6月11日 理想的前臨床研究:FragileX症候群の発達期ロバスタチン投与による治療の可能性(5月29日号Science Translational Medicine掲載論文)
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6月11日 理想的前臨床研究:FragileX症候群の発達期ロバスタチン投与による治療の可能性(5月29日号Science Translational Medicine掲載論文)

2019年6月11日
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Fragile X症候群(FXS)は、知能障害と自閉症が合併する遺伝病で、まだ完全に機能がわからないFMR1遺伝子の機能が、遺伝子内のCGG繰り返し配列の数が増加することで失われることで起こる。昨年2月にこのブログで紹介したように、FMR1遺伝子の機能が失われる理由はCGGリピート配列がメチル化されて遺伝子の転写が抑えられることで、メチル化をはずすことでFXSを治すことができる(http://aasj.jp/news/watch/8091)。

しかし、クリスパーを用いるこのような治療は将来の切り札にはなっても、まだまだ開発に時間がかかる。そこで、FMR1遺伝子欠損によるプロセスを解析して、FMR1以外の治療標的を探す試みも行われ、現在多くの薬剤が治験段階にある。その中の一つが、高脂血症に用いられるロバスタチンで、マウスモデルでシナプスの変化を正常化できることがわかり、現在8歳から55歳までのFXSの治験が進んでいる。

今日紹介するエジンバラ大学からの論文はロバスタチンを脳の発達がおこるもっと早い時期に投与すれば、よる根本的な治療が可能になる可能性を確認するためのラットを用いた前臨床研究で5月30日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Sustained correction of associative learning deficits after brief, early treatment in a rat model of Fragile X Syndrome (ラットFXSモデルを早い時期に短期に治療することで連合学習を長期にわたって正常化できる)」だ。

FXSは通常3歳ぐらいで知能異常や自閉症が発見される。この研究では、異常が発生する早い時期にロバスタチン治療の効果を調べることを目的としており、まず脳の様々な認知機能の発達をFXSラットで調べ、生後4-6週から発達する、複数のインプットを連合させる学習が必要な場所対象認識や場所と文脈を組み合わせた対象の認識機能だけが、選択的に抑えられることを確認する。

つぎに、ロバスタチンを5週から餌に混ぜて投与し、連合学習脳を調べると、ほぼ完全に回復していることを確認する。しかも、こうして正常化した機能は、ロバスタチンをやめた後も長く維持される。

さらにロバスタチン投与したラットの脳の生理機能についても調べ、FXSで見られる海馬のタンパク質合成の上昇をおさえ、前頭前皮質の興奮の長期増強の異常を正常化できることも示している。

結果は以上で、基本的には脳の発達の場合、発達時に早期介入してネットワークを形成できれば、いくら遺伝的欠損があっても、機能を維持できるという前臨床的証明で、現在のロバスタチン治験と並行して、3歳までの介入治験の必要性を示している。

このようにFXSはロバスタチン、メトフォルミン、アルバコルフェンなど異なるメカニズムの薬剤の治験が進んでいるし、また遺伝子やエピゲノムを操作する研究も進んでおり、近い将来に治療法の確立が期待される遺伝病の一つになっている。

ただ、FXSでの経験は、他の原因による自閉症や知能障害を早期介入して治療する方法の開発にとっても、様々なヒントを提供してくれることは間違いない。その意味で、発達障害を持つ多くの子どもたちの期待を集めている分野だと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ