アメリカの社会学者リチャード・フロリダはゲイの人口比を都市のクリエーティビティーの指標に使い物議をかもした。もちろんゲイがクリエイティブだと言ったのではない。ゲイを始め様々なマイノリティーを許容する都市や社会がクリエイティブな個人を引き寄せることを社会学的調査をもとに指摘した。この点で我が国政府が向かおうとしている方向は多様性を抑圧する非寛容な世界に見える。ただ政府を批判しても始まらない。程度の差はあれ、あらゆる政府は自然選択と同じで、多様性を減じる方向へ作用する。進化もゲノムに備わった自然に多様化し無秩序になろうとする力が、選択という多様化を抑える圧力とぶつかって初めて新しい多様性をうむ。この衝突の中で、新しいニッチを探すクリエイティブな個人が、新しい集団を作るだろう。ただ、多様性を失うと選択圧が集団の絶滅をもたらすことも確かだ。種の絶滅は進化の条件とさえ言える。このように、私たちは進化から多く学ぶことができる。特にゲノム解析が進んだ絶滅種は、得られる情報が大きい。今日紹介するスウェーデン国立博物館からの論文は異なる時期に生息したマンモスのゲノムを解析し絶滅の謎を探ろうとした研究で5月1日号のCurrent Biologyに掲載された。読者の一部には周知のことだと思うが、マンモスのゲノム配列は2008年に報告されている。しかしこの論文は古代ゲノム解析の一番乗りを目指すことが目的のような論文で、カバー率も低く様々な誤解をうむもとになっている。この研究ではWrangelとOymiyakonの異なる地域から出土したマンモスゲノムを11−17倍のカバー率で解読している。放射性炭素を用いた解析からWrangelマンモスは4000年前に、Oimyakonマンモスは45000年前に生息していた種で、ミトコンドリアのタイプでは異なっていることがわかっている。しかしWranelマンモスが生きていた4000年前というと人類はすでに文字を獲得していた時代で、シベリアの離れ小島であってもマンモスがついこの前まで生きていたことがわかる。4000年前と新しく、シベリアで保存されていた条件でも、マンモスのDNAは断片化していることが分かった。この事実は、クローン技術を使ってマンモスを復活させる試みが困難であることを示している。ただ、現在の象と比べると差は0.6%程度の違いなので、象をマンモス化するというプロジェクトは可能かもしれない。さて詳細を省いて、ゲノムからわかった結論をまとめると以下のようになる。まず、生息時期は違うが、2匹のマンモスは種としてほとんど同じで、別れたのはたかだか5万年前で、まあ私たちの人種差と同じ程度といっていい。ただ、4000年前まで生きていたマンモスは多様性が大きく減じている。といっても、ゴリラのように近親交配のせいではなく、おそらく集団自体の多様性が減じていたためだ。またマンモスが数を減らすのは28万年前、そしてWrangelでは1.5万年前の地球の温暖化であることがわかる。おそらく離れ小島で集団として多様性を失ったWrangelマンモスは、クリエイティブな個体がニッチを発見できず、温暖化という選択圧に耐え切れず全滅したのだろう。そして、4000年前に生きていたマンモスよりはるかに多様性が失われた野生動物が地球上には多いこともわかる。マンモスから学べることは多い。例えば政府として重要なのは、自分が選択圧として常に多様性を減じる方向性で作用している自覚と、少なくともクリエイティブな個人が生き残るニッチを残すことだろう。また、マンモスから考えて現在地球上に存在する多くの絶滅危惧種が結局失われる可能性は高く、緊急対策が必要だ。しかし、絶滅危惧種が生き残るニッチが用意されたとしても、それが動物園では困る。
4月28日:マンモスから学べること(5月1日号Current Biology掲載論文)
2015年4月28日
カテゴリ:論文ウォッチ