カテゴリ:論文ウォッチ
12月10日:寒さと腸内細菌叢(12月3日号Cell掲載論文)
2015年12月10日
毎週のように腸内細菌叢に関する新しい研究が掲載されると、またかと徐々に読む食欲は失せる。ただ、トップジャーナルに掲載される論文を見ていると、徐々に論文への要求が高まってきていることに気づく。最初の頃は、メタゲノムで調べられる細菌叢全体の変化と、体の変化の相関を調べるだけで良かったが、最近ではよりメカニズム的な因果関係を突き止めない限り論文が掲載されなくなっている。今日紹介するジュネーブ大学からの論文は低温による腸内細菌叢の変化を調べたもので、いつものパターンかと読み進むと、これまでとは少し違って個別の原因菌を特定しており、このおかげでCell(12月3日号)に掲載されたのだろう。タイトルは「Gut microbiota orchestrates energy homeostasis during cold(腸内細菌叢が低温でのエネルギー恒常性を統合する)」だ。これまでも、低温にさらされると、白色脂肪組織が褐色脂肪組織に変わり、熱を出して体を守る変化が起こることが知られていた。この研究では、この現象に腸内細菌が一枚噛んでいないか調べた、いつものパターンだ。実は結構複雑な実験系を使っているが、そこをスパッと割り切って簡単に述べる。まずネズミを10日程度低温に晒す。もちろん細菌も細胞だから温度変化を反映して、細菌叢が変化する。この研究ではその後30日間低温にさらしたマウスの細菌叢を室温で飼っている無菌マウスに移植して代謝を調べると、インシュリンに対する感受性が上がっている。さらに驚くのは、白色脂肪組織が褐色脂肪組織に変わり、低温に強い体質に変わる。要するに、低温への体質変化を細菌叢を使って誘導できる。この変化の組織学的原因を探ると、低温にさらしたマウスの細菌叢を移植したマウスの小腸の長さが伸び、腸の絨毛の長さ、ひいては表面面積が大きく拡大している。これにより、食物は長く腸にとどまり、処理した食物からの栄養を逃すことなく捉えることができる。そしてこの変化が、腸上皮細胞の細胞死が遅れることによることも明らかにしている。最後に、この変化をもたらす細菌叢側の変化を調べ、最近の研究で上皮面積を低下させる効果が特定されていた細菌叢全体の3−5%を占めるアッカーマンシア・ムシニフィラという細菌が低下していることを突き止める。この細菌を、低温処理した細菌叢に混ぜて移植すると、腸管の変化が全く起こらず、代謝も変化しないことが明らかになる。以上の結果から、低温でアッカーマンシア・ムシニフェラの割合が減ることが、体を低温適応型に変化させるのを手伝っているという結果だ。この細菌の影響についてはすでにフランスのグループがGutの6月号に発表しており、これをもう少し面白い状況で確認する論文と言える。この論文にあるように、もしこの細菌がないと、細胞死が減るなら、細胞死を促進している成分が何かは興味がある。この細菌は今徹底的に研究されていることだろう。