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3月30日 後期のネアンデルタール人ゲノム(3月21日号Nature掲載論文

2018年3月30日
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ネアンデルタール人のゲノムが、我々の先祖ホモ・サピエンス(現生人類)に流入していることは何度も紹介したが、実際にこれまで確認できる流入時期は現生人類がまだヨーロッパ進出を果たす前の5ー6万年前の話だと考えられている。しかし、私的興味としては、シナイ半島で10万年近く維持されてきたネアンデルタール人とホモ・サピエンスの均衡が破れ、ホモ・サピエンスが怒涛のごとくユーラシアに進出、そしてネアンデルタール人がヨーロッパから消え去るまで、すなわち45000-40000年ぐらいの時代で。この非対称性が生じた時期にも、交雑が行われていたのか、あるいはほとんど行われなくなったのかを知ることは、ネアンデルタール人の滅亡の原因を知るためには重要な課題になると言える。一つはっきりしているのは、この時の現生人類には多くのネアンデルタールゲノムが流入していることだ。では逆はどうか?

今日紹介するライプチッヒマックスプランク人類研究所からの論文は、現生人類がヨーロッパ進出を果たした後にヨーロッパに暮らしていた(44000-39000)ネアンデルタール人の骨をヨーロッパ各地から集め、ゲノム解析した論文で3月12日号Natureに掲載された。タイトルは「Reconstructing the genetic history of late Neanderthals(後期ネアンデルタール人の遺伝的歴史を再構成する)」だ。

ペーボさんももちろん著者に入っているが、彼らの論文を読んでいると常にゲノムの調整方法に工夫が加わっているのがわかるが、今回は次亜塩素酸処理により骨の表面に存在する様々なDNAのコンタミを防ぐ方法を取り入れている。また、DNA量も9-60mg 程度しか採取できていないが、1-2.7倍のカバレージで全ゲノムを解析している。

もちろん今回あらたに後期のネアンデルタール人ゲノムが加わる程度では、驚くほどの話は出にくくなっている。従って、着実に進むゲノム解析の中間報告といった感じの論文という印象だ。

まず、これまでに解析が終わっっているほかのネアンデルタール人との系統関係が、ミトコンドリア、核 DNA、Y染色体DNAがそれぞれで調べられている。基本的には一元性の単純な系統樹で、シベリアで発見されるネアンデルタールが最も古く、早くからヨーロッパ全土に広がっているのがわかる。とはいえ、同じ地方から発見されるゲノムの類似性は当然高い。今回の研究で一番面白いのは、現生人類と同じでネアンデルタール人も、集団の入れ替えが起こっており、厳しい環境で強いものが生き残る世界であったこともわかる。征服や融合もあったのかもしれない。

最も興味があるのが、現生人類との交流だ。この詳細を明らかにするには、もっともっと古代人ゲノムを解読する必要がある。というのも、例えばルーマニアで見つかった4万年前の現生人類のゲノムは、ヨーロッパ進出後も交雑が普通に行われていたことを示している。ただ、この現生人類は最終的に死滅しており、私たちのゲノムにはほとんど寄与していない。従って、4万年前後のヨーロッパの現生人類とネアンデルタール人の解析されたゲノムをもっと増やしていく必要がある。いずれにせよ、現代の私たちのゲノムの中にみつかるネアンデルタール人ゲノムは、シベリアのネアンデルタールから15万年前に分かれコーカサスに移動して暮らしていたグループとの交雑で流入したものがほとんどで、現生人類のヨーロッパ進出前というこれまでの結果と同じだ。

これに加え、後期ネアンデルタール人のゲノムが解析されることで、後期のネアンデルタール人のゲノムにほとんど現生人類のゲノムが流入していないことがわかった。これは、当時の現生人類のゲノムにネアンデルタール人ゲノムがかなり流入しているのと全く逆の結果で、何が起こっていたのかさらに興味がわく。普通、強い民族が弱い民族を征服したとき、その民族にゲノムが流入してくるのだが、この単純な図式では理解できないようだ。なかなか面白くなってきた。
カテゴリ:論文ウォッチ
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