4月29日 うつ状態とスパイン(4月12日号Science掲載論文)
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4月29日 うつ状態とスパイン(4月12日号Science掲載論文)

2019年4月29日
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うつ病は現代社会にとって緊急課題になってきているが、最近経頭蓋的磁場照射を含む様々な新しい治療が開発されてきた。中でも麻酔剤ケタミンを一回投与するだけで、うつ症状が即座に軽快することがわかり、特に自殺防止の点から大きな期待を集めている。この発見は、低調だった向精神薬の開発を加速させ、最近ではエスケタミンという薬剤がFDAにより認可され、本当にこんな高価な薬剤をケタミンの代わりに使っていいのか話題を呼んだ。ケタミンは確かに即効性があるが、長期的観察では効果がなくなるため、臨床試験だけでなく、並行して動物実験による効果のメカニズムを明らかにする必要がある。

今日紹介するコーネル大学からの論文は、マウスにコルチコステロイドホルモンを投与するといううつ病モデルを用いてケタミンが神経伝達のダイナミズムを反映する神経軸索でのスパイン形成にどのような影響を及ぼすか調べた研究で、4月12日のScienceに掲載された。タイトルは「Sustained rescue of prefrontal circuit dysfunction by antidepressant-induced spine formation (前頭前皮質回路の異常を抗うつ剤によるスパイン形成が持続的に回復させる)」だ。

この研究では、まず生きたマウスの脳の中のスパイン形成を継時的に観察し続け、うつ状態により新しいスパイン形成が低下し、逆にスパインの消失速度が高まることで、スパイン形成が強く抑制されること、そしてケタミンを一回投与すると24時間でスパインの形成がん元に戻ることを発見している。

このスパインの回復は、全く新しいスパインの回復だけでなく、半分以上はうつ状態で消失したスパインが回復することを明らかにしている。

次にカルシウムを検出するイメージングを用いて観察視野内でのシナプス活動を調べると、スパイン数の低下を反映して、うつ状態になるとシナプス活動が低下し、それをケタミンによって回復させられることを明らかにしている。すなわち、スパイン形成は生理学的変化と並行している。

さらに、行動とスパイン形成、シナプス活性をつなぐ目的で、マウスの尻尾を持ってぶら下げたときに体を元に戻そうと努力するモチベーションを調べるテストを用いて、それぞれの関係を調べている。このテストで見ると、うつ状態では元に戻す意欲が低下しているが、ケタミンで回復させることができる。

この3つの指標を同時に調べると、行動に対するケタミンの効果は、スパインの回復に先立って起こり、神経回路の回復と一致している。したがって、スパイン自体はケタミンによる神経活動の回復による二次的効果であることがわかる。次に、東大の河西さんたちが開発した方法を用いてスパインを消失させ、ケタミンの効果を調べることで、ケタミンにより神経活動が回復した結果として形成されたスパイン形成は、体を元に戻そうとするモチベーションが長期間維持されるために必要であることも示している。

以上は全てモデル動物の話だが、このような基礎的研究の上に新しい薬剤を地道に開発する努力が必要かと思う。その意味で、新しい点鼻薬についても、くり返し投与がどのような効果があるのか調べてみたいと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ