今日紹介するハーバード大学からの論文はそんな一例で、インシュリン抵抗性の糖尿がえさの少ない洞窟での生活への適応に関わるという研究でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Insulin resistance in cavefish as an adaptation to a nutrient-limited environment(洞窟魚のインシュリン抵抗性がえさの少ない環境への適応に関わる)」だ。
このグループは、同じ種の魚で通常の環境と洞窟環境に生息する魚を比べ、えさの少ない洞窟への適応にどのような遺伝子変化が必要か調べていたようだ。この研究の中で、洞窟魚の血液ブドウ糖濃度が高く、また24時間えさを与えず測った空腹時血糖も高いことに気がついた。
そこで詳しく糖代謝を調べ、基本的には臨床的にインシュリン抵抗性、すなわちインシュリンに組織が反応しにくいことが、洞窟魚の特徴であることを見出す。そして、抵抗性の本丸とも言えるインシュリン受容体に洞窟魚の身に見られる変異を発見する。人間でもこの変異は発見されており、インシュリンに対する反応が低下しているため、成長が抑えられ、予後は悪い。ところが、洞窟魚ではこの変異をホモで持っていても、逆に成長が更新している。
重要なことは、通常の環境から採取した魚にはこの変異は見られず、洞窟魚に限られていることだ。そして、クリスパ−/Cas9を用いた遺伝子編集実験から、この変異が体重の増加、脂肪肝などほぼ全ての異常を説明できることも示している。
人間の場合、糖尿病が続くと糖化された最終産物が血管を障害し、様々な異常を引き起こす。ところが、洞窟魚ではこのような最終産物のレベルは血中ブドウ糖が高くとも特に上昇しない。おそらく、他の代謝ブロセスが発達して、これを防いでいるのだろう。 実際この洞窟魚は14年以上健康に生きているようだ。
このように人間だけを見ていると、ほとんどありえないことが、他の動物では自然適応として起こっている。この事実は小説より奇なりという点が、動物の多様化を見ることの面白さだが、医師として考えると、この魚から糖尿病の代謝について学び直すことは多いと思う。
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