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4月23日:新しい膵島移植プロトコル(Nature Biotechnologyオンライン版掲載論文)

2015年4月23日
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ついこの前、2歳の1型糖尿病のお子さんを持つお母さんから、本当にこの病気は根治するのか?いつになったら治るのか?を問う投稿があった。これまで論文を読んでいてこの分野の進展は著しい印象を持っており、安全な膵島移植や、あるいは全く膵臓と同じ人工膵臓が完成するまで10年はかからないだろうと思っている。正直な気持ちとして、コストを気にしない場合は5年で多くの技術に見通しがつくのではと答えたが、「期待しすぎてはいけないでしょうね」と言われてしまった。(投稿と返事についてはhttp://aasj.jp/news/watch/2283 参照)。とはいえ、今日紹介するカナダ・Alberta大学からの論文もこの分野の力強い進展を示すものでNature Biotechnologyオンライン版に掲載された。タイトルは「A prevascularized subcutaneous device-less site for islet and cellular transplantation (あらかじめ血管網を形成させた皮下組織は膵島や移植細胞を支える組織になる)」だ。Alberta大学というと門脈を通して膵島を肝臓に移植する方法を開発した大学だ。この本家本元が、門脈から投与するエドモントンプロトコルには限界があると考えていたのだろう。もっと簡単で機動性の高い移植方法の開発を続けていたようだ。例えば将来は多能性幹細胞由来の膵島が利用されると考えられるが、未熟な細胞が残りテラトーマや他の腫瘍が発生するリスクを完全に排除することはできない。この場合、もし移植場所が皮下であれば、何か起こった時の対処がしやすい。ただ動物モデルで膵島を皮下に注射しても、細胞は全く生着しない。代わりに体内に留置可能なデバイスやマイクロカプセルに膵島を封入して患者さんに戻す方法の開発が進んでおり、かなり期待が持てる段階に来ている(例えば2013年11月に紹介した技術。http://aasj.jp/news/navigator/navi-news/737)。ただ臨床応用の観点から言うと、デバイスを使う方法は安全性が高いが、デバイスの認可に長い時間とコストがかかる。Alberta大学のグループは、膵島が腎臓の被膜下で生着するのに皮下組織で生着しないのは、血管新生が皮下で起こりにくいことが原因ではないかと考え、前もって血管新生を誘導した皮下組織に膵島を移植する方法を考えついた。この論文はこれが実際に可能であることを示した前臨床研究だ。まず皮下に血管新生を誘導する方法だが、様々な材料を試した後、市販の太さ5Fr(1.6mm)のナイロンカテーテルを皮下に1ヶ月留置することで実現している。ここにマウスや人の膵島を移植し、100日間経過を観察すると、腎臓被膜下移植と比べて少し遅れるが、あとは100日以上にわたって正常血糖を維持することが可能であることが示されている。移植抗原が違っている場合も、タクロリムスによる免疫抑制で十分移植膵島を維持することができること、すでに糖尿が発症していても有効な皮下組織を形成できることなど、前臨床としては十分な検討を行っている。そしてディスカッションにはヒトを用いた治験が準備中であると述べている。臨床応用は、多くの技術が並行して開発され、その全てが患者さんに届けられるときだけ可能になる。早期診断から、病気の進展の抑制、細胞移植や人工臓器、そして移植方法の開発など、1型糖尿病研究の進展を見ていると本当に力強いものを感じる。もう一度「大きな期待を抱いていただいて結構です」と伝えたい。最後になるが、来る5月30日日本IDMMネットワークは名古屋で10周年のサイエンスフォーラムを企画されている(http://japan-iddm.net/sympo_aichi_2015/)。このフォーラムでも力強い希望が聞けることは間違いない。

 

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