細胞段階まで若返らせる可能性を追求している。論文はハーバード大学のグループが4月24日発行のCell誌に発表した。タイトルは「Reprogramming committed murine blood cells to induce hematopoietic stem cells with defined factors(分化した血液細胞を血液幹細胞へとリプログラムする分子)」だ。方法は山中さん達がiPSへ誘導するための山中4因子を決めたのと全く同じだ。造血幹細胞と分化した血液細胞を比べ、造血幹細胞特異的遺伝子を36種類同定する。次にこれを全て分化した白血球に導入すると低い確率で造血幹細胞が出来る事を見いだし、この中のどの分子がリプログラムに関わっているか調べ、最終的に6種類の遺伝子がリプログラムに関わる事を突き止める。しかし6因子だけではどうしても効率が悪いので、更に2因子を加え、遺伝子の発現方法を工夫する事で、分化した白血球を安定して造血幹細胞へとリプログラムできるようになったと言う結果だ。もちろん、同じ方法でヒト血液細胞から造血幹細胞が誘導できるかどうか検討が必要だが、将来が楽しみな極めて重要な一歩が記されたと思う。自分の細胞から造血幹細胞が造れるようになれば、おそらく骨髄移植の方法が大きく変化し、今まで以上の多くの病気に利用できる気軽な治療になるだろう。2006年以来まだまだリプログラムフィーバーは続いているようだ。