一方、おそらくイベリア半島を起源とするThe Beakerと呼ばれる特徴のある土器がBC2500年以降のヨーロッパ全土に広がったことも知られている。今日紹介する国際チームの論文は、このBeaker文化の伝搬も、人間の移動により起こったのか、あるいは文化自体が知識として伝搬したのかをBC4700-BC800年のものと推定される人骨のゲノムを約120万SNPを指標に調べることで明らかにしようとした研究で、2月21日号のNatureに掲載された。タイトルは「The Beaker phenomenon and the genomic transformation of northwest Europe(The Beaker現象と北西ヨーロッパでのゲノムの変化)」だ。
実に400もの古代人DNAを解析した研究で、少し前に1000人ゲノムなどと現代人のゲノム解析を推進していたのが遠い昔に思える。
まず重要なことは、The Beaker文化の古代人の分布が現代北西ヨーロッパ人のゲノム構造とほぼ重なる点で、この時以前に形成されたヨーロッパ各地の人種が現在に至っていることになる。すなわち、主成分解析で見られるゲノムの多様性がすでにTheBeaker文化の担い手に存在し、例えばこの文化の起源と思われるイベリア人のゲノムが急速にヨーロッパ全体に文化とともに拡大したというわけではなさそうだ。文化は広がっても、各地域のゲノム構造はほとんど新石器時代から青銅器時代のままだ。
さらに、各地域でも同じ文化を共有するからといって、ゲノムが一致していることもなく、The Beaker文化は知識として拡大したようだ。
とはいえ、人間の移動が重要なケースも間違いなくある。最近、多くのメディアが、英国の先史人として知られるチェダーマンが、色黒、縮毛、碧眼であったことを大々的に報じていたが、イギリスの新石器時代の先史人は、2500年以降中央ヨーロッパに近いゲノムを持った人種で完全に置き換わっていることがわかる。このゲノム構造の変化は、The Beaker文化の伝搬とともに起こっており、the Beaker文化の伝搬が人間の移動と交雑により起こりうることを示している。
言語、道具がゲノムと統合されて解析できるようになっているのが本当に素晴らしい。このように、ヨーロッパの先史時代がゲノム解析からどんどん明らかになっているが、明日は同じグループが同じ号のNatureに発表した東欧のヨーロッパ人ゲノムの形成についての論文を紹介する。
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