5月23日 神経幹細胞は脳外のガン組織に移動してガンの増殖を助ける(Natureオンライン版掲載論文)
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5月23日 神経幹細胞は脳外のガン組織に移動してガンの増殖を助ける(Natureオンライン版掲載論文)

2019年5月23日
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昨日に続いて気楽とはいえ、ちょっと意外な論文を紹介する。フランシス ジャコブ生物学研究所からの論文で、なんと癌組織に脳から神経細胞が移動してきてがん細胞の増殖を助けると言う研究だ。タイトルは「Progenitors from the central nervous system drive neurogenesis in cancer (中枢神経系由来の前駆細胞がガンの神経形成を進展させる)」だ。

この論文を読んで初めて知ったが、前立腺ガンでは昔から神経細胞が新しく形成されるため、支配する神経節の細胞数が増えること、アドレナリン作動性の交感神経を切断するとガンの増殖を抑えられること、さらにコリン作動性の副交感神経を切断しても同じようにガンの進展を抑制できることが知られていた。

この研究では最初前立腺ガンに存在するDouble cortin(DCX)陽性神経幹細胞の数と、ガンの悪性度を調べ、確かにDCX陽性神経幹細胞が多いほど予後が悪いことを確認する。

そして、Mycガン遺伝子を強制発現させた前立腺ガンモデルでも、同じようにDCX陽性細胞がガン組織内だけに形成されること、さらにこの細胞は試験官内で神経へと分化できる前駆細胞であることを発見する。通常の神経再生なら、神経節から神経が伸びるのだが、この場合は明らかに神経幹細胞がまずガン組織に定着しているので、中枢神経系の神経幹細胞由来である可能性が高い。そこで、ガン発生過程で脳内の神経幹細胞の動きを調べると、subventricular zone(SVZ)と呼ばれる幹細胞の存在する領域でだけ、幹細胞数が激しく上下する。

そこで、SVZを蛍光遺伝子を持つウイルスベクターを感染させて腫瘍に移動するかを調べると、なんとまず血液循環に入った後、ガン組織に定着することがわかった。一方同じ幹細胞が存在する領域でも海馬の歯状回をラベルしても神経の移動は認められない。また、SVZ幹細胞を標識したマウスに、乳ガンを移植した場合も、ガンの定着が見られる。

最後にガン組織内に定着した神経細胞をもう一度毒素で除去できるようにした遺伝子操作マウスを用いて調べると、神経幹細胞の供給がない場合は発ガンも、移植ガンの増殖も抑えられることが明らかになった。

以上の結果は一部のガンでは、何らかのメカニズムで神経幹細胞の血液への侵入が誘導され、ガン組織に定着して様々な神経伝達分子を分泌することでガンの増殖を助けることを示している。

話は簡単だが、本当にそうなのか、他の可能性はないのか読んだ後も完全に納得しにくい論文だった。

カテゴリ:論文ウォッチ