理事の西川が10月24日、下記のシンポジウムに参加予定です。公開ですので、奮ってご参加ください。
10月24日(土)に下記の要領で研究倫理に関するシンポジウム「これからの研究公正のあり方について考える」を開催いたします。
主催:京都大学大学院文学研究科 応用哲学・倫理学教育研究センター(CAPE)
協力:京都大学本部 研究推進部研究推進課
日時: 2015年10月24日(土) 13時から16時30分
会場: 京都大学国際科学イノベーション棟 シンポジウムホール(西館5 階)
(構内地図 http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/access/downlodemap/documents/2015/main_j.pdf
69番の建物)
プログラム
13:00-13:15 開会の挨拶 水谷雅彦(京都大学)
13:15-14:00
西川伸一(NPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン(AASJ)代表理事)「研究不正の構造分析」
14:00-14:45
加藤尚武(京都大学名誉教授)「研究不正の予防法」
14:45-15:00 休憩
15:00-16:25 パネルディスカッション
西川伸一(AASJ)、加藤尚武(京都大学)、伊勢田哲治(京都大学) (司会:水谷雅彦)
16:25-16:30 閉会の挨拶 水谷雅彦(京都大学)
連絡先:京都大学大学院文学研究科応用哲学・倫理学センター
CAPE[at]bun.kyoto-u.ac.jp
本シンポジウムの参加に際して事前登録は不要、参加費無料です。
安倍内閣の一つの柱は「女性の輝く社会」だが、男性中心にすでに出来上がった組織を変えるためには綿密な戦略が必要だ。ただ、役所や産業界に女性登用を呼びかけるだけでなく、例えば「女性の活躍を妨げるあらゆる要因を、罰則を持って取り締まる」といった罰則を伴う対策が必要になる。女性の活躍を妨げる要因の一つは、組織の構成が男性をトップに階層化されていることなので、もしペナルティーが明確なら、あらゆる組織で一度は女性をトップに据えて見ることが可能か問われるだろう。ただ、女性なら誰でもいいという訳にはいかないだろうから、すでに女性が育っている組織、これから養成が必要な組織など詳細な分析が必要になる。あまり問題にならないが、我が国で男性優位が際立っている組織の一つは大学の医学部だろう。私が京大医学部教授会に属していた時、教授会に女性はいなかった。その後富樫さんや柳田さんが教授になったが、それでも際立って男性優位だ。一方講義をすると分かるが、京大医学部は女性入学者が2割程度で、他の大学と比べるとかなり低いように感じる。こんな現状を見ると、国立大学医学部は男性優位組織を変革する政策立案のモデルとしては格好の材料になる気がする。今日紹介するハーバード大学からの論文は米国医学部での女性の占める割合についての詳細な調査で9月15日号アメリカ医師会雑誌に掲載された。タイトルは「Sex differentces in academic rank in US medical schools in 2014 (2014年時点でアメリカ医学部での地位に関する男女差別)」だ。アメリカの医学部も1970年までは男性優位組織だったが、その後女性教授の比率も増え、現在ではフルプロフェッサーの数が男性17000人に対し、3600人にまで上がってきている。しかし40年たっても20%を切るということで、完全平等を目指して調査を続けているようだ。これまでの調査と違って、例えば大学のランクと女性比率、あるいは各分野の女性比率、教授になるまで、またなってからのNIH研究助成採択率など、詳細な調査が行われ、資料として手元に置いておく価値はある。裏返すと、いちいち紹介するにはあまりに詳細で、まとまりがつかない。したがって、面白いところだけつまみ食いして紹介するにとどめる。まず年齢で見ると、まだ教授にはなっていないがファカルティーの女性メンバーが若い世代ほど多い。したがって、これまでの取り組みが一応功を奏して、徐々にではあっても今後女性の数がさらに増えると予想できる。ただ内科・小児科の比率が多く、他の分野でもいい指導教官につけるようにするなど、今後改善する部分は多い。面白いのは、ファカルティーで比べた時グラントの採択率、論文数では男性が倍以上多い点だ。一方、治験への登録率ではそれほどの差がない。他に、内科でいうと血液学、腫瘍学、放射線学では男女の比率がほとんど同じになっている点だ。なぜこれが可能になっているのか、今後詳しく調べる価値はあるだろう。一方、トップランクの大学ほど女性が教授になれる比率が少ない。この点もそのメカニズムを明らかにする必要がある。最後に、この研究では1980,1990、2000年にレジデントになった医師のコホート研究を続けており、平等を目指して取り組みが始まってから30年たっても、まだ男性がファカルティーになりやすいという状況が見られることも指摘している。いずれにせよ、男女共同社会実現には、計画の進展とともに当然阻害要因も変化することを理解し、不断に阻害要因を洗い出す長期的視野の調査が必要だ。我が国でもこのレベルの調査を医学部でも進めるべき時がきたのではないだろうか。
マウスの脳に光ファイバーを留置して、光照射で特定の神経細胞を興奮させ、高次脳機能への影響を見る光遺伝学の開発は、これまで推定することしかできなかった、特定の神経と行動との相関を特定することを可能にした。この技術は記憶などの高次機能の研究に使われているが、素人が読んでわかりやすく面白いのはやはり行動の研究だろう。今日紹介するイスラエル ワイズマン研究所からの論文は子供を育てる母性特異的行動についての研究で、9月16日号Natureに掲載された。タイトルは「A sexually dimorphic hypothalamic circuit controls maternal care and oxytocin secretion(性に左右される下垂体神経回路が母親の子育てとオキシトシン分泌を調節している)」だ。もともと下垂体の神経細胞の構成はオスとメスで異なることが知られていた。このグループは中でも下垂体脳室周囲の腹側前方部にドーパミンを作るときに必要とするTHを発現した細胞がメスで多いことに注目した。さらにこのTH陽性細胞はメスの中でも出産の経験後に大きく増加することがわかった。そこで、細胞毒をこの部位に注射して行動を調べると、生理や性行動には影響がない一方、メスが子供の世話する母性に影響があることが分かった。逆にこの神経を光遺伝学テクノロジーを用いて刺激すると、普通なら子供のケアをしない出産経験のない若いマウスも、すぐに子供のケアを始めることを発見した。一方、神経細胞除去をオスで行うと、子供に対する攻撃性が上昇し、逆にTH神経細胞が興奮するとこの攻撃性が減少することが分かった。最後に、この行動の差を決めるメディエーターを探索し、最終的にこの神経が傍室核のオキシトシン分泌細胞を直接刺激して母性を誘導することを明らかにしている。この経路の最終結果は、オス、メスともに子供を守る行動に収束するが、オキシトシン分泌後の行動については今後の研究が必要だという結論で終わっている。オキシトシンが社会性を促進する効果の中に、母性や父性の獲得も加わったようだ。
動物実験でうまくいっていても、人間ではうまくいかないことは多い。逆に動物実験で何も起こらなくとも、人間になると大きな問題になることもある。従って、人体実験に進んでいいかどうかは、インフォームドコンセントをとればいいというものではなく、まず人体にほとんど害がないという状況で進める必要がある。私は倫理的な手続きが整っており、また研究者自身がその問題を十分認識している場合は、人体実験も可能だと思う方だが、今日紹介するエール大学からの論文を読んで、ここまでやっていいのか深く考えてしまった。タイトルは「Imaging robust microglial activation after lipopolysaccharide administration in human with PET (リポポリサッカライド注入にによるミクログリアの強い活性化をイメージングする)」だ。ミクログリアは脳内のマクロファージとも言える細胞で、脳内の炎症や変性細胞の処理に重要な役割を演じている。裏返せば、ミクログリアが活性化していることは、脳内に炎症や変性が起こっていることを示唆することから、脳内のミクログリアの活性化状態をモニターすることは、多発性硬化症やアルツハイマー病の病態診断にとって価値は大きい。ただ、脳内の細胞なので簡単に血液検査で調べるというわけにはいかない。これを克服するために、ミクログリアの状態をアイソトープでラベルしたプローブでモニターする方法の開発が行われてきた。この中で生まれたが炭素11でラベルしたリポPBR28を使う方法で、このプローブはミクログリアが活性化された時ミトコンドリア膜上に誘導される様々な機能を持つトランスポーターTSPOに結合する。すなわち、放射性プローブのミクログリアへの蓄積を指標に活性化状態を定量化できる。これらのことから、PBR28を用いたPET検査への期待は高く、これまでサルを使った実験も含む前臨床研究段階は終了している。臨床研究としては、初期段階のアルツハイマー病でも上昇が見られることも示されていた。私なら炎症再生を繰り返す多発性硬化症や、脳炎などを用いた臨床研究へとすすむと思うが、このグループはなんと、正常ボランティアを募り、大腸菌のLPSを静脈投与して急性のミクログリア活性化を誘導し、炎症誘導前後のPET検査を行っているのだ。結果は予想通りで、LPS投与すると自覚的にも多角的にも炎症症状が誘導され、血中の炎症性サイトカインも上昇する。それと同時に、脳内でのPBR28の取り込みが30−50%上昇するのが観察される。LPSで脳内ミクログリアが活性化されることは知られているので、この方法はミクログリア活性化を知る感度の高い方法になるという結論だ。いくら経過を注意深く観察していると言え、LPS投与が強い炎症を引き起こす、いわば毒であることはわかっている。いくら将来重要な検査へと発展して多くの疾患の早期診断に役立つかもしれないとはいえ、正常人にわざわざ炎症を誘導する処置をしていいのか疑問だ。もちろんインフォームドコンセントをとり、倫理委員会で審議したと書かれているが、臨床例を積み重ねて適用を決めることは間違いなくできたはずだ。アメリカの自由といえばそれでおしまいだが、いくら考えてもどこかで一線を越しているような気がするのは、現役を退いたからだろうか。
今日は24日でこの間、案の定ネットは繋がらなかった。書きためた論文ウォッチを順々に、書いた日付に合わせて掲載する。
細胞の死に方をネクローシスと、アポトーシスに分けて理解できていた頃は楽だった。私自身この分野をほとんどフォローしていなかったが、両者とは違う新しい死に方が定義され、ピロトーシスと呼ばれるようになっていたようだ。今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文はピロトーシスが誘導されるシグナル経路を特定した研究で9月16日号のNatureに掲載された。タイトルは「Caspase-11 cleaves gasdermin D for non-canonical inflammatosome signaling (インフラマソームの非主流シグナルをカスパーゼ11により切断されたgasderminDが担っている)」だ。一般の人でなくとも、このタイトルは分野がことなう研究者にとってもチンプンカンプンだろう。まずピロトーシスから説明すると、細胞内に取り込まれた細菌細胞壁に発現する内毒素により誘導される細胞死で、細胞が溶解する点ではネクローシスト同じだが、DNAの断片化が見られる点ではアポトーシスと同じであり、独立のシグナル経路が関わることがわかっていた。これまでの研究からカスパーゼ1が活性化されるとピロトーシスが起こることはわかっていたが、細胞内に取り込んだ細菌の内毒素によるピロトーシスの詳細はほとんどわかっていなかったようだ。タイトルにあるインフラトソームはこのシグナル誘導に関わる様々な分子の複合体で、この中に存在するカスパーゼ11が内毒素によるピロトーシスに関わることは知られていた。この研究の目的は細胞内内毒素の刺激からピロトーシスまでの経路の解明で、Pam3CSK4と共培養することで誘導されるIL-1βを指標に突然変異マウスを探索し、gasderminDとカスパーゼ11遺伝子突然変異マウスがこの経路に異常があることを発見する。このスクリーニングで使われた突然変異体は共著者のオーストラリアのGoodnowがずいぶん前に、マウスを使ってショウジョウバエと同じように全遺伝子について突然変異体の分離を行おうと始めたプロジェクトで、現在も粘り強くプロジェクトが進んでいるのを知ると感心する。はっきり言ってこの二つの分子を特定できたことでこの研究の大枠は完成している。インフラソゾーム構成分子のカスパーゼ11は予想していたかもしれないが、gasderminDが引っかかってきたのは驚きだったろう。というのも、この分子は哺乳動物にしかなく、またカスパーゼ1活性化によるピロトーシスにはgasderminDが必要ないことがわかっていたからだ。様々な遺伝子欠損マウスを使ったシグナル解析から、1)細胞内内毒素によるピロトーシスには、カスパーゼ11活性化と、それによるgasderminD分子の活性化が必要なこと、またこの経路が致死的敗血症の原因であることを明らかにしている。詳細は省くが、内毒素による活性化されたカスパーゼ11/gasderminDはカスパーゼ1の上流で働いているため、カスパーゼ1を直接活性化するとgasderminD非依存的にピロトーシスが起こるというシナリオを提案している。したがって、脊椎動物で一般的に見られるピロトーシスを細胞内内毒素の刺激とリンクさせたのがgasderminDの進化の結果ではないかと結論している。ますます細胞の死に方が複雑になっているという印象だが、細胞の死に方の調節がいかに重要かを実感する論文だった。