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9月18日:ズブの素人にも良さそうな感触がある創薬法(Angewandte Chemie9月号掲載論文)

2015年9月18日
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今書いている本のペースがこの一ヶ月なかなか進まない。というのも、内容が38億年前の地球での生命誕生に差し掛かったため、有機化学といやでも格闘しなければならない。毎日関係の論文を読みながら、苦手意識を募らせている。そんなとき思い出すのが、理研創薬プロジェクトのメディシナルケミストたちだ。ケクレが夢の中でベンゼン環が踊っているのを見たというが、頭の中に亀の甲をイメージできる人達だ。今格闘しているのが、生命の有機化合物がL-型に統一されるホモキラリティーの現象だが、キラリティーと関係するサンディエゴ州立大学からの論文を見つけたので紹介する気になった。タイトルは「Exploiting atropisomerism to increasee the target selectiveity of kinase inhibitors (キナーゼ阻害剤の標的選択制を高める目的でアトロプ異性体を利用する)」だ。私に取ってもアトロプ異性体という言葉は初めてだったが、論文を読むと化合物の回転性が亀の甲に結合させた分子によって阻害されるような異性体で、創薬として合成される化合物はアトロプ異性体ができやすいらしい。最近になてこのアトロプ異性体が時に標的分子と高い親和性を持って結合できることが示されてきたらしく、著者達は同じ戦略をガンの分子標的治療の中心になっているキナーゼ阻害剤に使えないか調べようと着想している。実を言うとここからはチンプンカンプンになるが、一昨日、昨日ここで取り上げたイマチニブやクリゾチニブもアトロプ異性体が生成され共存していることを確認した上で、ベンゼン環に結合しているクロライドをブロムに変換するなどして(なぜこんなことを思いつくのかは専門家に聞いて欲しい)、安定性のある右向き、左向きのアトロプ異性体を合成し、このキナーゼ阻害活性の特異性が、元の化合物と比べて変化するかを調べている。結果は期待通りで、これまでsrcを始め多くのキナーゼを阻害していた化合物が、右向きだけになるとRETなどのキナーゼに特異性を示すようになることを見出している。次に構造解析やモデリングを使って、実際の反応を構造モデリングで裏付けることもできること、そしてそれを使ってアトロプ異性体のキナーゼ特異性を予想することも可能なことを示している。これらの結果から、アトロプ異性体を安定化させることで現在使われているキナーゼの特異性を変化させるという方法は、もっと創薬で利用できるのではと示唆している。理研創薬プロジェクトの人たちと話していると、標的分子の構造さえわかれば分子をどう変えていけばいいか次々と頭に浮かんでくるようだ。その意味で、異性体を安定的にするだけでこんな効果があるなら、もっと試みられるべき方法だろう。少し気になったのは、化合物特許がある場合、異性体の特許も含まれてしまうのか、それとも別なのかだ。誰か是非教えて欲しい。
カテゴリ:論文ウォッチ
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