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12月17日:成熟T細胞の寿命(12月9日号Science Translational Medicine掲載論文)

2015年12月17日
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このホームページでも紹介したが、白血病に対するCART(キメラ抗原受容体T細胞)治療の効果は劇的だ。手の施しようのなかった患者さんの白血病が、1−2回のCART治療で消失する。こういう話はよくあるので、それだけでは驚かないが、白血病細胞だけでなく、同じ抗原を発現している正常B細胞まで綺麗に消えてしまうという結果を見ると、CARTの威力を思い知る。もちろんこれを裏返せば、CARTが体内で正常B細胞を殺し続けるという副作用を持つことを意味する。もしできるなら、必要なくなったときCARTの方を殺せないかと思うのは当然で、現在様々な試みがすでに進んでいる。また、CART治療では成熟T細胞が移植されるが、その細胞の体内での寿命はどの程度のものかも知りたくなる。今日紹介するイタリア・ミラノからの論文はヒトに移植した成熟T細胞の動態を長期にわたって追跡した研究で12月9日号のScience Translational Medicineに掲載されている。タイトルは「Tracking genetically engineered lymphocytes long-term reveals the dynamic of T cell immunological memory (遺伝子改変T細胞を追跡することで免疫記憶T細胞の長期にわたる動態が明らかになる)」だ。タイトルにあるように、この研究では遺伝子を改変し印の付いたT細胞を人間に移植し、その動態を長期間追跡している。「えっ!そんなことしていいの?」と驚かれるかもしれないが、もちろん追跡のために遺伝子改変したわけではない。また、正常細胞に遺伝子を導入して移植する研究分野ではイタリアは先進国だ。この研究では、骨髄移植に際して最も重大な副作用である移植した細胞に含まれるT細胞が宿主の細胞を攻撃するGvHRを防ぐ意味でT細胞を除去した幹細胞移植を行った後、免疫機能を高める目的で幹細胞とは別にT細胞を移植した10人の患者さんを追跡している。このとき後から移植する成熟T細胞は、GvHRを起こしたときに、それを抑制できるように自殺遺伝子と細胞表面マーカー遺伝子を導入してある。実際、この自殺遺伝子を使って、GvHRが始まった患者さんが治療されている。いずれにせよ、標識された成熟T細胞が移植されたわけで、この細胞を最長14年にわたって追跡したのがこの研究だ。様々な実験が行われているが、詳細は全て省いて結論だけをまとめると次のようになる。まず標識されたT細胞は、0.1%-10%の範囲で、末梢血内に長期間観察することができる。ほぼすべてのタイプのT細胞がこの中には含まれ、ウイルスベクターの組み込み位置からみて複数のクローンが維持されている。さらに、移植後出会ったサイトメガロウイルスや風邪ウイルスに対する免疫記憶も維持されているという結果だ。この結果は、一度移植したCARTが長期間体内に留まり続けて白血病やB細胞を殺し続けられるという結果を支持しており、成熟T細胞移植が値段の安い治療として発展する可能性を示唆している。おそらくこの研究と同じように、自殺遺伝子と標識を組み込んだT細胞を使うのが普通になると、この細胞だけもう一度取り出して万が一のために残しておいて、必要なくなった体内のCARTなど移植T細胞を殺して副作用を止めるという治療に発展するだろう。このような治療法開発のために、これは貴重な研究だと思う。
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