6月8日 細胞増殖を変化させる変異は正常細胞に常に起こっている(6月7日号Science掲載論文)
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6月8日 細胞増殖を変化させる変異は正常細胞に常に起こっている(6月7日号Science掲載論文)

2019年6月8日
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がん細胞が現れる前から、正常細胞で起こった遺伝子変異やエピジェネティックな変異によって細胞の増殖が高まり、他の細胞を押しのけてクローン性増殖が起こることはよく知られた事実で、食道のバレット症候群細胞のようにガンのドライバー遺伝子と、がん抑制遺伝子の欠損といった発ガンのための必要なセットがすでに揃ってしまっているケースすらある。この結果は、ガンと正常の境はガン遺伝子の変異といった以上に複雑であることを示しており、このような正常細胞の異常増殖を系統的に調べることの重要性を物語っている。

今日紹介するハーバード大学Broad研究所からの論文はなんと29箇所の異なる組織から7000近いバイオプシーサンプルを取り出して正常細胞の増殖変異を調べた研究で6月7日号のScienceに掲載された。タイトルは「RNA sequence analysis reveals macroscopic somatic clonal expansion across normal tissues (RNA配列解析により正常組織全体で体細胞のクローン性増殖拡大がみとめられる)」だ。

これまで同じような目的の研究は数多く報告されているが、クローン性増殖を調べるためにゲノムDNAの変異が調べられた。ただ、この場合異常細胞を詳しく調べるためにはDNA配列の解析を何百回も繰り返す(ultradeep sequencing)必要があった。今日紹介する研究の売りは、 DNAの代わりに、発現されているRNAの配列からゲノムでの遺伝子変異を推察する方法を開発したことで、詳細は省くがRNAをDNA変異の指標として用いる時の問題を、比較的簡単な条件の導入で解決している。従って、この論文の最初は新しいRNA-MuTectと呼ばれる方法が、DNA解析と同じレベルの変異解析精度を持っていることを詳しく示している。また、allelic imbalanceとして知られる対立染色体の変化もこの方法で検出できることまでしめしている。

あとは、29組織、7000近いバイオプシーサンプルをRNA-MuTectで解析し、ほとんどの組織で突然変異が起こった細胞がクローン性に増殖していることを明らかにしている。なかでも、皮膚、肺、食道ではこのような変異が最も多くみられるが、これはガン細胞での変異の数を調べたこれまでの結果と全く同じだ。

これも予想通りだが、変異は年齢とともに蓄積し、皮膚で見ると太陽にさらされたところが圧倒的に変異数が多い。

変異により細胞の増殖優位性が生まれる変異のなかに多くのガン遺伝子は含まれているが、ガンでは圧倒的に変異の数が多いRAS遺伝子の変異は思いのほか少ない。すなわち、増殖が高まっても、ガンとは異なるメカニズムによる増殖が起こっているようだ。ただ、p53とNotch1の変異は、他の遺伝子と比べて4倍近く認められることから、最初のクローン性増殖はまず増殖抑制メカニズムが外れることで起こることを示唆している。

話はこれだけで、ほぼ予想通りの結果で、要するに身体中で突然変異が蓄積していることを示している。従って、この研究の売りはあくまでRNA-MuTectの開発といっていいだろう。おそらくこのような結果は、外界の発がん物質との関係を深掘りするより、ゲノムレベルでのガンになりやすさと合わせてみていくことで、かなり重要な情報が得られるように思う。

カテゴリ:論文ウォッチ