今日紹介する論文はCas9がガイドRNAに結合してDNA切断活性を発揮するために必要なPAM(protospacer adjacent motif)の制限を取り除くための研究でNatureがオンラインで先行出版している。タイトルは「Evolved Cas9 variants with broad PAM compatibility and high DNA specificity(進化した多様なPAM配列でも機能でき、しかも高い特異性を持つ進化型Cas9変異体)」だ。
Cas9がDNA切断するときの場所決めにはPAM配列が必要で(Cas9ではNGG)、この配列の特異性のために、ゲノムのすべての場所を編集できないという問題がある。16塩基に一回は出てくるので問題ないと言えるかもしれないが、どんな配列のPAMでも機能できる完全なCas9を開発するためには解決すべき問題になる。
クリスパー遺伝子編集は効率が良く、PAMだって2塩基だけの制限と思って満足している凡人と異なり、ゲノムのどの場所であれ編集できるようにするのだという編集者の執念こそが、彼の非凡なところだろう。
自然に存在するCas9のPAMレパートリーを広げるため、彼らが開発したPACEと呼ぶ、一定数のバクテリアの中で、ファージに組み込んだ遺伝子と、彼らがAccessory plasmidと呼んでいるファージの外殻タンパク(GeneIII)をコードしたプラスミドが相互作用して感染性のファージを生産するいわゆるone hybridシステムを使って、多くのPAMに反応するほどファージが増殖できるようにすることで、多様化と自然選択が猛スピードで進むようにした分子進化システムを使っている。
詳細は省くが、この方法で6種類の、PAMレパートリーの広がったCas9変異体を分離し、そのうちプラスミド上のgene III転写活性化アッセイではほぼすべてのPAMを利用できるdxCas9(3.7)を選んでその後の実験に進んでいる。
このxCas9と様々な酵素活性を組み合わせて、DNA切断活性やA/TからG/C転換の効率などを比べ、期待どおりNGG以外のPAMに対応できることを示している。ただ、スクリーニングに用いた転写の場所決めとは違って、標的DNAの切断部位や編集部位の場所決めとなると、PAMのレパートリーはそれほど広がっていない印象を持つのは私だけだろうか。何十億年もかけて至適化された分子もそう簡単には編集されないのは当然だと思うが、完全を目指すLiuにしたら、本当は許せないレベルのプロダクトかもしれない。とはいえ、PAM配列による制限はかなり外れたことも確かだろう。 しかしこの研究で最も驚くのは、PAMのレパートリーが広がった一方、配列とは関係なくDNAを切ってしまう副作用が大きく低下していることだ。なぜこのようなことが起こるのか?新しい問題が設定できれば、Liuたちはまた新しいプロダクトを開発することだろう。
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