6月27日 米国の個人ゲノム事情(7月3日号The American Journal of Human Genetics掲載論文)
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6月27日 米国の個人ゲノム事情(7月3日号The American Journal of Human Genetics掲載論文)

2019年6月27日
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今我が国が陥っている袋小路は、21世紀に入っても、世の中が20世紀と同じ階層性を維持して発展できると考えていることだろう。ジェレミー・リフキンの「第三次産業革命」では、20世紀の階層性の象徴が、地方に設置した巨大発電所から順番に電気を配分する構造をもつ原発として描かれている。しかし、21世紀は多くの分野でこの階層性が自然消滅する。例えば、個人が電気を生産し、peer-to-peerのネットに提供する構造には階層性がない。彼にとって原発が問題なのは、安全性でも経済性でもなく、それにしがみついておれば未来を失うからだ。このように様々な領域で階層性を排することが21世紀なら、原発に代表される階層性にしがみつこうとしている我が国は、21世紀型発展のチャンスを失うことになる。

同じ様に、健康や医療の領域でも、同じ問題が生じている。一番わかりやすいのが個人ゲノムデータで、自分でお金を払ってDNA解析を依頼しても、解釈については返事を受け取るが、生のゲノムデータを受け取ることはない。

一方米国では自分の生データは自分でダウンロードできる様になっているのが普通だ。すなわち、わが国では個人ゲノムといえども個人に返却しないのが当たり前になっている。結局、一回の検査として個人ゲノムが一般検査と同列で捉えられており、自分のことを何回もゲノムに戻って調べるという当たり前のことができない。当然面白くないから、わが国では個人ゲノム検査数は、延べでも100万に到達できていないのではないだろうか。一方アメリカでは2000万人を越し、3000万人に到達する勢いだ。

サンプル数は少ないがこの米国での状況を調べたのが今日紹介するワシントン大学からの論文で、7月3日号のThe American Journal of Human Geneticsに掲載予定されている。タイトルは「Third-Party Genetic Interpretation Tools: A Mixed-Methods Study of Consumer Motivation and Behavior(ゲノム解釈のサードパーティーサービス:顧客の動機と行動についての混合研究)」だ。

調査は個人ゲノムサービスを購入した顧客1000人余りに、以下の3つのトピックスに関わる問いに答えてもらい、個人ゲノム検査をどの様に使っているか調べている。

  • どのゲノム解析サービスを使っているか?
  • 生の結果をダウンロードしたか?
  • ダウンロードした結果を、他の会社のサービスを利用して使っている?

結果だが、テストを受けている人の7割が大学以上の学歴で、36%の人が1社だけでなく、複数の会社のテストを受けていることで、関心の高さをうかがわせる。

自分の遺伝的背景について知りたいという動機が1位で、病気のリスクを知りたいというのは3割しかない。驚くことに81%が生データをダウンロードするためにテストを受けている点で、個人にデータを返すことの重要性示している。

そしてほとんどの人が、自分のデータを他のサービスにアップロードして、その意味を調べようとしている。しかもそのうち8割近くが複数の会社を用いている。例えばプロメテウスは、健康についての情報を知らせてくれる会社で、GEDmatchは親戚探しの会社としてよく利用されている。また、この様なサービスにおおむね満足している。顧客も賢いと思うのは、健康リスクに興味のあるの年齢が若く、親戚探しの方は年齢が高い点だ。すなわち、高齢者のゲノム検査に対する需要もしっかり取り込んでいる。

他にも様々なデータが示されているが、要するにゲノム検査サービスを受けている人の大半が、自分のゲノム情報を自分で所有し、もし面白いゲノム解析サービスがあれば、積極的に利用している。

個人ゲノム検査だけでなく、ガン・ゲノム検査を見ていても感じるのは、21世紀に入ってもなお上から下という階層性にしがみついている我が国の姿だ。これは役所、政治家にとどまらず研究者も全く同じだと思う。知り合いの若者M君は個人ゲノムサービスに夢を抱いていたが、我が国の現状に幻滅して、アメリカで起業し個人ゲノムの情報を提供するサービスを続けている。

このような若者が失われる前に、個人のゲノムや健康データを自分で管理できるようにする一歩について真剣に議論しないと、我が国の活力はますます低下するだろう。

カテゴリ:論文ウォッチ