5月12日 CRISPR/Cas 阻害剤の開発(5月2日号Cell掲載論文)
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5月12日 CRISPR/Cas 阻害剤の開発(5月2日号Cell掲載論文)

2019年5月12日
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CRISPR/Casの研究も、徐々に成熟期を迎え、画期的な技術の開発にはかなり新しい発想の研究が要求されるようになっているが、一方技術の利用については人間への臨床応用も含め着実に身を結んでいると言える。ずっと前から言っているが、ノーベル賞はまちがいなく、またいつ受賞してもおかしくない。

こんな成熟度を反映して、Cas9とガイドRNAの結合を阻害する化学化合物の開発論文がハーバード大学から5月2日のCellに発表された。タイトルは「A High-Throughput Platform to Identify Small-Molecule Inhibitors of CRISPR-Cas9(CRISPR-Cas9を阻害する小分子化合物を特定するハイスループットプラットフォーム)」だ。

自分でCRISPR/Casを使っているわけではないので、Cas9の阻害剤が実際にどのぐらい必要なのか実感がないが、オフターゲットサイトへの活性や、さらに特異性を上げるためには活性を小分子化合物で調節できるようにすることは、この技術のさらなる発展に必須だというのが著者らの主張だ。

その上で、論文自体は現在の薬剤開発はどう行われるのかを知るための格好の論文になっているので、薬剤の開発過程の段階を追って紹介する。

この研究ではCas9とガイドRNAのPAM配列との結合を蛍光偏光法を用いて測定する方法を開発してる。様々な条件検討を行い最終的にPAMが12個繰り返すDNAを用いて安定した結合アッセイを確立している。

同時に、試験管内のスクリーニングで得られた化合物の活性を測定するための細胞システムを3種類用意している。例えばCas9が働いたとき蛍光が消えるような細胞を用いるアッセイを用意している。

このスクリーニングとアッセイ方法を確立した上で、まず約10万種類の化合物を試験管内の結合アッセイを用いてスクリーニングし、水溶性で活性の高い化合物BRD7087を突き止めている。また、細胞を用いた方法でも活性があること、細胞毒性がないことを確認している。

次に、いわゆるメディシナルケミストの独壇場とも言えるリード化合物を少しづつ変化させて更に利用しやすい化合物へと改良する過程を通して、最適化した化合物BRD0539を開発している。

その上で、結合メカニズムの解析を行っているが、この研究ではタンパク質と化合物の立体構造解析ではなく、化合物の方を少しづつ変えて結合状態を推定する比較的古典的な方法で決めている。このようなデータは、同じ化合物をさらに至適化するのに必要になる。

この研究では更に進んで、遺伝子ノックアウトだけではなくガイドで指定された場所で転写を活性化できるCas9を用いて阻害活性を調べ、このアッセイでは同じリード由来のBRD20322,BRD0048という化合物の方が活性が強いことを示している。

結果は以上で、なるほどご苦労さんと言った感じの研究だ。実際これらの化合物をどう使えばいいのかは、生物学者の発想にかかるだろう。ただ、転写を止めるというシステムは、可逆的なので、新しい遺伝子ON/OFFの系として広く使われるようになるのではと感じる。

いずれにせよ、化合物はこうして開発しますということを勉強するにはよく書けた論文だと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ