4月3日 Trogocytosisがガン細胞のCAR-T抵抗性獲得のメカニズム(3月27日Natureオンライン掲載論文)
AASJホームページ > 2019年 > 4月 > 3日

4月3日 Trogocytosisがガン細胞のCAR-T抵抗性獲得のメカニズム(3月27日Natureオンライン掲載論文)

2019年4月3日
SNSシェア

ガン免疫の回避についての研究紹介2日目は、Trogocytosisの話だ。Trogocytosisはおそらく免疫学特有の現象だと思うが、抗原提示細胞(APC)上のMHCとT細胞受容体が結合した後、MHC+抗原の濃縮したAPCの細胞膜がT細胞に取り込まれ、その後T細胞の膜上に発現するという複雑な過程をさす。この現象はMHCだけに限らないようだが、T細胞の場合細胞内小胞に抗原とT細胞受容体コンプレックスができると刺激が維持されるように思えるし、キラーT細胞の場合T細胞表面に抗原が出てしまうと、今度はT細胞同士で殺し合いになるのでは、などと素人ながらに考えてしまうプロセスだ。

今日紹介する米国スローンケッタリングがん研究センターからの論文は、モデルマウスを用いた白血病のCAR-T抵抗性獲得にtrogocytosisが重要な働きをしていることを示した研究で3月27日にNatureにオンライン掲載された。タイトルは「CAR T cell trogocytosis and cooperative killing regulate tumour antigen escape(CAR-T細胞のthrogocytosisと協調的細胞障害がガン抗原の逃避を調節している)」だ。

CAR-Tは原理がシンプルで、抗原からキラーまで全て治療側の手の内にあるので、高い効果を発揮し、ガン免疫治療の切り札として期待されているが、それでも一定の割合で再発が起こる。この研究は、ガンがCAR-Tから逃避するメカニズムを動物実験解析することを主目的としている。使ったのは現在ヒトで使われている、CD19を発現した白血病と、CD19抗体を抗原認識に使うキメラT細胞受容体を持つCAR-Tだ。この時、異なるcostimulatoryシグナル分子を持つCAR-Tを使っている。

CAR-T治療で問題になるのは、移植する細胞数が少ないと再発することだが、このとき何が起こっているのかを調べてみると、早期から白血病側のCD19の濃度が低下し、さらにCD19がT細胞側に移っていることを発見する。すなわちTrogocytosisによりガン抗原がCAR-T側に移動していることを発見する。

この現象が発生すると、後からフレッシュなCAR-Tを追加しても、ガンを制御することはできない。すなわち、抗原自体の濃度が低下してしまっている。したがって、最初から十分な数でガンを叩くことの重要性を強く示唆している。

そして、一個のがん細胞を培養中で殺す実験から、コシグナル分子としてCD28の細胞内ドメインを使うCAR-Tの方がより迅速にガン細胞を殺すこと、また一個の癌に対してCAR-Tの数が増えるほど細胞障害の効率が高まることを示し、中途半端に細胞障害性が発揮されるとtrogocytosisが起こることから、治療の鍵はtrogocytosisが起こるより前にガンを殺すことであることを示している。

そしてこの結果に基づき、CD19とCD22の2種類のガン抗原に対して、それぞれcostimulatorシグナル分子を変えた2種類のCAR-Tを用意することで、より失敗のないガン制圧が可能であることを示している。

以上が結果で、中途半端なCAR-T治療が trogocytosisを誘導することが、ガンのCAR-T抵抗性の主因であることを示した点では重要な貢献だと思う。確かに2種類のCAR-Tという方法もあるが、十分な数のCAR-Tを用意して治療することが現在取りうる最も重要な戦略であることがはっきりしたと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ