要するに心筋細胞は成熟すると細胞増殖を開始できない。このメカニズムを研究するより、細胞周期に関わる分子を導入して分裂させればいいという発想の研究が今日紹介するグラッドストーン研究所からの論文だ。タイトルは「Regulation of cell cycle to stimulate adult cardiomyocyte proliferation and cardiac regeneration (大人の心筋細胞の増殖と心臓再生を細胞周期調節を通して刺激する)」だ。
おそらくこのような研究は何度も行われてきたのだと思う。ただ、あまりにも工学的な発想で、まともな生物学ではあまり注目しない手法だ。しかし、結果よければCellでも掲載してくれるようだ。
この研究では、成熟した心筋の増殖を誘導できる細胞周期分子を探索している。いろいろスクリーニングをやったように書いてあるが、結局到達したのがG1期の調節因子CDK4+CyclinD1と、G2期の因子Cyclin BとCDK1の4分子を導入すると、 G1もG2止まることなく回転する。さらに、過剰発現しても、周期に合わせてタンパク質が分解されるというごく当たり前の話だ。ただ、細菌や酵母の話と違って、心筋細胞でも同じように簡単にいくのが驚きだ。
この組み合わせは、人間の細胞も、マウスの細胞も同じように動かすことができ、生体内で心筋細胞の増殖を誘導できる。そして何よりも、心筋梗塞後1週間目の心臓に遺伝子を導入すると、コントロールと比べて再生が高まる。驚くことに、瘢痕に存在する線維芽細胞にはこの分子は効果がなく、心筋細胞特異的のようだ。
最後に、4分子を同時に導入するのはいかにも現実味に欠けるので、G2サイクリンの阻害分子Wee1を阻害する化合物と、細胞分化を誘導するTGFβ阻害を介したG1期抑制分子p27分子の抑制を組み合わせることで、サイクリンBとCDK1を2種類の阻害剤で置き換えられ、実際心筋再生もうまくいくという結果だ。
発想は、オーソドックスというか、古いというか、細胞周期の複雑な調節を知っていると到底うまくいくとは思えないが、それがすんなりうまくいったという話で、この意外性にCellも掲載することにしたのだろう。しかし、線維芽細胞は動かないのに、なぜ心筋細胞のみが動くのかなど、面白い話もある。いずれにせよ、臨床を考えるとSimple is the bestだ。
カテゴリ:論文ウォッチ