4月6日 ロイテリ菌:マウス自閉症に効果を示すプロバイオ(1月16日Neuron 101:246 掲載論文)
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4月6日 ロイテリ菌:マウス自閉症に効果を示すプロバイオ(1月16日Neuron 101:246 掲載論文)

2019年4月6日
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わが国では、多くの企業が乳酸菌やビフィズス菌についてその効能を謳った宣伝を毎日繰り広げている。あまりに多すぎて、乳酸菌という言葉が効能になっており、消費者も乳酸菌やビフィズス菌と枕詞がついておれば、実際の効能はほとんど気にしないのではと思う。かく言う私も、特定のヨーグルトを毎朝効能を気にせず食している。

当然企業側も効能については科学雑誌に結果が掲載されたことを強調するが、コマーシャルで馴染みの企業の菌株がトップジャーナルに掲載された論文で検討されるのを見たことはほとんどない(小児の壊死性腸炎抑制効果を調べた大規模治験で某会社の菌株が効果がなかったというThe Lancetの論文はある)。

これに対し、乳酸菌の一種ロイテリ菌は多くの論文があるだけでなく、Nature(http://aasj.jp/news/watch/7695)やCell(http://aasj.jp/news/watch/5406)といったトップジャーナルにも掲載され、このブログでも紹介した。また国際的治験登録機関であるClinical Trial Governmentに登録された治験がなんと154にも及んでおり、科学的な効果の検証が続いていることをうかがわせる。特に、この菌は子供の夜泣を抑えるなど神経系への効果が早くから指摘されている。そんな中、2016年ロイテリ菌が自閉症スペクトラムのマウスモデルの社会性を回復させるという驚くべき論文が米国から発表された(http://aasj.jp/news/watch/5406)。この系では、肥満マウスから生まれたマウスの社会行動異常を腸管内のロイテリ菌の存在だけで説明できるという話で、しかもロイテリ菌がもともと自閉症に効果があると期待されているオキシトシン分泌を誘導して社会性を回復させることを示していた。ただこの論文に対し、遺伝的変異による自閉症についても同じことが言えるのか、様々なモデルで検討してほしいと期待を述べた。

今日紹介する論文は、同じテキサス・ベイラー医科大学からの論文で、まさに様々なマウス自閉症モデルを用いて、2016年の論文結果を確認した研究で1月16日のNeuronに発表された。見落としていたため紹介がずいぶん遅れたが、私が感じた疑問に答える努力を徹底的に行なっているので紹介する。

この論文では、Shank3Bという遺伝子が欠損したマウス、自閉症の多発するBTBR系統を用いてともに腸内でのロイテリ菌が低下していること、また行動異常をロイテリ菌を飲ませることで回復させられることを示している。一方、他の腸内細菌は自閉症症状と全く相関しない。さらに、妊娠マウスにHDAC阻害剤を投与して誘導する自閉症にもロイテリ菌が効果を示すことも示している。この結果、少なくとも4種類の様々な自閉症モデルでロイテリ菌の症状をおさえる効果が確認されたことになる。

あとは、メカニズムを詳しく調べ、

  • 社会行動異常を正常化する効果は全てロイテリ菌で説明できる。
  • ロイテリ菌はオキシトシン分泌促進を介して、この効果を発揮する。
  • この作用は中脳のドーパミン神経の興奮調節を介しておこる。
  • ロイテリ菌の腸内での作用は迷走神経の興奮を誘導して、オキシトシン分泌を誘導、その結果症状を改善させる。

結果は以上で、2016年に紹介した時、結果が綺麗すぎてにわかには信じがたいと言ってしまった研究結果をさらに深めることができたように感じる。

だとすると、ぜひ実際のASDの人たちの社会症状を改善できないか確かめてほしいと思う。ClinicalTrial Gov.を見ると、まだリクルートは始まっていないが、計画については登録されているので、期待できるように思う。実際ロイテリ菌はFDAで安全性が確認され、夜泣きの乳児にも使われてきたプロバイオティックスでおそらく治験へのハードルは低いと思う。そして早く、どのタイプのASDに効果があるのか、結果を出して欲しいと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ